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義弟が引きこもりました

調子に乗って土人形に近づいて吹っ飛ばされた翌日。

朝一番にキースの部屋へ謝りに向かったのだが、まだ起きていないのか何度、ノックしても返事がなかった。

まあ、寝ているのを無理に起こすのも申し訳ないので朝食の席に出てきたらでいいかと思っていたのだが……

キースは朝食の席にも出てこなかった。


うちに引き取られてからキースが食事の席に欠席したことはなく、お父様もお母様もとても心配していた。

お母様に至っては「カタリナ、あなたが朝に部屋に行って何かしでかしたのではないの」と私を疑ってくる始末だ。失礼な!まだ、何もしていない!


それにしても、心配なので私は食事を終え、再びキースの部屋に向かった。

朝と同じようにノックを繰り返すが、いっこうに返事がないので私はドア越しに声をかけた。


「キース。私よ。カタリナよ。朝食に出てこなかったけど具合が悪いの?」


すると部屋の中から、弱々しい声が帰ってきた。


「……姉さん」

「そう、私よ。キースどうしたの?お腹でも痛いの?大丈夫?」

「……僕は何ともないです。それより姉さんの怪我は大丈夫ですか?」

「ええ、平気よ。ちょっと頭にたんこぶができただけよ。それより、キース。話があるのよ。部屋に入ってもいい?」


きちんとキースの顔を見て昨日のことを謝らなくては。

しかし……


「すみません。それはできません」


かえってきた答えは、はっきりとした拒絶だった。


「……な、なんで」

「……僕はもう姉さんの傍にはいられないんです」


そう言ったきりキースはもう何も言わなくなってしまった。

まったく、わけがわからない。なにこれ私、キースに嫌われちゃったの。


とにかく、このままではどうしようもないので部屋に乗り込もうとドアノブに手をかけるが、開かない。

どうやら、鍵がかけられているようだ。開けるようにキースに訴えるも返事はない。

どうしよう。このまま、私を嫌ってキースが引きこもりになったら……


キース部屋に引きこもる→孤独になる→そのまま学園に入る→主人公に出会い孤独を癒される→キース主人公と恋に落ちる→カタリナが邪魔になる→邪魔なカタリナ国外追放or魔法で始末する。


やばい!?やばすぎるよ!?このままじゃ破滅フラグ一直線だよ!!


そうして私が必死になって、ドアをこじ開けようと努力していると通りかかったアンが声をかけてきた。


「お嬢様、一体、何をなさっておいでですか?」

「キースがカギをかけて私を中に入れてくれないのよ」

「それは、お嬢様に入ってきて欲しくないということなのでしょう」


アンは冷静に憐みの視線を送ってきた。


「うっ、たしかに、そうかもしれないけど……でも、キースの様子もなんだか変なのよ」


そんな私のあまりに必死な様子に。


「とりあえず、そんなに入りたければ使用人部屋に各部屋の合鍵がありますけど……ってお嬢様」


アンが教えてくれるやいなや、私は使用人部屋へともうダッシュした。




しかし…そこで、なんとキースは合鍵をもって閉じこもっていることが明らかになった。

なんて、賢いのだキースよ。


しかし、これで確定した。キースは本格的に引きこもる気だ。

やばい、やばすぎるよ~。


これは、もう最終手段を使うしかない。そうして、私はある場所へと向かった。



目的の物を手に入れ、私は再びキースの部屋の前へと戻った。


「あ、お嬢様。合鍵はありましたか?……ってお嬢様、それは一体!?それで何をしようというのですか!?」


まだキースの部屋の前にいたアンが私に気が付いて声をかけてきたが、私の手にあるものをみて驚愕の声をあげた。そんな、アンに私は鼻息あらく返した。


「このドアをあけるのよ。このままキースが引きこもりになったら一大事なのよ!」

「ドアを開けるってまさかそれでですか!?それで、どうやってドアを開けるというんですか!?……まさかドアを壊すつもりじゃ……とにかく、落ち着いてとりあえず、その手にしているものを置いてください」


アンが必死になだめてくるが、私は引く気はまったくなかった。

だって、このままじゃ、折角、回避できると思った破滅エンドに向かって一直線になってしまうのだから。


「キース。ドアの近くにいるようだったら離れてね」


私は部屋の中にむかって声をかけた。


そして――庭の納屋から持ってきた斧をドアに向かって叩きつけた。


「お嬢様~~~!!」


ドアがバキバキ壊れる音とアンの絶叫が響きわたった。





ドアを破壊し、部屋に入るとキースがベッドの上で目を丸くしてこちらを見ていた。

まったく状況がつかめないといった様子だ。

後ろにいたアンは「お嬢様が~」とどうやら他の人に告げ口しに行ったようだ。

まあ、ドアのことはとりあえず、あとで謝るとして。まずはキースだ。


「……姉さん」


目を丸くして口をポカーンとあけているキースに、私は近づいた。そして……


「昨日はごめんなさい!!」


私は膝をつき頭を床に擦り付けた。いわゆる土下座だ。やっぱり誠心誠意で謝るにはこのくらいしなくてはいけないだろう。


「無理を言って、使いたくない魔力を使わせて本当にごめんなさい!!しかも、注意も聞かないで土人形に触ろうとして……心配かけてごめんなさい!!」


そういって必死に頭をさげていると。気が付けば、キースが私の隣にしゃがんでいた。


「……なんで、姉さんが謝るの……悪いのは僕なのに……」

「なに言っているのよ。悪いのは私よ!私がキースに無理を言ったのだから!!」


そう言って隣のキースをみるとキースは俯いていた。

キースがまるで絞り出すような声で言った。


「……姉さんは僕が怖くないの?」

「怖いって?」


一体どういう意味だろう。まあ、キースがこのまま引きこもって、主人公と恋に落ちてしまうと破滅フラグがたちあがり非常に怖いが……

それとも、何か、すでに嫌いになったから早々に私を始末したいとか……破滅がはやまった!?


「……僕は前の家で、魔力で兄弟を傷つけた。そして、今回は姉さんを傷つけてしまった。僕の魔力は強いけど、僕はその魔力をちゃんとコントロールできないんだ」


私はキースの言葉に固唾を飲む。

……だから、無理に魔力を使わせてしまった私が嫌になったのか……

くるのか破滅?くるのか?どうなんだ?


「……強力な魔力を持っているのにそれをコントロールできずに人を傷つけてしまう。……姉さんはこんな僕が怖くはないの?」


「……はへぇ?」


思わず、すっとんきょうな声をだしてしまった……

どうやら、破滅フラグじゃないようだ。


「……なんだ、そんなことか~~」


安心して、ためていた息を吐き出すと、俯いていたキースがはじかれたように顔をあげた。

きれいな青色の瞳と目があった。


「魔力がコントロールできないなら、これからできるように頑張ればいいじゃない」


現にゲームの中のキースはその強力な魔力をちゃんと操っていた。

いまのキースはまだ八歳だ。これから、訓練すれば学園に入る前にはきっとちゃんと魔力をコントロールできるようになるだろう。


「もうすぐに、魔力の家庭教師の先生がくるのだから、私と一緒に魔力の訓練をしていきましょう」


私はすっかり安心しきった腑抜けた笑顔で言った。

すると、ずっと黙っていたキースが声をだした。


「……姉さんは僕と一緒にいてくれるの?」

「もちろん!これからもずっと一緒よ、それともキースは私が嫌い?」


キースは大きく首をふった。どうやら、まだ嫌われてはいないようだ。

本当によかった。


「だから、今後は間違っても一人で部屋に引きこもったりしてはだめ……ってキースどうしたの!?」


ほっとして、目の前のキースをみれば……なんときれいな青い瞳からぽろぽろと涙を流しているではないか。


「キース!?どうしたの!?どこかいたいの?」


突然、泣き出してしまったキースに私は慌てふためいた。

さっきまでは普通に話していたのに!?私、何かしてしまった!?

小さな背中を必死にさするもキースの涙は引きそうにない。

そうして、キースは泣き続け、私は横でどうしていいかわからずあたふたしていると。



「……カタリナ、あなた一体、何をしているの?」


部屋の入り口から、まるで地を這うような低音ボイスが響きわたった。

振り返ってみれば、まるで般若のような顔をしたお母様が立っていた。


「カタリナ、怪我が治るまでは安静にしていると約束した翌日から……この部屋のドアの惨状はなにかしら……しかも、義弟をこんなに泣かして……あなたは一体何を考えているのかしら」


「あ、あのお母様……これは、その……」


私の体からスッと血の気が引いていく。まるでライオンの檻に入れられている気分だ。


「カタリナ。とりあえず、私の部屋にきなさい」

「……ひっ」

「キース、怖かったわね。これは連れて行くからもう大丈夫よ」


私の襟をつかんで引っ張りつつ、お母様は娘に向けるのとは真逆の優しい目をキースにむける。


「……おか、あさま、ちが…」


キースが顔をあげて何か言おうとしたけど、泣きすぎてうまくしゃべれないようだった。


気が付けば、部屋の前にはたくさんの召使さんたちが立っていた。しかし、こんな時に限って娘贔屓のお父様がいない。こうして、私の味方はなくお母様の部屋へと強制的に連行された。


その後、数時間にわたり鬼のような形相のお母様によるきついお説教がおこなわれた。



お母様からようやく解放され、疲れはてぐったりして部屋に戻れば、アンがお茶を入れてくれた。

優しさが心にしみた。告げ口の件は水に流そう。

お茶を飲んで、一息つく。

そういえばキースはあんなに泣いていたけど大丈夫だったのだろうか。

アンにキースは大丈夫だったか尋ねると。


「しばらくしたら、落ち着かれていたようです」

「そう、よかったわ。でも、キースったら突然、泣き出してしまって一体どうしたのかしら?」

「……お嬢様、お嬢様は鍵をかけていたドアを突然に壊され、斧を手にした人物が部屋に侵入してきたらどう思われますか」

「……うっ、それは……」

「私なら、恐怖で泣き叫びます」

「………後で、キースに謝りにいくわ」

「そうですね。……まあ、また怯えて泣かれてしまうかもしれませんが」

「………」


アンの冷静な突っ込みに私は意気消沈する。

確かに少し冷静になってみると斧でドアを壊したのはやりすぎた。

破滅フラグの予感にあわてすぎた。まず、はじめに鍵穴に針金を突っ込むところからやっていればよかった。


でも、もうやってしまったことは取り消せないので、とりあえずより怯えられているかもしれないキースの所へ関係の回復に向かうことにした。



しかし、そんな私の予想を裏切り、キースは笑顔で迎えてくれた。

それどころか「姉さんは何も悪くないよ。これからも僕と一緒にいてね」なんて最高に可愛いことを言ってくれた。しかも、お母様に私の弁明もしてくれたらしく、私は夕食抜きを逃れることができた。

私の義弟は可愛いだけじゃなくとても優しい。本当に最高の義弟だ。



こうして、『キース引きこもりになる事件かも!?事件』は無事に幕を閉じた。

今後も、キースが孤独にならないようにしっかり可愛がらなくては!



しかし、今回の件でお母様が自ら、私にマナーの訓練を行ってくださることになってしまった。


こうして破滅フラグこそ回避したが、鬼のようなお母様とマナーのお勉強という別の試練が立ってしまった。


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― 新着の感想 ―
元気なお子さんですね・・・
シャイニングなカタリナお嬢様を想像して笑ってしまいました!斧か〜剣習ってて勢いはすごいお嬢様だから…!斧か〜斧か〜!!続きも楽しみに読ませて頂きます。
[一言] どうする? 「マスターキー」をつかう 参考: https://ja.wikipedia.org/wiki/マスターキー
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