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虹丸は歯噛みした。
「情けない顔をするな」
虹丸の背後から聞き覚えがある男の声がした。
皆が声の主を見た。
蜜柑の頭上に白い煙が渦巻いている。
煙は三十代ほどの男の姿を形造っていた。
短髪で、やや面長。
男前だが、鼻の上に真一文字の傷がある。
「十蔵さんっ!!」
虹丸が叫んだ。
信じられないものを見た顔だ。
「よう、虹丸」
煙の男、十蔵が陽気に言った。
「ボクに力を貸して」と蜜柑。
「お前に力を貸して虹丸が助けられるなら、いくらでも貸す」
十蔵が答えた。
「では十蔵!!」
「いいぜ」
「いざ!」
「いざ!」
「早く殺せ!!」
白帯が絶叫し、自らも白刃を振るって突進してきた。
四人の忍びが慌てて続く。
「「魂繋ぎ!!」」
十蔵の煙の身体が青白い半透明となって、蜜柑と重なった。
十蔵の双眸が強烈な光を放つ。
次の瞬間。
白帯の刀が背後の忍びたちの首を次々とはね飛ばした。
白帯が間髪入れず、続けて自分の首をかき斬る。
五人は、ばたばたと地に倒れた。
「わ!? 何、何!?」
春馬が驚きの声を上げる。
十蔵の両眼が、人を操る力の成せる技であった。
「虹丸、所帯を持ったのか?」
瞳の光が収まった十蔵が笑った。
心底、嬉しそうだ。
「十蔵さん」
虹丸の眼が涙で潤んだ。
「あ!?」と春馬。
地面の白帯を指す。