12
今まさに連れ去られようとする弟の叫びに、地に伏せた蜜柑が顔を上げ、その双眸がかっと見開かれた。
蜜柑の瞳が銀色に輝く。
突如。
周りの空気が一変した。
重苦しい威圧感が蜜柑以外の全員に、のしかかった。
戸惑う人々は見た。
白い煙のようなものが、蜜柑の頭上をたゆたうのを。
煙は徐々にその濃さを増し、集まり始めた。
そして。
あろうことか、一人の男の姿を形作った。
腰に一刀を携えた若い侍だ。
「な…何だ…?」
飛刃が呟いた。
唇が微かに震えている。
空怪も驚きのあまり口を開け、煙を見つめている。
その場の全員があり得ざる事象に、ただただ呆然となった。
「そなたの名は!?」
銀色の瞳を輝かせた蜜柑が問うた。
その声は不思議な反響を伴っている。
「竜牙藤十郎」
煙の若侍が答える。
「ボクに力を貸して」と蜜柑。
竜牙藤十郎が蜜柑に頭を下げた。
「我が主君、信竜様のご息女は私の主も同様。喜んでご助力いたします」
「では竜牙藤十郎!!」
「はっ」
「いざ!」
「いざ!」
「「魂繋ぎ!!」」
二人の大音声。
竜牙藤十郎の煙の如き身体が蜜柑と重なり、青白い半透明へと変質した。
藤十郎が腰の刀を抜き、目の前で驚きのため棒立ちになっている忍びを一刀の元に斬り捨てる。