魔法学園に入って
活動報告で載せさせて頂いた小話を修正、追加したものです。 6.3(3/8)
辺境の田舎男爵家の令嬢として生まれた私はこの春、魔法学園に入学した。
魔法学園、国中の魔力を持つ者が十五歳の年を迎えると集められる学園である。
六歳で魔力を発動した私も例にもれず、こうして学園に入学することとなった。
しかし、高位の貴族が多数のこの学園は、田舎男爵の娘である私には少し、ハードルが高すぎた。
それでも、魔力が高かったり、勉強ができたり、特別な美人だったなら……それこそ光の魔力保持者のマリア・キャンベルさんのようだったなら……もう少し自信を持って過ごせたのだろうが……
魔力もほとんどなく、勉強もついていくのがやっと、顔だって愛嬌があるとは言われるが、美人だと褒められたことなどない私は……はっきり言ってこの学園にはそぐわなかった。
両親は、辺境の田舎の男爵家から初めて魔力保持者が出たと、とても喜んで、学園に送り出してくれたのだが……
入学してみれば田舎の貧乏男爵家の令嬢である私は、高位の貴族の方々には見下され、時には使用人のように用事を押し付けられる。
入学して数か月、私はもう早く家に帰りたくて仕方なかった。
しかし、そんな私に転機が訪れた。
それは、家から持ってきたロマンス小説を教室の隅でこっそり広げて読んでいた時だった。
高貴な方たちには下世話と言われているロマンス小説だったが私は大好きで、田舎にいた頃からずっと愛読しており、こうして学園にもこっそり持ってきていたのだ。
「ねぇ、それは、もしかしてロマンス小説ではありませんか?」
そう声をかけられ、顔を上げるとそこには、田舎男爵の娘では話しかけることもできないほどの高貴な方が立っていたのだ。
カタリナ・クラエス様、公爵家のご令嬢にして第三王子様の婚約者でもある、まさに国の最高位クラスの方である。
そのため、いくらクラスメートだからといって気軽に声をかけたりできるわけもなく、入学してから一度も話したことはない。
そんな方に気軽に声をかけられ、あまりの緊張と混乱に固まる私に、カタリナ様は優しく微笑んだ。
「実は、私もロマンス小説を読むの。よかったら今度一緒にお話ししませんか?」
そんな風に誘われ、いつの間にか私はカタリナ様とお茶をしたり、小説の話をしたりするようになった。
カタリナ様と共に過ごすようになると、それまでのように高位の貴族の方に見下されたり、使用人のように使われることもなくなっていった。
カタリナ様は本当に素晴らしく、そして素敵な方だった。
公爵家の令嬢らしい凛とした佇まい。
それでいて、他の高位な貴族の方々のように、公爵家の令嬢だということを鼻にかけ、身分の低いものを見下すなんてことはしない。私のように身分も低く、なんのとりえもない田舎男爵の娘にも、とても優しくしてくれる。
気が付けば、私はカタリナ様にすっかり心を奪われてしまっていた。
時には学園の林で子犬と戯れ、時には中庭で植物を愛でるカタリナ様。
その姿はまさにロマンス小説にでてくる聖女様のようだった。
そして、先ほど……カタリナ様のお姿に見惚れ、つまずいて転び、ドレスに土をつけてしまった私に、カタリナ様がハンカチを差し出してくださった。
『土で汚してしまうので』と断ろうとした私に、『大丈夫、よかったら差し上げるわ』とカタリナ様は微笑んだ。
私は、頂いたハンカチを握りしめ『これは宝物にしよう』と胸に抱いた。
あんなに、早く家に帰りたいと思っていたのに……いまでは少しでも長くこの学園にいたいと思ってしまう。
少しでも長くカタリナ様のお傍で過ごしたいと―――
★★★★★★★
「あれ、姉さん。いつも頭にかぶっているやつはどうしたの?」
「ああ、ほっかむり?さっきクラスのお友達にあげたのよ」
「え!?まさかいつも姉さんがしているみたいに頭にかぶせたの!?」
「違うわよ、転んでドレスが汚れてしまったようだったから、汚れを落すようにあげたのよ」
「……そうか……よかった……というかハンカチは持ってなかったの?」
「ハンカチは畑仕事の後に手を拭いて汚れたままだったのよ」
「……そうか……ん?あれ、姉さんの上着の裾、少しほつれてない?」
「ああ、これはこの間、学園の林の中で天敵である犬に絡まれた時にね。まぁ、今回の敵は小さかったから見事に撃退してやったけどね!」
「……そうか……まぁ、よかったね。でも、姉さん……元気なのはいいことだけど、学園の中ではもう少し落ち着いてね。この間も、中庭で木の実を取って食べていたでしょう。ここは屋敷じゃないのだから、いいかげんに拾い食いはやめなきゃだよ」
「……拾い食いじゃなく……もぎ取って食べてるんだけど」
「……いや、同じだから……いいかげんに、お母様を誤魔化すのも大変になってきているんだから……頼むからもう少し落ち着いて」
「………わかったわ」
そうして、しぶしぶ頷いた私を見て義弟は深いため息をついた。




