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義理の弟ができました

ジオルド王子からの正式な婚約の申し込みを受けて数日後、剣の稽古を終えた私はお父様に呼び出された。

最近は、医者を勧められることもなくなってきたというのになんだろう。


ちなみに剣の稽古は順調で、今日も「剣の勢いは本当に素晴らしい。あとは動きがもっとどうにかなれば」と剣の先生に褒められたばかりだ。

魔力の訓練の方もようやく家庭教師の先生が見つかりそうだということで、実に順調だ。


この調子なら、来るべき日にジオルド王子の剣を華麗にかわし、追放された国外では魔力でひと財産を築きあげたりできてしまうのではないか。

私、これはもう破滅フラグ倒せちゃうよ。

上機嫌で鼻歌交じりのスキップでお父様の所へ向かった。


そして、元気よく部屋に入ると……

そこには新たなる破滅フラグの刺客が待っていた。



★★★★★★★



「カタリナがジオルド王子の婚約者に決まっただろう。そうすると、このクラエス家を継ぐ人がいなくなってしまうから、分家から養子をとることにしたのだよ」


そういって微笑むお父様の後ろには一人の男の子がぽつんと立っていた。

たぶん、私と同じくらいの年の男の子だ。

この壮大な屋敷にけおされているのか、ひどく所在なさそうにしている。

お父様が男の子を前へと促す。


「キースだ。今日からお前の義弟になる。カタリナ、お姉さんとしてしっかり面倒をみてあげなさい」


そう言われて男の子は前へ進み出た。


「……キースです。よろしくお願いします」


とたどたどしく不慣れな様子でお辞儀をした。



…………第二の破滅フラグがやってきた~~~~~!!!

私のご機嫌気分は一気に吹っ飛んでしまった。


来るかも、いつかは来るのだろうと思っていたが、意外と早かった。

いや、早すぎるよ。まだ、あなたについては作戦とか立ててないのに!!


キース・クラエス。カタリナ・クラエスの義理の弟にして、いわずと知れた攻略対象の一人。

お色気担当のチャラ男だ。


突然の事態に茫然とする私に、お父様から『お前もあいさつしなさい』という視線をいただき、私もあわてて挨拶を返す。


「……カ、カタリナです。よろしくお願いします」


私の挨拶にキース少年はもう一度ぺこり頭を下げる。


八歳のキース少年には、まだゲームの時のようなあふれ出る色気はない。

というか、八歳にしてあんなにお色気ムンムンだったら大変だ。

でも、まあさすが攻略対象だけあってとても可愛らしい少年だ。

亜麻色の髪は少しくせ毛なのかふんわりしており、思わずなでなでしたくなる。

青色の瞳は真ん丸でリスみたいですごく可愛い。


そもそも、前世で末っ子だった私は弟か妹が欲しかった。

小さい頃は母に何度もお願いしたが「もう無理」と冷たくあしらわれた覚えがある。

なので、弟ができたことはすごくうれしい。

できれば、それはそれは可愛がりたい。


しかし、彼は残念ながら主人公の攻略対象であり、私の第二の破滅フラグなのだ。


可愛い弟ができてうれしい。しかし、この子は私の破滅フラグ……

う~~、可愛がりたいのに、でも破滅が……でも弟ができるなんてうれしい。



「…というわけで彼をうちで養子にすることになったのだよ。カタリナ、カタリナ。聞いているかい?」

「……は、はい!お父様、もちろんちゃんと聞いておりますわ」


気が付いたらお父様がなんか言っていたみたいけど……やばい、なんも聞いてなかった。


「そういうわけで、キースは遠くからの移動で疲れただろうから今日はもう休ませる。明日からしっかり面倒をみてあげるのだよ」


確かによく見ると少年の顔色はあまりすぐれず、疲れているように見えた。

少年はそのまま、お父様に促され与えられた寝室へと案内されていった。


その小さな背中を見送り、私は自室へと急行した。



★★★★★★★★★



自分の寝室に戻った私は、早速、前世でのゲームの記憶を書き出した紙を紐で結んだ―その名も『前世でのゲームの記憶を書き出した帳』を引っ張りだした。

前世の記憶を思い出し、ここが乙女ゲームの世界だと気づいてから、私は思い出したゲームの情報をここに書き加えている。


私は攻略者、キース・クラエスのページを広げた。



キース・クラエス。

彼はとにかく孤独な生い立ちの人物だ。

クラエス家の末端の分家の当主である父親と娼婦である母の元に生まれ、三つで父方に引き取られる。しかし、母親が娼婦ということで家族から蔑まれ、他の兄弟たちから様々な嫌がらせをうけて育つ。

ある時、嫌がらせをうけている際に彼は初めて魔力を発動させる。その強力な魔力で兄弟たちは怪我を負い、彼の居場所はさらになくなった。


そんな中、その魔力の高さを聞きつけたクラエス公爵がぜひ彼を養子にと持ちかけ、今度はクラエス公爵家の養子となる。


しかし、クラエス家でもキースが受け入れられることはなかった。

姉であるカタリナはそれまで一人でちやほやされていたところに、突然できた義弟を嫌っていじめる。

また、クラエス公爵夫人はキースを夫の愛人の子だと誤解し、冷たくあたる。


夫人とお嬢様が毛嫌いする養子を、召使たちも表だって庇うことができず、彼はほとんどを部屋にこもり孤独な時を過ごす。

そして、成長するとその孤独を埋めるかのように様々な女性と浮名を流すようになるのだ。


そんなキースは主人公に出会い。初めは珍しい平民出の主人公にちょっかいを出すのだが、しだいにその包み込むような優しさに長年の孤独を癒され、惹かれていく。

そして生まれて初めて、本当に人を好きになるのだ。



そんな、彼のルートでも働き者な悪役カタリナ・クラエスはもちろん大活躍だ。

公爵家の者に近づき、気安く交流をはかる平民の主人公に、貴族意識の高いカタリナは激怒しさまざまな嫌がらせを繰り広げる。


主人公がキースを攻略成功し、ハッピーエンドを迎えるとー

ジオルドの時と同じ、主人公に犯罪まがいな嫌がらせをしていた経緯から犯罪者となり、身分はく奪の上、国外へ追放となる。その後、キースはクラエス家を出て主人公と結ばれる。



主人公がキースを攻略失敗し、バッドエンドを迎えるとー

キースはカタリナの嫌がらせから主人公を守ることができず、主人公に消えない深い傷を負わせてしまう。

絶望したキースはその強い魔力の力で、姉のカタリナを殺めて、姿を消してしまう。





こうして、改めてキースについての情報に目を通すと、私は大きなため息をつく。


ここでもカタリナ・クラエスにハッピーエンドはない!バッドオンリーだ!

変わったのは切られて死ぬか、魔力でやられて死ぬかだけ……


こんだけ働いているのに破滅しかないなんて、カタリナかわいそうすぎるでしょ。


こうして、ここにまた一つ倒さなきゃいけない破滅フラグが立ち上がった。

私は再び作戦会議を決行することとした。




では、第二回カタリナ・クラエス破滅エンド回避のための作戦会議を開幕します。


『では、第一回に引き続きみなさんぜひよい案をだしてください』

『はい』

『はい。では、カタリナ・クラエスさんどうぞ』

『今回の破滅エンドもジオルド王子の時とそう変わらないなら、同じように剣の腕を磨き、魔力で生計を立てていけるようにしておけばよいのではないですか?』

『しかし、今回の破滅エンドに、剣は関係ないですよ。魔力でやられるのですから、魔力をより磨くべきです』

『しかし、敵の魔力は強力です。分家から公爵家に引き取られるほどの強い魔力を持っているわけですよ。土ボコしか持たないカタリナが、今から頑張っても、束になっても敵わないと思いますが……』

『しかも、今回の敵は身内ですから、いつ何時やられるか、油断できない状況です』

『そんな……じゃあどうすればよいのよ!せっかく王子の破滅エンドを回避できると思ったのに……』

『……もう、こうなったら……いまのうちに、やるしかないわね』

『……え!?そんなまさか!?』

『しょうがないわ、私も自分が大事だから仕方ないのよ……』

『……そんな…』

『……自分のためにやるしかないのよ。……せっかくできた念願の義弟だけど、仕方ないわ!段ボール箱にいれて橋の下に捨てに行くのよ!!』

『あぁ、そんな、ひどすぎることできないわ……』

『……でも、他に方法がないわ……』

『えーと、盛り上がっているところ申し訳ないのですが、一つ良いですか?』

『なんですか、カタリナ・クラエスさん。これ以上によい案がありますか?』

『はい。……というか、今回の義弟キースはその孤独を癒されることで主人公と恋に落ちるわけですよね。だったら、キースを孤独にしなければそもそも、主人公と恋に落ちないのでは?』

『『!?』』

『キースが主人公と恋に落ちなければ、カタリナも破滅エンド迎えることないと思うのですが』

『な、なんて賢いのでしょう!カタリナ・クラエス!あなたは天才よ!!』

『本当よ!その通りよ!素晴らしいわ!!』

『では、キースを孤独にしない。ということでよろしいですか』

『はい、もちろん。……しかし、孤独にしないとはいったいどうすればよいのでしょうか?』

『とりあえず、一人にしないように、いっぱいかまえばいいのではないのですか?』

『まあ、じゃあ思う存分に義弟を可愛がればいいのね。それでは私がやりたかったことをやればいいだけね。うれしいわ』


『では、今回の破滅フラグ回避の方法はキース・クラエスを思う存分に可愛がるということでよろしいですかな』


『『『 はい 』』』



こうして、第二回カタリナ・クラエス破滅エンド回避のための作戦会議は閉廷した。



「ただ、義弟を可愛がればいいだけなんて。素晴らしすぎるわ。早速、遊びに誘おう」とカタリナは浮かれ気分で眠りについた。


しかし、カタリナはすっかり忘れていた。ゲームではカタリナだけでなく、その母もキースにつらくあたって孤独にしていたことを……


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