例のやつ捕まえました
これはカタリナが(ジオルドの弱点をつかんだ)子どもの頃の話になります。
「うん。このくらいで良さそうね」
私、カタリナ・クラエスは先ほど集めて箱に詰めたものを見て満足しにんまりと笑った。
そして箱を閉じると胸に抱え自室へと戻った。
「よし、じゃあさっそくスケッチを始めるわよ」
自室に準備していたスケッチブックを広げ準備をしていると、義弟キースが部屋を訪ねてきた。そして、
「義姉さん、朝食後から姿が見えなかったけど、何していたの? また変なものつまみ食いしてお腹を壊したりしてないだろうね」
なんてことを言ってきた。
クラエス家の庭の食べられるものは、もうほとんどチェック済みであり、お腹を壊すことなどそうそうないというのに、失礼な!
「お腹なんて壊してないわよ。今日はね、これを捕まえていたの」
そう言って箱の中身をキースに見せた。
「捕まえてきた?」
怪訝な顔で箱をのぞき込んだキースはそのまま固まった。
そしてしばらく無言のまま箱の中を見つめていたが、やがて大きなため息を吐いた。
「……義姉さん、とりあえずこれは元いた場所に戻してきなさい」
「え~~~!なんでよ、せっかく苦労して捕まえたのに~」
「なんでもなにもないだろう、自室にこんなにヘビを連れてくる義姉さんの方がなんでだよ!」
キースはそう言って、私が苦労して庭で捕まえてきた数匹のヘビを箱ごと強奪しようとしてきた。
このままではせっかく捕まえたヘビが捨てられてしまう。
箱は決して渡さないぞ! 私は箱を抱えたままさっとキースから距離をとった。
「これは大事なモデルたちなのよ。スケッチが済むまでは渡せないわ」
私がそう言うと、キースはポカーンとした表情を浮かべた。
「……スケッチのモデル? え、そのヘビが?」
「そうよ、しっかりとスケッチして、おもちゃのヘビ創作に役立てるのよ」
えっへんと言った感じでそう説明すると、キースはどこか疲れたような顔になり、
「……もう何がなんだかわからないけど……ヘビには毒のあるのもいるからそんな風に持っていたら危ないよ」
と淡々と言った。
「あ、それは大丈夫。ちゃんと図鑑で毒のないやつを確認したから」
抜かりはないわと机に積まれた図鑑を示す。
「え、図鑑があるなら、そこに絵が描いてあるんだからもうスケッチする必要はないんじゃあ……」
「いやいや、リアリティーを出すためにはやっぱり本物を観察してその動きも再現できるようにしなくちゃいけないわ」
図鑑に載ってる絵ではリアリティーが足りないのだ。
そう主張すると、キースは額に手をあて、またため息を吐いた。
「……いつものことながら義姉さんの考えている事が全く分からないんだけど…とりあえずこのまま自室にヘビを置いておくと……」
キースがそこまでしゃべったところで、ドアがノックされ新たな人物が部屋に入ってきた。
「カタリナ、今日は午後からマナーのレッスンという約束だったでしょう。なぜ稽古の部屋にこないのかしら」
部屋の入口に仁王立ちになり、そう言ったお母様の目は吊り上がり気味でやや苛立った様子が伺えた。
マナーのレッスン、そういえばそんな約束をしていたような気がする。すっかり忘れてた。
お母様の怒りがさらに大きくなったら大変だ。急がねば、
「あ、はい。今、今行きます」
私は慌ててお母様の元に駆け寄ろうとして、自分のドレスにつまずいて派手にひっくり返った。そしてそのついでに手に持っていた箱もひっくり返る。すると、
「きゃーーーーーーーーーーーーー!」
お母様が凄まじい悲鳴をあげた。
何事! と顔を上げると……お母様の頭や身体に私が捕まえてきたヘビたちが乗っかっており、まさにヘビまみれの状態になっていた。
「わぁ!ごめんなさい」
私は慌ててお母様についたヘビを捕まえようとしたが、焦っているためかなかなか思うようには捕まえることができず、苦戦した。
結局、キースや他の(ヘビなど触りたくないという)メイドにも協力してもらってヘビを全部、取り終えた頃にはお母様の顔はすっかり青くなっていた。
「あの、そのお母様、すみません」
すっかり放心状態のお母様にそう声をかけると……今度はその顔がみるみると赤くなり、眉もさらに吊り上がってきた。そしてまるで地獄の底から聞こえてくるような低い声で、
「カタリナ、少しお話したいことがありますので私の部屋へいらっしゃい」
とおっしゃった。
これはもう拒否権のないやつだわ。
「……はい」
私は大人しく覚悟を決めた。
そしてその後、すぐにお母様の部屋に連行された私は、長時間の凄まじいお説教をくらい、しばらくは庭に出るのも禁止された。
おまけにもう二度とヘビを捕まえないことを固く誓わされてしまった。
破滅フラグを折るためにもヘビの玩具づくりは必須なのに……モデルを確保できないなんて……あ、そうだ!
そして後日、
「うん。このくらいで良さそうね」
私は先ほど、集めて箱に詰めたものを見て満足し、にんまりと笑った。
「よし、じゃあさっそくスケッチを始めるわよ」
そして自室に準備していたスケッチブックを広げ準備をしていると、また義弟キースが部屋を訪ねてきた。そして私の抱えている箱をみて、
「……義姉さん、もうヘビは捕まえないって約束したはずでしょう」
げっそりしたような顔で言ってきた。なので、
「怒られたからヘビは捕まえてないわよ。なので似ているモデルで代用しようと思って」
そう言って箱の中身をキースに見せた。
怪訝な顔で箱をのぞき込んだキースはそのまま固まった。
そしてしばらく無言のまま箱の中を見つめて、ぼそりと呟いた。
「……これは?」
「ミミズよ!畑にいっぱいいるし、ヘビのようにうねうねするし、ちょっと色とか違うけど代用モデルには丁度いいかなと思って」
私ったらなんて賢いの!
ヘビが駄目ならミミズをモデルにすればいいのよ!
えっへんと言った感じでそう説明すると、キースはどこか疲れたような顔で大きなため息をついた。