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(捕らえられるぐらいなら…)
陽炎は自ら命を断つ覚悟を固めた。
突然。
「女一人に、二人がかりか?」
男の声がした。
陽炎のやや離れた右側に、いつの
間にか、細身だが筋肉質な男が立っていた。
浪人の風体で、歳は三十ほどか。
長髪を後ろで無造作に、ひと括りに結んでいる。
太めの木刀を右手に持ち、肩に担いだ格好。
腰には刀は無い。
「何だ、貴様」
化彦が言った。
苛立っている。
「殺されたいか?」
「いや」
男が答えた。
まるで、緊張が見られない。
「殺されたくはないが、こんな卑怯を見逃せる性質でもない」
「邪魔するとでも?」
化彦の言葉に男は頷いた。
「ああ。俺は、こういう『無法』は嫌いだ」
「殺れっ! 針蔵っ!!」
化彦の叫びで針蔵が男へと突っ込んだ。
男は息を吸った。
そして、吐くと同時に木刀で針蔵の両手を打った。
(木刀が折れる!!)
陽炎が、そう思った瞬間。