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忍びたちの後ろの草むらから、一人の侍が現れた。
黒の着流し姿で、長刀と脇差しを携えている。
この男、全身が包帯でぐるぐる巻きで、両眼と口の部分以外が一切、外からは窺えなかった。
異様な風体の侍に一喝された忍びたちは、ぴたりと口を閉じ、先ほどまでの騒がしさが嘘のように押し黙った。
「狂虎様のご命令は『門鐘の巫女』を無傷で連れ帰ること。お前たちの慰みものになど出来ようか。もう一度でも馬鹿を申せば、順番にその首をはねてやるから覚悟せよ。分かったか?」
包帯侍の言葉に五人の忍びは、こくこくと何度も頷いた。
「赤蜘蛛! 女を下ろせ!」
頭上の赤蜘蛛に包帯侍が大声で命じる。
赤蜘蛛は一瞬、躊躇したが渋々、桜を絡め取った糸を下ろし始めた。
突然。
生暖かい風が吹いた。
春の爽やかな風とは違い、何やら身体にまとわりつくような、ねっとりとした感触であった。
その場の全員が突風に打たれ、眼を閉じる。
一瞬の後、再び眼を開けた者たちは、一影たち五人の忍びと包帯侍のやや前方に、一人のすらりとした女が立っているのを見た。
紫色の着物姿。
剣士の出で立ちであった。
年齢は十代後半から二十代の前半の間か。
美しく涼やかな顔。
腰までの真っ直ぐな黒髪を束ねるでもなく、無造作に遊ばせている。