お茶会を明日にひかえて
ソフィアが初めてお茶会に参加する前夜の話です。(カタリナと出会う前)
私、ソフィア・アスカルトは手をぎゅっと握りしめ、少しでも不安を消し去ろうと大きく息を吐いた。
父に説得され『お茶会に出る』と決めたのは私だ。
無理強いされた訳でなく、覚悟も決めたつもりだ。
それなのに、お茶会を明日に控えた今夜、もう既に挫けそうな気持になってしまっていた。
明日のことを考えると胸がざわざわして手が震えた。
他人から向けられる奇異な視線が怖い。
投げかけられる悪意ある言葉が怖い。
物心ついてからずっと感じてきた恐怖は、初めてのお茶会を前に大きく膨らんで私を苦しめる。
もう何も考えないで眠ってしまおうとベッドに入っても、なかなか寝付くことはできない。
ベッドで何度も寝返りをうち、怖い気持ちを忘れるため、最近、読んだ素敵な話を思い出す。
大好きな小説の話を―――。
エメラルド王女とソフィアのお話を思い浮かべていると、少しずつウトウトとしてきた。
これなら眠れるかもしれないと思った時に、ふと浮かんだのは以前、外出先で言われた『呪われた子』という言葉と蔑んだ目で……また恐怖が膨れ上がりそうになった。その時、
『大丈夫よ』
とても優しい声がした。
それは女の人の声で、なんだかとても懐かしい声だった。
『大丈夫』
どこからともなく聞こえる女の人の声はとても心地よく、聞いていると私の身体はまるでフワフワの綿に包まれているみたいに暖かくなっていった。
どこからともなく聞こえる優しく懐かしい声。
あなたは誰なの? そう尋ねたかったけど疑問は口にはできず、とても心地よい眠りの中にすっと誘われていく。
『大丈夫。きっと――――に会えるから』
眠りにつく最後に女の人が言った言葉はほとんど聞き取れなかった。
でも、なんだかとても幸せな気分になった。
翌朝、お茶会の当日、目覚めはとてもすっきりしていた。
昨晩、あんなに眠れず怖かったのが嘘のようだった。
眠りに落ちる前に誰かに『大丈夫』と優しい声をかけられた気がしたけど、メイドに聞いても知らないとの事でおそらく夢だったのだろう。
でも、その夢のお陰で少し勇気が出てきた。
「よし!がんばろう」
そう呟いて、自らの手を握る。
朝食をとり、その後メイドに支度を手伝ってもらい、私は兄とともに初めてのお茶会へと向かった。
そして私は私の運命を大きく変えるあの少女に出会うのだった。