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破滅フラグがやってきました

会議の決定事項に従い私は翌日から剣の稽古と魔力磨きの特訓を開始した。


剣の腕と魔力を磨きたいという私の申し出に父母はやはり怪訝な顔をしたが、「自分の身を守り、魔法学園に行ってから恥ずかしくないように」と強く力説すると……


父母は何かをあきらめたような目で承諾してくれた。

その顔は前世での両親を彷彿とさせ、なんとなく懐かしい気分になった。


そして虚ろな瞳のお父様にお願いし、剣術の先生と魔力についての家庭教師を頼んだのだが……

剣術の先生はすぐに見つかったが、魔力の指導ができる者は少なくすぐには見つけられないという。

 


そのため、魔力磨きについては、とりあえず図書館にある魔力に関する本を借りて熟読することにした。


大きな庭の片隅で私は膝の上に開いた分厚い魔力についての本の最初のページをめくる。

『魔力を高めるためにはまず、己の魔力の源との対話が重要となる』


そもそも、剣術はともかく私の生きた前世に魔力などというものはなかった……

よって私にはこの世界の魔力というものがまったくわからないのだ。

すべて、ゼロからの手さぐり状態だ……


己の魔力の源との対話か……

私の魔力は土だ。そしてその魔力はとてもしょぼい。


ちなみに現在の私にできる魔法は―

地面の土を二、三センチほどボコッと動かせる程度であり。これって持っていて何か役に立つのかというものだ。

 

正直、ゲームのカタリナはこの「地面の土を二、三センチほどボコッと動かせる魔法」しか使っていなかった。


この「地面の土を二、三センチほどボコッと動かせる魔法」……もう長くて面倒なので、略して「土ボコ」をもちいてゲームのカタリナは主人公をつまずかせたり、つまずかせたり、つまずかせたり……

まあ、ようは「土ボコ」には人をつまずかせることくらいしかできないのだ。


本当に心底しょぼい魔法だ。


でも、このまま「土ボコ」しか使えないままでは、これからの破滅エンドを生きぬくことはできない!

なんとしても魔力を高めなければならないのだ!


でも、魔力の源との対話ってなんだろ。

私の魔力は土だから土と対話をしろということなんだろうか……


土と対話…土と対話…土と対話って…


……そうだ!!




★★★★★★★★★



「あの、お嬢様。一体なにをされているのですか?」


メイドのアンがおずおずと声をかけてきた。


「何って、土を耕しているのよ」


ほっかむりを被り庭師さんに借りた作業着、着用で私は元気に答える。

本日より屋敷の広い庭の片隅に畑を作り始めたのだ。


「えーと、確か、お嬢様は魔力を高める訓練をされているとのことでしたが、なぜ土を耕しておられるのですか?」

「魔力を高めるために土を耕して畑を作っているのよ!」

「お嬢様、大変申し訳ありませんが、意味がわかりません」


怪訝な顔のアンに、笑顔で答えるとよりさらに怪訝な顔をされた。


「えーと、魔力の本にね。『魔力を高めるためにはまず、己の魔力の源との対話が重要となる』と書いてあったのよ。それで、私の魔力の源と言ったら土でしょ!だから、土と対話するのよ!そして、土と対話といったら、畑作りでしょう!!」


前世の私の、母方の実家は農家をやっていたので、子供の頃の長期休みはよく労働力として借り出されていた。

そして、祖母がよく言っていたのだ『畑をつくるということは土と対話をすることなんだよ』と―


祖母のありがたい教えを思い出し、土と対話するために私は本日より畑を作成することにしたのだ。



もちろん、きちんと庭師さんに庭に畑を作ってもよいか確認をとった。

鍬をかり、作業着を借り準備は万端だ。

ただ、この話をした時に庭師さんにも父母と同じような瞳で見つめられただけだ。


というわけで私は破滅エンドを防ぐべく、魔力の強化のため頑張って畑を耕すのだ。


「……魔力の源との対話が、土と対話って……それが畑って……何か根本的に間違っていると思うのですけど……」


なにやら、アンがまだ何かぶつぶつ言っているようだったが、私は鍬を手に土を耕すのを再開した。

学園、入学まではあと七年。「土ボコ」だけなく、最低限、生きていくために金になる魔法を取得しなければならない。


こうして、私が一心不乱に鍬で土を耕していると……

一人でぶつぶつ言っていたアンが突然、何かを思い出したように叫んだ。


「……はっ!!お嬢様こんなところで畑耕している場合じゃないのですよ!!一大事です!王子様が……ジオルド王子がお屋敷にお見えになられたのですよ!!」


「…え…なんで?」


私は思わず持っていた鍬をポロリと落とした。


「なんでってお嬢様、改めて婚約のごあいさつに来られるということだったではないですか!!」


「……あら、そうでしたっけ」


やばいすっかり忘れてた。 


「とにかくいつまでもお待たせするわけにはいきません!早く屋敷に戻ってお支度をしましょう!」


「そ、そうね!」


さすがの私でもこの土まみれの作業着にほっかむりで王子様の前に出るわけにはいかない。

あわてて屋敷に戻ろうとしたのだが……


時はすでにおそし……

待ちくたびれたのであろうジオルド王子が召使さんたちによって庭にご案内されてきてしまった。


しかし、召使さんたちは目標の人物であるお嬢様を発見することができずに戸惑っている様子だ。

まさか、魔力磨きの訓練をしているはずのお嬢様がほっかむり被って作業着で畑を耕しているとは考えもしていなかったのだろう。


どうしよう。ばれないうちに一度こっそり屋敷にもどって着替えて素知らぬ顔で庭にもどるか……

そんな風に思案をしていると……


一番気づかれてはいけない人物と目があってしまった。

その人物は、はじめは目を大きく見開きひどく驚いた様子だったが、次に愛らしい笑みを作ってこちらに声をかけてきた。


「これはカタリナ嬢、お庭で魔力磨きの訓練をされているとお聞きして、拝見させていただこうと思ってまいったのですが、何をされているのですか?」


そう言った、第三王子のジオルド様の顔にはそれは愛らしい笑みが浮かんでいる。

以前の私だったら、この笑みをまあ、天使のような可愛らしさと愛でたところだが……このジオルド王子があの『FORTUNE・LOVER』の腹黒ドS王子だと気が付いた今となっては、この笑みが悪魔の微笑みに見える。


しかも、ほっかむりに作業着姿のあきらかにおかしなご令嬢を目にして微笑みを浮かべながら「なにされているのですか」なんて尋ねられるなんてただの愛らしい王子なわけがない。


後ろの我が家の召使さんたちに王子のお付の方々を見よ。完璧に固まっておられるじゃないか……


むしろ、一緒についてきたのだろう私のお父様なんて顔面真っ青で今にも気絶しそうだ。

ちなみにお母様はすでに気絶されたようで、隣にいた召使さんに支えられている。


ほっかむりの作業着姿で取り繕ってもまったく意味はないだろう。

固まっている召使さんたちに、父母はもうこの際、気にしないことにした。

私は完璧に開き直った。


「ごきげんようジオルド様、わざわざ、このような所まで足を運んでいただき申し訳ありません。これは魔力を磨くために私の魔力の源である土と対話しているのです」

「えーと、土と対話ですか?」

「はい、土と対話するためには畑作りが一番かと思いまして、こうして畑を作るべく土を耕しておりましたの」

「……土と対話するために、畑作りって……」


私の開き直った元気な答えに、それまで微笑んでいた、ジオルド王子はなにやら俯いてしまった。

どうも肩がプルプル震えているように見える。やばい、なにか怒りをかうような発言だったか……

まさか、学園に入る前にここで国外追放されてしまうのかと固唾をのむ。


しばらくして、肩をプルプルさせていたジオルド王子が顔をあげた。

顔は笑顔だ。どうやら怒ってはいないようで一安心だ。


「そうでしたか、魔力磨きに畑を耕すとは斬新な訓練ですね」

「……そうなのですか」


斬新なのか、魔力のことは全く分からないからなんと答えてみようもなく。あいまいに返事を返す。


すると、突然王子が私の前に歩み出てきた。

前に立ったジオルド王子はおもむろに私の前に跪くと手を差し出した。


「カタリナ嬢、本日は前回お話しさせてもらった、婚約の件で正式なあいさつにまいりました。このような場所で不躾に申し訳ありませんが、私との婚約お受けしていただけますか?」

「……え、あ、はい」


ジオルド王子の流れるような動きに思わず手を差し出せば、王子はその手に唇を押し当てた。

まるで、おとぎ話のワンシーンのようだったが……

なにぶん、片ほうがほっかむりの作業着だったため、いまいち絵にはならなかった。


天使のような王子様から跪かれプロポーズを受ける。きっとこれが他の貴族のご令嬢や、記憶の戻る前のカタリナだったらもうそれは空に舞いあがる喜びだったろうが……


私はといえば……

土まみれの手に口をつけられてしまった……

というか、ここ「私などでは王子にふさわしくないと思います」とかって断ればよかったとこじゃない。

しまった!つい、流れで「はい」とか言っちゃったよ。やばい、もう撤回できない。どうしよう~。


しかも、召使さんたちも王子のお付の人たちもなんか、「おめでとうございます」みたいな雰囲気で見守ってくれちゃっているし……

王子のキラキラオーラ発動で私がほっかむりで作業着なのが見えなくなっている感じだ。

王子様恐るべし……

しかもさっきまで倒れそうだったお父様まで拍手しているよ。ああ、お母様はまだ気絶中ですね。


なんだか、よくわからないままこうして私は正式に第三王子ジオルド様の婚約者となってしまった。



とりあえず、明日からの剣と魔力の訓練をより頑張ろうと心に決めた。




★★★★★★★★★




ジオルド・スティアートというのが、僕の名前だ。

この国の第三王子という微妙な立場に生まれた。

この国では次期王位は、現王の指名制なので国王になる可能性もあるわけだが……

正直、いって次期王位とか全く興味ない。面倒なだけだとしか思えない。

そもそも二人の兄はどちらも優秀で互いに、よきライバルとして剣術や学問に励んでいるので、そこで王座を決めてくれればよい。


ちなみに僕には双子の弟もいる。

双子で生まれたが、あちらは生まれた時から体が弱く、病気がちであったために母や乳母たちに過保護に育てられており、あまり一緒に過ごすことはない。


そんな事情から第三王子とはいえ、まわりは兄たちと弟ばかりに構い、ジオルドという存在は王宮では忘れられがちな存在だ。


剣術や学問、たいていのことは少し教えてもらえばすぐにできた。家庭教師はおおげさにほめ称えたが、だからなんだという感じだった。人の考えを読むのにもたけていたので、適当なおべっかを並べ笑顔を作っておけばうまくことは運んだ。

兄たちのように目標もなく、ほとんどのことが何の苦も無くできてしまう。

日々はとてもとても退屈だった。


そんな退屈を持て余していた僕だが、半年前から面倒事に巻き込まれることが多くなってきた。

二つ年上の兄が婚約したのだ。一番上の兄がさらにその半年前に婚約をしていたので、それに影響されたのだろう。


まあ、婚約の一つでも二つでも勝手にしてくれという感じだった。

僕には関係ないことと思っていたが……


「では次は第三王子にお相手を」と急にまわりの貴族たちが騒ぎ出したのだ。

王宮では、ほぼ忘れられた存在ではあるが、だいたいのことをそつなくこなしてきたため、貴族の社交界での第三王子ジオルドの評判はよい。

よって、年ごろの娘を持つ貴族たちがここぞとばかりに婚約者候補を連ねてきたのだ。

正直、面倒でしかたなかった。


そんな時だったクラエス公爵から「はじめて城に娘を連れて来るので、娘に城の案内を頼みたい」といわれたのは―

こういったことは最近、よくあることだった。

自分の娘を気に入ってもらえれば、あわよくば婚約者にということなのだろう。


クラエス公爵はかなり力をもった貴族であるために、断るわけにもいかずとりあえず承諾し、その日を迎えた。


そうして対面したカタリナ・クラエス令嬢は―

甘やかされて育った我儘で高慢ちきな馬鹿な令嬢だった。ベタベタ付きまとわれ、うんざりした。

勝手に付きまとい勝手に頭を打った時も面倒なことになったと思った。


どうやら額を切って何針かぬったそうで、傷も残るかもしれないと聞いた時もそうか自業自得だなとしか思わなかった。まあ、頃合いをみて見舞いに行って終わりだと考えていた。


だったのだが―


「カタリナ・クラエス令嬢はだいぶジオルド様に熱をあげておいででしたから、傷が出来たのは王子のせいだから責任をとって婚約してくれとでも言ってくるのではないですか」


召使が言ったこの言葉に-

そうか、その手があったと思った。


正直、ここの所の貴族の婚約者をあてがおうという作戦にはうんざりしていた。

適当に決めてしまいたかったのだが、貴族社会のしがらみを考えるとそうもいかなかった。


貴族社会には様々な派閥がある。

王位に近い長兄と次兄にはそれぞれ派閥ができ始めている。

長兄の派閥側の貴族の令嬢と婚約すれば、ジオルド王子は長兄側なのかと次兄側に責められるだろうし、反対のことをすれば長兄側が黙っていないだろう。


その点、クラエス公爵は今のところ、長兄にも次兄にもついていない中立の立場にある。

しかも、今ならば令嬢に傷をつけてしまった責任をとるという立派な理由がある。

第三王子は中立のクラエス公爵を味方につけ王位を狙うつもりかと―ありもしない腹を探られてもこの理由を盾にしていける。


あのご令嬢自体は正直うっとうしいことこの上ないが、頭はよろしくないようだったので、適当にあしらっていけるだろう。


こうして、僕はカタリナ・クラエス公爵令嬢に傷の責任をとって婚約を申し込むことに決めた。



そうして、体調がよくなってきたという令嬢のお見舞いに行ったのだが……


「いえいえ。ジオルド様こんなかすり傷、気になさらないで下さい。だいたい、額の傷なんて前髪でぱぱっと隠せるのでなんの問題もございませんわ」


とあっけらかんと言い放ったカタリナ嬢に一瞬、言葉を失ってしまった。この少女は一体何を言っているのだと。


まあ、確かに少女の言うとおり傷自体はそんなに大きなものではないが……貴族の令嬢としてそれはないだろうと。


最初に出会った時にはまさに甘やかされた貴族のご令嬢そのものだったのに……熱で頭がやられたのだろうか……


しかし、ここにきて「じゃあ、婚約しません」と計画を変えるのも今後を考えると面倒なので……

あきらかに話を聞いていない様子のカタリナ嬢に、なんとか婚約を承諾させた。


それに、このカタリナ・クラエスという少女に興味もわいていた。もう少しこの子と関わってみたいと思ったのだ。



そして、本日、改めて婚約のあいさつに行ったわけだったが……

件のカタリナ・クラエス令嬢はなぜか、庭の片隅に農民の装いで突っ立っていた。

何をしているのかと問えば―


「これは魔力を磨くために私の魔力の源である土と対話しているのです。土と対話するためには畑作りが一番かと思いまして、こうして畑を作るべく土を耕しておりましたの」

とても得意げに言い放った少女があまりにも可笑しくて、爆笑しそうになった。

笑いの発作をおさえるべく俯き、再び顔をあげれば水色の瞳がまっすぐに僕を見ていた。


僕はカタリナ嬢に歩み寄り跪いた。


「私との婚約お受けしていただけますか?」

「……え、あ、はい」


思わず返事してしまったという様子のカタリナ嬢は、目を白黒させて取り乱しており、その様子にまた笑いの発作が起こりそうになる。


茶色の髪に少し上がり気味の水色の瞳を持つ同い年の少女。

僕は生まれて初めて人に強い興味を持った。


つまらない人々に囲まれて退屈で仕方なかった日々が変わる予感がした。


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