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 マカロとナデコが魔王城攻略の中腹にある広間へと立ち戻るとそこには魔物の人だかりが出来ていた。


「パンコ、どうしたんだ?」


 それを掻い潜った先にパンコの姿を見つけて声を掛ける。


「おお、マカロにナデコ。よかった来てくれて。俺ではどうしようもなくて困っていたのだ」

「?」

「なんだってのよ」


 パンコが視線を向けて指し示すのにマカロとナデコも追随させてそちらを見ると三人の人間の姿があった。丁度魔物達はその三人を取り囲むように群がっていたのだ。しかし、今は警戒しているのか襲い掛かる事はなく距離を取って見守っている。


 パンコが居たのもその魔物の輪の中だった。

 おそらくはパンコはこの三人と話していたのだろう。


「ティスか」

「それにチロスとタピカも」


 マカロとナデコが名前を呼ぶと仏頂面を隠さずに三人が視線をマカロ達に向ける。そしてそんな三人を代表するようにマカロがティスと呼んだ青年が一歩前に出ると軽く手を上げた。


「よぉ、マカロ」


 ぶっきらぼうな挨拶だった。それに呼応するようにチロスとタピカの二人も挨拶してくれる。

 やや粗暴な印象を受けるがこれでもティスは勇者であり、それに女戦士のチロスと魔法使いの少女であるタピカが一緒のパーティとして行動している。


 パーティ構成としては勇者に戦士に治癒師を兼任した魔法使いとマカロ達と非常に似通っている。まあ、パーティ構成などどこのパーティもそう変わるものでもないだろうが。


「よくここまで来れたな」

「ふん、俺達の強さなら来れて当然なんだよ。それを冒険者ギルドの奴ら過小評価しやがって」


 マカロが言うのにティスが憎憎しげに言った。


「過小評価か……」


 彼らもまた魔王討伐を目指す勇者のパーティだった。その実力はマカロ達に次ぐ力を持っている。俗に言えばナンバー2の扱いを受けているパーティ。

 ついに魔王城を攻略するとなった時、候補に挙がったのはマカロのパーティとティスのパーティの二つだった。


 冒険者ギルドが選定をした結果、ティス達では魔王城の魔物を相手にするにはレベルが足りないと判断されマカロのパーティが魔王城攻略しいては魔王討伐を任される事になる。


「パンコ、ティス達が来た事どう思う?」

「ふむ、彼らが強くなったのではなく魔物が弱くなったのだろう」


 冷静な評価だ。

 パンコは他人を思いやる優しい男だが、こと武の事となるとお世辞を言う事はまずない。そして相手を軽んじる事もない。

 パンコの戦士を見る目は確かなものだし、マカロの考えもそれと同じだった。


 本人は過小評価されたと言っているが、実際に魔王城の深奥まで攻略し魔王の間まで辿りついたマカロの印象からすればギルドの選定はそう外れたものではなく実際ティス達では魔王城に徘徊する魔物を相手にするのは無理だっただろう。


 それでも彼らがこうして魔王城の中腹までやってくる事が出来たのは、魔王の衰弱によって魔物のレベルが急速に下がり弱体化しているからだ。


「参ったな。他のパーティが来る事は想定してなかった」

「おいこら、聞こえてんだよ。随分な言いようだな。こちとらいつまで経ってもお前等が戻って来ねぇから様子を見に来てやったっていうのに。来てみればなんだこりゃ。何魔物相手に仲良しこよししてやがる」


 ティスはマカロを睨みつけると、低い声で続けて言った。


「しかも、魔王は病気で息を絶え絶えでお前等魔物と一緒に看病してるらしいじゃねぇか。なんで殺さない?」


 マカロはパンコをちらりと見る。

 パンコは少し罰の悪そうな顔をすると、


「ああ、全部話してしまったのだが、まずかっただろうか?」

「いや、問題ない」


 マカロは小さく首を振ると、再びティスに向き直った。


「俺達が直接手を下さなくても魔王はすぐに死ぬ。なら、あえて戦って倒す必要もないと思っただけだ。俺達の事を心配して来てくれたのは嬉しいが、無事だとわかったのだからこのまま帰ってくれないか」

「そういうわけにはいかねぇな」


 マカロが淡々とした口調で言うのを突っぱねるようにティスがにやりと口角の端を上げた。


「俺達は正式なクエストの依頼を受けてやってきている。お前等が魔王討伐に失敗していた時は代わりに魔王を討伐するようにな。こっちも手ぶらじゃ帰れねぇんだよ」

「つまり、ティス達も俺達と一緒に魔王が死ぬのを待つという事か」

「そんなわけねぇだろ。お前等がやらないってんなら俺達が魔王を殺すって事だよ。わかったらさっさとそこをどけ」


 ティスが手で払うような動作をするのに、取り囲む魔物達がざわりとする。


「嫌だと言ったら?」

「別に勝手に行くだけだ」

「そうか、なら仕方ないな」


 マカロはふっと息を吐き出すと、スラリとブロードソードを鞘から引き抜いた。


「おいおい、どういうつもりだ。まさか勇者のお前が魔王の為に人間の俺達と戦おうってんじゃないだろうな」

「そのつもりだ」


 ティスが訊ねるのにマカロが低い声音で肯定した。


「ちょ、ちょっとマカロ。本気なの?!」


 それを受けてナデコが慌てた様子でマカロの袖を掴む。


「相手が力ずくでも通るって言ってるんだから相手をするしかないだろ」

「いやいや、そこまでは言ってなかったでしょ。あなた達も見てないで止めてよ」


 ナデコは困惑した表情を浮かべると、パンコ、それにティス側にいる戦士のチロスと魔法使いのタピカに助けを求める。

 しかし、その反応は彼女の求めていた反応とは違ったものだったようだ。


「なぜ、止める必要が? 揉め事は武を持って諌めるのが我が国の慣わし、考えを違えたというのならば存分に戦い意を決するがいいでしょう」

「うむ、よく言ったチロスよ。それでこそ我が国の民よ」

「はっ、身に余るお言葉です」


 パンコが褒めるように言うのに、チロスがきびきびとした動作で軽く頭を下げた。


「ナデコ先輩実は私に負けるのが怖いんじゃないですか」


 それに続いてクスクスと笑い声と共にタピカが言った。


「いや、だからそういう問題じゃなくてさ……」


 ナデコが頭を抱えていると、


「まあ、諦めろよナデコ。お前んとこの勇者様はすっかり頭がイカれちまったみたいだぜ。こっちとしても後には退けない。それに魔物が弱体化したからここまで来れたとか失礼な事言ってやがったからな。ここらではっきりさせてやるのも悪くねぇ。魔王をぶっ殺す前にどっちが勇者のパーティとして最強か決めようぜ」


 そう言うと、ティスが剣を構えた。

 それに呼応してチロスとタピカの二人も武器を構える。


「パンコ様、我が王よ。これから働く無礼をお許しください」

「よい、我が国の流儀に従いお互い悔いのない戦いをしよう。今は立場の違いを忘れて存分にかかってくるがいい」


 チロスが恭しく礼をするのに、パンコが不敵な笑みを返す。


「ナデコ先輩ともあろうお方がビビリとは、ナデコ先輩のようなビビリが魔法学院の首席では学院の格が落ちるというものです。私がナデコ先輩を倒して魔法学院最強です」

「だから、そういう問題じゃないんだけど」


 えらく張り切っているタピカにナデコが溜息を吐く。

 そんなナデコにマカロが声を掛けた。


「悪いナデコ、そういう事になった。覚悟を決めてくれ」

「……っ。ったくもう、仕方ないんだから……」


 ナデコがマカロの袖を離し覚悟を決めて杖を構えた時だった。


「あの勇者様、お取り込みの所よろしいでしょうか」


 遠慮がちに囁くような声音がマカロの足元から聞こえてくる。

 そこには小さな手の平サイズのスライムの姿があった。


「ミニスライムじゃない。どうしたの?」


 ナデコが話しやすいようにスライムを手の平に乗せてやると、ミニスライムは恐縮した様子で話し始めた。


「はい、魔王様の世話をしておりますスライムより使いとしてまいりました」

「何かあったのか?」


 魔王に何かあれば知らせるようにと頼んでいた。

 使いのスライムがやってきたという事はそういう事なのだろう。そんなマカロの予想通り使いのスライムは「はい」と恭しく礼をすると、


「魔王様が危篤です。勇者様、はやくこちらへ」


 そう言って魔王城の深奥へと誘う。


「ああ――いや……」


 マカロは頷きかけてからティス達に注意を戻す。

 ここで魔王の間に行ってしまえばティス達もついてくる事になってしまう。しかし、ティス達を倒してからでは間に合わないだろう。

 マカロが思考を錯綜させていると、


「マカロここはわたし達に任せて行って」


 ナデコのはっきりとした声が響く。


「いや、しかし……」

「いや、しかし。じゃないよ」


 迷った様子のマカロにナデコが背中を押すように言った。


「どっちみち誰かが魔王の死を確認する必要があるんだよ。だったらそれはマカロの役目でしょ。わたし達は勇者を魔王の元に運ぶ為にここにいるんだから――」


 そこまで言うとナデコはパンコにアイコンタクトを送ると、それを受けてパンコが頷く。


「ティス達の相手はわたしとパンコでする。だからマカロは魔王を看取りに行って」


 ナデコの力強い声音。


「二対三になるが大丈夫か?」

「これまで共に戦ってきた仲間の力が信用出来ぬのか?」


 パンコが軽い笑みを浮かべながら言う。マカロもそれにふっと笑みを漏らすと、


「いや、もちろん出来るさ。じゃあ、悪いがあいつ等のおもりを頼む」

「ふむ、了解した」

「うん、任せて」


 マカロが軽い口調で言うとパンコとナデコの二人が返事をする。


「じゃあ、はいこれ」


 そう言うとナデコは使いのミニスライムをマカロに手渡した。


「マカロ、全てに決着をつけてきて」

「ああ」


 ナデコの言葉にマカロは頷きを返すと手元のミニスライムへと視線を移す。


「よろしいのですか?」

「行こう」


 そしてマカロはティス達に背を向けると踵を返す。


「おい、マカロてめぇどこに行く気だ――――」


 ティスの怒鳴り声を背後に背負いながら、マカロはミニスライムと共に急いで魔王城の奥へと向かった。

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