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蛍火によると小諸信竜は二人の子供の行方を調べるよう、この里に依頼しているという。
頭領は沈思した。
このところ、国中の孤児を集め、忍びにするという流れは、あまり上手くいっていない。
子供の才を見抜き教育する要であった十蔵が里を去ってからは、特にその傾向が顕著であった。
使い物になる手下も、けして多くはない。
しかし、蛍火を傷つけられ「鳳衆」に敗れたままというのは癪に触るうえ、忍びの世界での評判を悪くはすれども、良くするとはとても言い難い。
何らかの意趣返しはせねばならぬ。
「陽炎はおるか?」
頭領が言った。
「ここに」
頭領が住む屋敷の奥の暗闇から一人の娘が、すーっと音も立てずに姿を現した。
さして美しいとも言えず、かといって醜くもない。
たまご型の顔に、やや細い両眼。
肩ほどまでの黒髪を無造作に後ろで束ねていた。
おそらくは、すれ違ったとしても印象の残らない娘、それが陽炎であった。