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顔も身体もぐにゃぐにゃと変形し、瞬きひとつする間に、燐は陽炎が知らぬ男へと姿を変えた。
小柄で眼の細い男だ。
「どうだ、この化彦様の変化は? 声までそっくりだったろう」
愉快で、たまらないというふうに化彦が笑う。
「さあ、お前は生かして捕まえてやろう。誰の手下か吐かせねばならんからな。針蔵っ!」
化彦の声を受け、林の奥から、ぬっと現れた者が居る。
大柄な男だ。
山袴を穿き、上半身は裸である。
頭はきれいに剃り上げられていた。
「捕まえろ」と化彦。
針蔵の、ぶ厚い唇が開いた。
「おう」
野太い声。
「陽炎…」
陽炎の背後から焔の声がした。
弱々しい声だ。
「あたしはもう駄目だ…逃げろ、陽炎…」
「くっ」
陽炎が顔を歪める。
確かにこの状況では、焔の言う通りであった。
おそらく、燐はすでに殺されている。
自分一人だけでも生き残り、里に事態を報告しなければならない。
「行けっ! 陽炎っ!!」
深傷を負い、声も出ないはずの焔の必死の檄に陽炎は、弓から放たれた矢の如く走りだした。
化彦と針蔵を避け、斜め前へと突き進む。
「や」
これには化彦が泡を食った。
「針蔵っ!!」
化彦の声で針蔵が動きだす。
大柄であるにも関わらず、針蔵は速い。
陽炎は、あっという間に追いつかれた。