魔王は燃えるもの。
ここは、地下深くにある薄暗い地下室。
そこで邪悪な気を帯びた者がいた…
「ふっふっふ...! やっと出来たぞ!」
その者は、やっとの思いで自作した幾何学模様の魔法陣を眺める。
魔方陣は地下室の床を埋め尽くすほど...いや...壁や天井、至る所までに魔法陣が刻まれている。
そして魔法陣は、怪しげな紫の光を淡く放っている。
その紫の光により、その者の顔が照らされる。
そこにはツヤツヤ、サラサラとした紫の美しい髪を持った天使のような、美しい少女がいた...
「我は、魔王......そう、我が名はへル・グランテ。終焉の魔王の娘にして...終焉を導く者なr」
突然、一人語りを始めた自称魔王の言葉を遮る程の音が地下室内に響き渡る。
それは、開けられた扉と壁が当たる音。
「魔王様?夕食が出来上がりましたっ!」
そこには獣を模した耳が付いた、灰色のローブでフードを被った女の子がおり、被ったフードから銀色の髪をした短髪を覗かせる。肌は褐色で活発な印象を発している。
「っ!?......なんでレトが入って来るのだ〜!せっかくの自己紹介がぁ〜!」
その女の子は、ヘルにレトと呼ばれている。この子は、ヘルの配下の一人で戦力ナンバーワンに入る。と言ってもヘルの配下は二人しかおらず、その二人は雑用係でヘルの世話をしている。
そして、ヘルはレトが間が悪い時に入って来たので顔を顰めながら文句を言う。
「自己紹介って誰にしているのですか?」
「もう、面倒臭いのう...今は忙しいのだっ! 後なのだっ! 後っ!」
「では、冷める間に戻ってくださいねっ!」
「はぁ... 後で、行くのだ行くのだ〜!」
レトを適当に追い払い、部屋から出ていくのを見届ける。
「ふぅ... これで邪魔者は居なくなったのだ... さて、魔力装填部はどこなのだ?」
ヘルは、ため息を漏らしつつも、魔法陣を発動させる準備を始める為に、魔法陣の中に入ってキョロキョロと探す。
「ここか!」
ヘルは幾何学模様の一部の円に手を置く。するとヘルの手を置いた円を中心に紫の光が強くなったり弱くなったりして、波打つように点滅する。
「ふむ...欠損無しなのだ。我は魔王だし、当然なのだ」
その波が魔法陣全体に広がりきる。どうやら魔力が届かない所がないかチェックしていたようで薄く魔力の波動を起こしていたようだ。
「これで...父上の仇を討ってやるのだ...! 」
そしてヘルは先程の魔力とは比べ物にならない魔力を放出する。魔法陣は強く紫の光を放ち、膨大な魔力の放出の影響により視界が霞む。
「おぉ!!」
やがて、その霞む視界すらも見えなくなる紫の光により一瞬、視界が奪われる。それを予期していなかった為、声を上げて興奮する。
この魔法は召喚魔法の魔法陣。
それは引き篭る事しかできなかったヘルの最後の希望......
そして...視界が開けたその先には......
黒髪で制服を着た高校生の青年が立っていた…!
「はい? ...ここは......どこ...なんだ?」
黒髪の青年はキョロキョロと辺りを見回し、状況を判断しようとするが、理解することが出来ない。
そして、自然に目の前にいるヘルに視線が向く。
「うむ...ステータス表示。 名は、朝霧・悠太か...アサギリとは変な名前だな。そして、異能力『液体生成』なのだ。...なんだか弱そうなのである」
黒髪の青年の発言を無視し、あらかじめ魔法陣に組み込んでいたシステムでステータスを強制表示させる。
黒髪の青年とヘルの間に球体が現れ、その中に淡い水色のプレートが表示される。
______
【朝霧・悠太】
種族: <人族>
異能力: <液体生成>
______
そのプレートはヘル側からも見えるし球体の向こう側の黒髪の青年側も正面から見ることが出来る。
視覚的に視るのではなく、脳に直接送信されており、視覚化されている。
そのプレートには文字が書かれており、ヘルも黒髪の青年も読むことが出来る。
しかし、ヘルと黒髪の青年が見ているモノは違い、ヘルは魔道文字、黒髪の青年は見慣れ親しんだ日本語で表記されている。これも、脳に直接送信されている為、変換されてる。
「.....おい」
「なんなのだ? アサギリ」
「...ここは一体どこなんだ?」
「ここは魔王が住む城...リューズ山に建つリューズ城なのだ! そしてこの城の主にして魔王。名はへル・グランテ! 終焉の魔王の娘にして...終焉を導く者なり!!」
ヘルは長い言葉を言い終え、ドヤ顔を決めたのだった。
「やはり、異世界確定か。これはよくある異世界転移物だな」
「異世界転移物ってなんなのだ?」
ヘルの質問に朝霧悠太が頭を掻きながら言う。
「…気にするな。所で魔王、なんで俺を召喚したんだ?」
「我の目的は1つ!! 父を殺した伝説の勇者を殺す事なのだ! 奴は正義感が強く多くの国と関わっているのだ!周りの国を滅ぼせば出てくるはずなのだ!!だからまず、人数と土地が1番少ないエルフの国を滅ぼすのだ!! あそこなら森を燃やすだけで皆殺し出来るからのう!」
「ならーーぬ!!!」
朝霧・悠太は大声を上げ、ヘルの目的に口出しをする。
「召喚主たる、我に文句があるとでも?」
ヘルは自分の意見に口出しされた事にイラつき、威圧的態度をとる。
「文句有り有りだァ!! 異世界でエルフが居なくなるなど言語道断ッ!! ファンタジーと言えば、エルフだろうがァ! 居なくしたらこの世界ファンタジーじゃなくなるじゃねえか!!」(※個人的意見です。)
「なんと言っておるのだ〜! よく分かんないのだっ!! 我に逆らう事がどのような事か分かってるのか〜!! 」
「マジか!?まさかの武力交渉!? 一応、工業系の学校に進んだけど、俺そんなに筋力ねえよ!?」
「ふっふっふ!これは勝ったも同然なのd......あっ!?...」
ヘルは自分が喋っている最中に気づいてしまった…。
ヘルの戦い方は普段、城の中に篭もり侵入者が来たら、城に張り巡らせている魔法陣を発動し、処理する。
ここは地下室で部屋全体に召喚の魔法陣が書かれている為、魔法陣同士が重なってしまうと魔法陣が発動しなくなるため、重ねることが出来ないのでこの部屋に設置してある魔法陣は召喚の魔法陣だけである。
そんな事も露知らず、朝霧悠太は戦闘態勢に入った。
「先手必勝!! 液体生成!!」
そんな、無力な魔王を知らずに朝霧・悠太が遠慮無く異能力を使う。
ヘルの周りにヘルを覆う霧が現れた。
「あっつ!?」
その瞬間!!
その霧は勢い良く燃え、耳が痛くなるほどの爆発音が起こる。起こった後もそれは燃え続ける。
「っづづ!?ああああ!?............」
ヘルはあっという間に、炎に包まれ最初は熱がって苦しんでいたが突然、沈黙した。
「...やったか?いや...これフラグだった」
朝霧・悠太は、ヘルが燃えたことを確認する為、液体を生成するのを止める。
そして、燃料が無くなった為、炎は消滅していく...その消えた炎の中には...
「ううっ...いったがっだのだァ〜!!」
ヘルは泣きながらも生きていた。そう、服は所々燃えて無くなり、半裸の状態で.....
ヘルは炎によるダメージを受けた瞬間、体に刻んだバリアの魔法陣を使い、炎を遮断したのだ。そして、その火傷を負った皮膚を癒す為に、治癒の魔法陣を発動し回復したのだ。
ヘルは、体中に魔法陣を刻んでいる。と言っても三つ程のだけだ。一つ目と二つ目は先程の使ったバリアと治癒で三つ目は転移である。転移を使わなかった理由が、発動に時間が掛かるためである。
そして魔法陣は使うともう一度刻まないと使えない為、ヘルは奥の手を二つ使った事になる。
「よし! もう1回燃やすか」
「やめでほじいのだぁ〜!ヘルはなんでもいうこど、しだがうのだぁ〜!」
ヘルはこれ以上燃やされないため、朝霧・悠太の足に縋り付く。
「なんでも...か...」
朝霧・悠太はなんでも...という言葉を聞き、考え始めるのだった。
「あっ...」
そして、魔王様のヘルは、鬼畜なヤバい奴になんでも言う事、従うと言ってしまったのだった...