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勇者として召喚されたなんて知らなかったから異世界で農家になりました  作者: ほげえ(鼻ほじ)
娘さんを僕にください -結婚編-
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挨拶へ行く前に、ツヴァイからこっそり言われたことがある。



今の魔王は人間と和平を結びたい、理解のある魔王である。ヨシュアが人間に召喚された勇者であることを正直に話すこと。


ヨシュア自身はどちらの立場でもない中立だが、メルとの結婚のこともあるため人間と魔族の和平を望んでいること。


和平交渉のために、勇者であるヨシュアが人間と魔族の間を取り持つこと。




これを切り札にしろと腹黒イケメンからの指導があった。



「僕勇者って自信ないもん」



「全属性で魔力量EXのうえにスキル3つもある人間は勇者以外存在しないから自信持って」



しぶしぶ了承する。

結婚の挨拶のときは護衛をつけず、メルと2人で行くことにしたので護身用の魔法の使い方をクリフに教わった。ヨシュアにもしものことがあっても皆は聖域で待機することで何かあってもすぐ逃げれるようにしたのだ。



そしてメルには、結婚の挨拶へ行く前に話しておきたいことがあると時間をとってもらった。


ヨシュアがはぐれ魔族ではなく、人間で、しかも勇者であることを伝えるためだ。

ずっと隠していたが、結婚するのであれば隠し通すのは不可能だ。



「メル、今まで黙っていて本当にごめんなさい。実は僕、人間なんだ。しかも勇者らしい。自覚はないけど」



メルはまっすぐヨシュアを見つめる。

ふっと微笑み口を開いた。



「ーー知ってますよ」



「うそ!どこで気づいたの!?」


ヨシュアはずっと隠していたつもりだったため思わず聞き返す。


「どこで、というわけじゃないんです。本当は最初から知ってたんですよ。ヨシュア君、私もずっとヨシュア君に隠していた事があります」


「なに?」



メルは悩むそぶりを見せた。父である魔王は結婚に前向きに考えてくれている。種族の壁で結婚が難しくても、二人の人生を歩めばいいとまで言ってくれている。


ヨシュアが自身の秘密を明かしてくれた今が、自分の正体を告げる最大のチャンスなんだと思う。


だが、いざ言うとなると躊躇してしまう。



「言いにくいなら、無理しなくていいよ。自然と言えるときで大丈夫」



こちらを気遣うヨシュアの発言で気持ちは決まった。優しい彼に騙し討ちのような真似はしたくない。



「実は、私は魔王の幹部の娘だと伝えていましたが、嘘なんです。本当は、魔王の娘、メル。魔力結晶を失っていなければ、次期魔王として魔族をまとめていくはずでした」



「・・・え?」



「ヨシュア君の情報は、早い段階で王城に伝わりました。虹の鳥の羽や聖域のキノコは魔族にとっては幻の品です。偽物なら摘発すれば終わりますが、本物が出回っているなんて異常事態です。出所を調査したところ、それらを定期的に売りに来るはぐれ魔族がいると、魔族の街を調査してわかりました」



そんな早くから目をつけられていたとは・・・!!

ヨシュアは冷や汗が止まらない。



「報告では毒沼に捨てられたはぐれ魔族が聖域で採取したものを売っているとされていましたが、怪しい点があります。魔力結晶がなく、弱いはずのはぐれ魔族が通常の魔族でも手を焼くドラゴンの素材を納品していることや、人間が勇者を召喚した時期と、毒沼に捨てられた時期が一致していること」



ドラゴンを倒したのはヨシュアではなく、リズの筋肉によるものだが、それは置いておこう。



メルの説明によると、魔王は力を蓄え自らを殺しに来る勇者を召喚することを見逃さず、召喚の儀式に干渉した。


聖女は異世界とこの世界を繋ぐ門を創造し、門から王城までは魔導師達の魔力によって道を繋ぐ。魔王はその道の術式に干渉し、本来なら人間の王城へ召喚されるはずの勇者を、魔王城のそばにある致死性の高い毒沼へ繋げた。


確実に殺すため、毒沼に繋げたはずだった。術式への干渉も間違いなく遂行出来た。


しかし、勇者を始末したのと同時期から、怪しいはぐれ魔族が毒沼を抜けた先の聖域にいる。



召喚されたばかりとはいえ、勇者だ。毒沼を抜けて聖域で暮らしているのではないか。


その可能性も考え、調査のため送り込まれたのがメルである。



勇者かもしれない者の調査なんて、危険を伴う極秘任務だ。それを任せられるのは、まず魔力結晶を持たない者、そして極秘任務を任せられる者。


適合したのは、メルだけだった。



「ヨシュア君のことは、魔力量が多く、勇者である可能性が高いと報告しています。魔力量だけで勇者だと断定するには早いかと思いまして」



「そっか、じゃあ、僕は魔王に娘さんを下さいって挨拶に行くんだね」



「そうなります」



胃がやられそうだ。

今の顔色なら、きっと平安貴族も驚きの白さだろう。


今になってツヴァイの「魔王になれるくらいじゃないとメルとは結婚出来ないと思う」と言っていた理由が理解できた。



魔王の娘なのだ。結婚相手は魔王になれるくらいじゃないと認めてもらえそうにない。

ツヴァイはいつメルが魔王の娘だと気づいたんだろうか。





月日は流れ、いよいよ決戦のときは来た。



商談用の一張羅を着込み、手土産にヨシュア村のハーブティーギフトセットを用意。自分の事業アピールもすることで、お父様の心証を少しでもよくしようという魂胆だ。



「皆、行ってくるね!」



一生の別れになりませんように。本気で願い、ヨシュア村をあとにした。



空の旅では毎度お馴染みのメルさんグロッキータイムのため魔族の村で休憩する。魔王城行きの乗り合い馬車ならぬ乗り合い竜車へ乗車し、魔王城へと向かった。



「メルの実家って、やっぱり魔王城なの?」




「もちろん。臣下も重役達は家族で魔王城に住み込みなんです」



「・・・へー、そうなんだ」




実力主義の魔王城は、屈強な魔族達の巣窟のようだ。


ヨシュアは今、ドナドナされていく子牛の気分を味わっていた。


もしくは鮫の水槽に投下される前の小魚の気分である。


進んだ先には、死という絶望しか待っていないような、そんな気持ちだ。



竜車というファンタジーな乗り物ではしゃぐこともなく、脇あせをかきすぎて次の商品は脇汗パッドを開発しようと決めた。



竜車は終点の魔王城へ到着する。

到着してしまった。緊張で口から心臓と胃が出てきそうだ。



ヨロヨロと竜車から降りて魔王城へ向かった。



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