表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アタイVS妾w  作者: 抹茶ラテ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/5

物理現象!?♪

昼休みの喧騒に包まれた教室。アタイは窓際の席に、九十八キロの肉体をずっしりと預けていた。

 目の前には、ルチアが「シルヴィアちゃんに元気になってほしいから!」と持参した、低糖質だがバターの香りが芳醇なクッキー。そして、アタイの喉を潤す、冷え切った真っ黒な炭酸水。


「……ふう。やっぱり、冷たくて鋭い刺激は、頭を回すための特効薬だわ」


 アタイが優雅に(本人はそのつもりだ)クッキーを咀嚼していると、教室内が嫌な色に染まり始めた。

 取り巻きを引き連れ、香水の霧を振りまきながら進軍してくるのは、クラスの自称・美の女王、ベアトリクスだ。


「まあ! シルヴィア、あなた。朝から清潔ぶって、今日は随分とお澄まし顔じゃない。ドブ板のようなスコアを晒していた『ゴブリンおばさん』が、少し泥を落とした程度で人間になれると思っているのかしら?」


 ベアトリクスの取り巻きたちがクスクスと下品に笑う。

 ルチアが「ひどいよ、ベアトリクス!」と立ち上がろうとしたが、アタイはそれを肉厚な掌で優しく制した。


「……いいのよ、ルチア。せっかくの美味しいクッキーが、怒りで味がボケてしまうわ。今はただ、見ていなさい」


 アタイはベアトリクスを睨みつけることすらせず、炭酸水のボトルを窓枠の「ある一点」――学園の魔力換気ダクトが集中し、建物の振動が最も収束する共鳴点――に、ことりと置いた。


「あら、ベアトリクス。……そのお顔、今日は一段と素晴らしいわね」


 アタイは視線をクッキーに落としたまま、慈愛に満ちた、しかし冷徹な皮覚を込めた声で言った。


「もしかして、あの最高級魔道具コスメ!?香油!?重ね塗りの技術も実に見事……。ええ、本当に。今のあなたには、これ以上なく『お似合い』ですわ」


 ベアトリクスは一瞬面食らったようだが、すぐに勝ち誇った笑みを浮かべた。


「あら、おデブのくせに目利きだけは良いのね。そうよ、これ一つで下民の一年分の生活費が飛ぶ最高級品よ。私のような選ばれた美しさにしか、この魔力の輝きは使いこなせないの。貴様のような汚物には一生、縁のない代物だわ!」


「ええ、本当に。あまりに繊細で、(もろい魔力構造ですものね)……」


 アタイの指先が、ボトルのキャップを「トントン」と、一定のリズムで叩き始めた。



 アタイが叩く微細な振動に魔力乗せて、窓枠を伝わり、建物の構造を抜けて、離れた場所に立つベアトリクスの付近の空気を細かく震わせる。

 人間の耳には聞こえない、しかし「虚飾の涙」を構成する不安定な魔力粒子を根底から揺さぶる「不協和音」。


「何かしら、この音……? 耳の奥がキーンとするわ……。――っ、あ、熱い!? 顔が、顔が熱いわ!」


 瞬間、劇的な崩壊が始まった。

 ベアトリクスの「完璧な美貌」が、まるで熱した飴細工のようにドロリと溶け出したのだ。

 純白の粉がまだらに剥がれ落ち、下から現れたのは、過度な魔道具使用による副作用で赤黒く腫れ上がった、見るに耐えない素肌だった。


「ひっ、ひぃぃぃ!? ベアトリクス様、お顔が!」

「嫌ぁぁぁ! 溶けてる! 顔が溶けてるわぁぁぁ!!」


 教室中に悲鳴が響き渡る。

 ベアトリクスは必死に両手で顔を隠そうとしたが、指の間から黒い魔力の澱みが泥のようになって溢れ出す。


「見ないで! 見ないでぇぇ!! 嘘よ、これは私の顔じゃない――なにかの呪いよ!」


 アタイは遠く離れた席から、ようやくベアトリクスに視線を向けた。その目は、獲物を憐れむような冷淡な光を宿している。


「中身の伴わない偽物は、実にもろいものですわね。お可哀想に。せっかくの『お似合いの顔』が台無しだわ」


「この……! この不潔な肉塊がぁぁぁ!!」


 羞恥と屈辱に耐えきれなくなったベアトリクスは、醜い素肌を晒しながら、泣き叫んで教室を飛び出していった。

 静まり返った教室に、炭酸水の泡が弾ける音だけが響く。


「……プハッ。炭酸が効くわね」


 アタイは飲み干したボトルの喉越しを楽しみ、豪快に一息ついた。

 隣で口をあんぐりと開けて固まっているルチアの頭を、アタイはポムポムと優しく撫でる。


「……シ、シルヴィアちゃん。今、何が起きたの……? ベアトリクスの化粧が……」


「ただの物理現象じゃないかしら!?♪」


 すると、少し離れたところで事の鎮末を黙って見ていたレイヴェルが、苦笑いしながら近づいてきた。

 彼はアタイの空になったボトルのラベルをちらりと見て、感心したように呟く。


「……何かしたなら恐ろしい女だ」


「あら。やっていませんわ!それに最高の紳士を誇る風紀委員長様が、淑女に対して『恐ろしい』なんて。マナーがなっていないわね、レイヴェル」


 アタイはわざとらしく扇子(の代わりのノート)で口元を隠し、三重あごを震わせて高らかに笑った。


「ふふ……ふふふっ。さて、次はどの不敬な『歪み』を正してやろうかしら」


 虚飾の仮面を剥がしたのは、反逆という名の巨大な術式の、ほんの一行目に過ぎない。

 アタイ――妾、元女帝イザベラは、かつての知略と現代のこの「重すぎる蓄え」を武器に、捏造された歴史そのものを書き換える決意を新たにする。


 窓から差し込む陽光が、アタイの油ぎった髪を、まるで黄金の冠のように照らしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ