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狂虎が頭を下げ、くるりと空怪へと向きを変えた。
「婚礼の準備が整うまで、竜丸を牢に入れておけ。『門鐘の巫女』たちと同じ牢で良い」
狂虎が空怪に指示した。
竜丸は次から次へと起こる不測の事態に、頭が混乱するばかりであった。
こちらを見ている狂虎と再び、眼が合う。
恐ろしい。
恐ろしくはあったが。
何故か狂虎の眼を以前、どこかで見たような不思議な感覚が竜丸を捕らえて離さないのであった。
小諸城より蜜柑と竜丸が拐われた二日後、ある山あいに隠された忍びの里に朝方、一人の使者が訪ねてきた。
その忍びの里は、さして大きな規模ではなかったが、以前はそれなりに栄えてはいた。
しかし、下忍の一員であった虹丸という男が抜け忍となり、その直後に十蔵という上忍が抜ける大事件が起こると、二人を追った者たちが全員、返り討ちとなって死に、途端に里の勢いは無くなり、今まで細々と生き長らえてきたのであった。