序章・親子の別れ
ぱちぱち、と松明の燃える音がする。
そこには、真田昌幸と真田信之が向かい合って座っていた。
信之は、目を伏せていた。
手には石田三成がよこしたとされる書状を握っていた。
「父上、私は、石田の申すことに賛成できませぬ」
信之は首を振りながら、落着いた声で言った。
そして、書状を昌幸にまた手渡した。
昌幸は、ううむと唸るような低い声で、考え込んでしまった。
考えている時間がやけに長く感じた。
「それがお前の答えなのだな?」
「はい」
「そうか・・・・」
大きくため息を吐いた昌幸は、信之の目をジッと見つめた。
信之も昌幸の目をジッと見つめ返した。
嘘偽りはないと言わんばかりの目なので、昌幸は思わず息を呑んだ。
「私や信繁は西軍へ参ろうと想っていた。お前は東軍に参ろうと申すのか」
「はい」
信之は躊躇い無く頷いた。
親子が決別しても可笑しくない世の中であったのは昌幸は知っている。
しかし。
昌幸は、暫くの沈黙に陥った。
我が子と戦うことがあるやも知れない。
すると昌幸は何を想ったのか、にやと笑った。
「良かろう。お前の好きな道を歩むがいい」
「・・・え?」
「いやはや、お前と戦えるとは、楽しみだな」
昌幸は楽しそうに笑い声を上げた。
信之はそれを見ると、酷く気持ちが落ち着いた。
「達者でな。信之・・・・」
「はい・・・ッ」
親子はこうして袂を切ったのだ。