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この女、蛍火という。
信竜が、とある忍びの里より、蜜柑と竜丸の護衛のために雇った女であった。
二十代後半か。
細身だが鍛え抜かれた逞しい肢体を着物の下に隠していた。
逆手に持った懐刀を油断なく、敵へと向ける。
本来ならば蛍火は蜜柑と竜丸を庭から屋敷の方向へと逃がすところであった。
が。
蛍火は飛刃の武器である変幻自在に飛ぶ刃を見た。
これでは二人を屋敷に走らせた場合、無防備な状態で攻撃される可能性がある。
よって、この場に留まり、城内の者たちが駆けつけるまで二人を守り通すと決めたのだった。
他の三人の侍女たちは皆、その場でへたり込み、ぶるぶると震えている。
「飛刃!!」
空怪が急かした。
飛刃が頷く。
腰につけた、くの字刀を両手に持って、二刀同時に投げた。
二枚の刃は、やや左右へと曲がり、その後、蛍火へと向かって示し合わせたように突進していく。
蛍火の懐刀が、きらめいた。
素早い動きで左右の刃を地面に叩き落とす。