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突如、桜の頭上より白く太い糸が勢いよく飛来し、腰の回りにあっという間に巻きついた。
「あっ!」
桜が声を上げる。
糸はねばねばとして、取りさろうとした両手にも、余計にくっついてくる。
慌てる桜の身体を糸が軽々と吊り上げた。
「女、見つけた」
桜の頭上から、男の低い声がした。
桜が見上げると、木々の間に身体に巻きついてきた糸で作られた蜘蛛の巣が張り巡らされている。
巣の真ん中に、一人の忍び装束の男が上下逆さまになって張りつき、こちらを見下ろしている。
まとわりついた糸は男の両手のひらから出ていると、桜は気づいた。
「でかしたぞ、赤蜘蛛!」
今度は桜の下方から、かん高い声が聞こえた。
見下ろすと、草むらからわらわらと五人の小柄な男たちが走り出て、頭上の桜を指差し、笑っている。
皆、忍び装束だ。
桜は思わず、眼をしばたたいた。
頭上の忍びと違い、この五人は頭巾を被っていない。
その五つの顔が全員、そっくりそのままだったからだ。
五人は両手をばたばたと振って「女を下ろせ」と騒ぎ立てた。
「い…いやだ」
赤蜘蛛が首を横に振る。
「一影たち、手柄、横取りする」
ぽつぽつとした調子で話す赤蜘蛛の言葉に、五人の忍びはげらげらと笑いだした。
「赤蜘蛛の奴、前より賢くなったな」