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義弟の魔力は強力でした

「カタリナ木から落ちて義弟を下敷きにする事件」「クラエス公爵夫婦離婚の危機事件」から早いもので数週間経った。


事件後は穏やかな日々が続いている。

魔力の家庭教師も決まり、数日後からいよいよ魔力の訓練も本格的にスタートだ。

義弟キースも段々と家に馴染んできたようで、私にもだいぶ懐いてくれているようだ。


強いて問題をあげるなら、腹黒王子のジオルド様が婚約からちょいちょい屋敷に顔を出すようになったことだ。

私が木から落ちたことも、どこから聞きつけたのか知っていてお見舞いだと顔を出してきた。


しかし、私はお見舞いされるような怪我などしていない。

きちんと義弟を下敷きにしたので無傷だったことを説明した。なおかつ、元野猿の異名をもつ身として「こいつ木にも登れないのか」と思われると悔しいので……木から落ちたのは調子に乗って油断したからでいつもなら、それは上手に登れることを熱く語った。

しかし、せっかくの私の熱い語りの間、ジオルド王子は俯き肩を震わせていたので、私の思いをちゃんと聞いてくれたのかは不明だ。



ちなみに「クラエス公爵夫婦離婚の危機事件」を乗り越えたお父様とお母様だが、もう娘として恥ずかしくなるくらいにラブラブになった。

もう、ことあるごとに二人の世界を作り上げてしまう。このままだともう一人弟か妹が出来そうな勢いだ。

申し訳ないが正直、はやく落ち着いて欲しいくらいだ。



そうして、ゲームではキースに冷たくあたっていたお母様だが……

夫の愛を確かめラブラブになった今では、夫に似た美形のキースを「キースはきっと大きくなったら旦那様みたいに素敵になるわ」とそれは溺愛するようになった。実の娘は放置気味だけど……

まあ、私の方にはいつものごとく妻ラブのお父様が「カタリナはミリディアナに似て世界一可愛い」とやってくるわけだけど……


こうして、ゲームではギスギスしていたクラエス家は、いつの間にかすっかりラブラブ家族になっていた。




キースと一緒に剣の稽古を終えてから、畑にやってきた。

私の可愛い義弟は、可愛く優しいだけではなく剣術の才能もあるようで、今日も剣の先生に褒められっぱなしだった。姉としても非常に鼻が高い。

私はといえば、いつものように剣を振る勢いの良さを褒められた。あとは動きのみだ。


畑の作物は順調に大きくなってきている。


「そういえば、姉さんはどうして畑を作っているの?」


だいぶ大きくなってきたきゅうりの苗を見ながら、キースが聞いてきた。


「そういえば、キースには話していなかったわね」


私は魔力を磨くため、己の魔力の源である土との対話のために畑作りをはじめたことをキースに説明した。

まあ、今では魔力磨きのためということもほぼ忘れ、ただの趣味的なものになっているのだが。


「……畑作りが魔力磨き…………たぶん何か間違っている気がする……」


話を聞いたキースはポカーンと口をあけ、その後なにやら一人でぶつぶつとつぶやいていた。

うん、なんか前にも同じような光景を見た気がするが気のせいだろうか。



「そういえば、キースには強い魔力があるのよね。どんなことができるの?」


キースは強い魔力を見込まれ、このクラエス家に養子にきたのだ。きっと土ボコとはくらべものにならないほどの力があるのだろう。興味津々でキースを見るとなんだか、こわばった顔をしている。


「キース、どうかした?」

「なんでもないよ」


覗き込めばキースは小さく首をふった。


「そうだ、私はね。これしかできないのだけど」


そういって必殺土ボコを披露すると。キースは笑顔になった。


「ちょっぴりだね」

「そうなの、ちょっぴりなのよ。本当はもっとドーンと土の壁を作ったり、土の人形を操ったりしてみたいのだけど……」


そういって、私がしょぼんとうなだれると。

「土の人形?」とキースが繰り返した。


「そうなの!土の人形を操ってみたいの!」


たしかゲームの中で土の魔力をもつキースが土の人形を操って、主人公をたすける場面があったのだ。土の人形が操れれば仕事の人件費はゼロ。きっといい商売が出来るだろう。国外に追放されたら、土の人形でひと財産を築くのだ。


「すごくやってみたいのだけど、やり方がわからないのよ。そうだ!キースならできるんじゃない」


だってゲームでキースが使っていた魔法なのだから。


「……うん…でも……」

「お願い!キース。少しでいいの!やって見せて!」


キースはなぜかひどく躊躇っていたが、私がどうしても、少しだけでいいからとしつこく頼むと。


「……じゃあ、少しだけ……」


としぶしぶ了承してくれた。


「やった~ありがとう!キース」


やった~~!これで、魔力で商売ができる!!

破滅を回避できるわ~~!むしろ、カタリナ財閥とか作れちゃうかも。

私は喜びのあまり小躍りした。




キースは前の家にいた時によく土で人形をつくって遊んでいたらしい。

そして、魔力が発動してから、その魔力を土に込めることでその人形が動かせると気が付いたらしい。


キースは庭の土で上手に十センチくらいの人形をつくった。なんと義弟は手先も器用らしい。

そして、その人形に両手を添えるとゆっくり目を閉じる。

しばらくして、キースが目をあけるとその人形がトコトコと歩き出した。


「す、すごいわ!!キース。動いているわ!人形が動いている!」

「魔力を土の人形に込めるとこうやって、僕が考えるように動かせるんだ」


興奮してキャーキャー騒ぐ私にキースが説明してくれた。


「サイズはみんなこのサイズなの?」


ゲームでは主人公を抱きかかえることができるくらいの大きさだった気がしたのだが。


「魔力をもっと込めると大きくすることができるよ………見たいの?」


私が期待に満ちた目でじっと見つめれば、キースが困った顔をする。

私は大きくうなずいた。

だって、十センチくらいの人形ではできることが限られてくる。ここはやっぱりドカンと大きい人形の方が商売の幅も広がるだろうし。

キースはそんな私にとても困ったような目を向けた。

しかし、私のそれはそれは期待に満ちた様子をみると、もう一度、人形に両手を添えてくれた。


すると、十センチ程度だった人形がいっきに三メートル近い大きさに変化した。

私は思わず歓声を上げた。


「本当にすごいわ!キース。あなたは天才だわ!ねえ、この大きさでも小さいときと同じように動かせるの?」


とても興奮しながら私が問えば。

「うん、同じようにうごくよ」と。


「お願い、動かして見せて!」

「……じゃあ、少しだけ」


三メートル近い土人形がドスンドスンと動き出した。

私は今世が魔法の国であることを改めて感じ、とてもとても感激した。

実は私は、自分の土ボコ以外の魔法を見たことがなかった。でも、土ボコはしょせん土ボコでしかなく魔法と呼ぶにはしょぼすぎた。


これが、魔法……

私の前世の世界に魔法は存在しないものだった。

でも憧れていた。もしも魔法が使えたならと思ったことも何度もある。

その、魔法が目の前にある。


触れてみたい……あの魔力で動く人形に触ってみたい。

そう思った、私は衝動的に人形へと駆け寄った。

後ろで、人形を操っているキースが何か言ったようだったが、興奮している私の耳には届かなかった。


私は人形に近づき、そして、手を伸ばした……


三メートルの土人形の腕が大きく動いたのはまさにその時だった。



たぶん人形の大きな腕が私の胸のあたりにあたったのだろう、その衝撃は私が考えていたよりも、ずっと強かった……


私の身体は高く宙を舞い、私は固い地面に頭から打ちつけられた……

ああ、最近こんなことばっかりだな……ついてないわ……

徐々に薄れゆく意識の中で、キースが何度も何度も私を呼んでいた……

あぁ、また優しい義弟に心配をかけてしまう……ごめんね、キース……


そうして私の意識は完全に途絶えた。





★★★★★★★



目が覚めると私は自分の部屋のベッドの上にいた。

目の前には涙と鼻水で顔がすごいことになっている中年男性―お父様の顔があった。


「カタリナ~~!!目を覚ましたんだね!!」


そう言ってお父様が私を抱きしめる。

その激しい抱擁を受けると、なんだか頭や体がズキズキする。

それに、お父様の涙とあと鼻水が……すごくついてくる。頼む、顔にだけはつけないで。

鼻水まみれの顔を擦り付けてくるお父様をはがそうと格闘していると。


「カタリナ、目を覚ましたと聞いたけど、具合はどう?」

と今度はお母様がやってきた。


「……具合?」

「覚えていないの?あなたキースがつくった土人形に吹っ飛ばされて、頭をうって気絶したのよ」

「……そうだった!!」


目覚めのお父様の鼻水がすごすぎて、なんで自分がベッドにいるのか考えるのを忘れていた。

最近はキース贔屓で娘にややそっけなかったお母様もさすがに心配そうだ。


「それで、具合はどうなの?医者は頭にこぶができているのと、背中が腫れている以外はとくに問題ないと言われたのだけど」

「そういえば、少し頭が痛いかも…本当だ、コブになってる」


頭に触れるとズキと痛みがあり確かにコブが出来ていた。背中も少しズキズキ痛んだ。


「まぁ。医者は数週間で自然と治るといっていたから。それまでは安静にしているのよ。庭にも治るまで出入り禁止よ」

「えー、そんな、畑の世話もあるのに~~!」


思わず抗議の声をあげるとお母様にギロリと睨まれた。


「わがままをいうなら、もう今後、庭への出入り禁止にするわよ」

「……そんな」

「治るまで、庭には行かない。大人しくする。いいわね!」

「……はい」


私は蛇に睨まれた蛙のごとく縮こまった。


「ねえ、アン」

私はそばに控えていたメイドのアンに小声で話しかけた。


「なんですか、お嬢様」

「私の記憶違いじゃなければ、お母様ってもっとおとなしい感じの人だったと思うのだけど……」

「そうですね、奥様はどちらかといえばおとなしい感じの方でしたね」

「やっぱり、そうよね。それがどうしてこんな強い感じになったのかしら……お父様とラブラブになって自信がついたのかしら?」

「……お嬢様、子供が問題児だと大人しい母親のままではやっていけないのですよ。奥様も子供のために変わらざるを得なかったのでしょう」

「子供が問題児って、何言っているのよ。キースはとてもいい子よ」

「…………本当に奥様が哀れでなりません」


そうして、アンとこそこそ話していて私は思い出した。


「そうだ!キースはどうしているの?」


私がそう声をあげると。それまで「カタリナ本当に良かった」と一人鼻水をかんでいたお父様が答えた。


「キースは、医者にカタリナは大丈夫だと言われてから部屋にもどしたよ」

「そうなの。怪我をした時にずっと私を呼んでいたのが聞こえたわ。心配をかけてしまったわ」


「カタリナ、そのキースのことだけれど」


お父様がいつもの親馬鹿な崩れた顔でなく、真剣な顔をして言った。


「なんですか?」

「キースはね。強力な魔力を持っているけど、まだそれをきちんと使いこなすことができないのだよ。だから、これから魔力の家庭教師に教えをこい、きちんと魔力をコントロールできるまでは魔力をむやみに使わないと約束していた。はじめにキースをカタリナに会わせた時にそのことを説明したよね」

「……そんな……」


そんな話聞いた覚えは……そうだ!?はじめてキースをお父様に紹介された時にお父様が何か話していたけど、自分のことに気を取られまったく聞いてなかったのだった。


「お父様、すいません。私、全然お父様の話を聞いていませんでした」

「まあ、そんなことだと思ったのだけどね」


お父様には苦笑され、後ろで聞いているお母様は呆れ顔だ。



「これはカタリナには話していなかったのだけど……キースは以前、住んでいた屋敷で魔力を暴走させてしまって兄弟に怪我を負わせているんだ。キースは自分の魔力の恐ろしさをよく理解していた。だから、キースが魔力を使ったと聞いてとても驚いたんだ」


私は魔法を見せてもらった時のキースを思い出した。あの時は興奮していてよく見えていなかったが、思い起こせば、キースはずっとこわばった顔をしていた。魔力を使うことをすごく躊躇っていた。


「キースがね。『勝手に約束をやぶって魔力を使い、しかも姉さんを傷つけてしまった。全部、僕が悪いから、どんな罰でもうける』と言ってきたのだよ」

「そんな!?キースは悪くなんてないわ!私がキースに無理を言って魔力を使わせたのよ!……それに……」


三メートルの土人形に駆け寄った私にキースは言ったのだ……興奮した私は聞き流してしまったけど……

キースは確かに言ったのだ『危ない!姉さん近づいては駄目だ!』と。



「……それに、キースは危ないから人形に近づかないように注意してくれたのに……私、魔法に興奮してまったく言うことを聞かなかったの。キースはまったく悪くないの。調子に乗った私が全部悪いのよ。ごめんなさい」


そう言って、私はお父様にお母様に、心配をかけたアンたちに頭を下げた。


「だから、もし罰を受けるのなら、私が受けますから」


そう言ってお父様を見上げると。


「きちんと話してくれてありがとう。私の可愛いカタリナ。私は君にも、もちろんキースにも罰を与えるつもりなんてないよ。ただ、強いて言うなら最近の君はちょっとお転婆が過ぎるから怪我が治るまではきちんと安静にしていること。いいね」


そう言ってお父様は私の頭を優しくなでてくれた。

後ろではお母様が「ちょっとお転婆なんて可愛いものではありませんのに」と何かぶつぶつ言っていた。


「キースにも謝らなくちゃいけないわね」

「そうだね。でも今日はもう遅いから、明日にしなさい」


お父様に言われて窓の外をみれば、すっかり日は落ちて暗くなっていた。

キースと庭に出たのが昼過ぎだったから、私は半日近く眠っていたようだ。


「では、明日になったら謝りに行きますわ」

「そうしなさい。それからくれぐれも安静にね」


お父様はそういってもう一度私の頭をなでるとお母様を引き連れ部屋へと戻っていった。


アンに休む支度を手伝ってもらい、再びベッドに入る。


目を閉じるとキースのこわばった顔が浮かんだ。

お父様の話は聞いていなかったが、私はゲームの設定でキースがこの屋敷に来る前に誤って兄弟を傷つけてしまい居場所をなくしたことを知っていたのに。

意識を失う前に聞いたキースが私を必死に呼ぶ声はまるで悲鳴みたいだった……


本当に可愛そうなことをしてしまった。

明日、朝になったらすぐに謝りにいこう。

私はそう誓って眠りについた。




しかし、その誓いは果たせなかった。

キースは部屋から出てこなくなってしまった。


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