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お菓子をおねだりしました

第二四話を更新させていただきましたm(__)m


魔法学園に入学して、数週間がたった。

先日、ゲームシナリオにもあった入学した生徒の実力を図るための学問と魔力のテストが行われた。


すると――キース、ジオルド、アラン、メアリ、ソフィアと――私の義弟と友人達がほぼ上位を独占する結果となった。さすが私の義弟に友人達だ。


そして、そんな友人達と同じく上位入りを果たしたのはもちろん、ゲーム主人公のマリアだ。

平民である彼女は、貴族である私たちのように専属の家庭教師をつけて勉強してきたわけではなく、普通に近所の学校にいって学んでいただけのはずだ。

それなのに、他の貴族の子たちを抜いて上位に食い込むとはさすが主人公である。


ちなみに私の順位はというと……安定の平均すれすれである。

平均万歳、よく頑張ったと自分を褒めてやりたい。



そういえば、この学問テストの順位がゲームのシナリオ通りに、ジオルド、マリア、アランの順だったわけで……ゲーム通りならば、この事実を受けアランが自分より上位だったマリアに絡んでいくはずだったのだが……


『別に、勝ち負けにこだわってないからな。人には向き不向きがあるんだから、いちいち気にしていたって仕方ないだろ』となんでもない顔でそう言ったアランはその言葉通り、マリアに絡みに行く様子を見せなかった。


このように、ちょっとゲームとは違うこともあったが、ゲーム通りのこともあった。


それは、生徒会メンバーの選抜である。


生徒会『生徒の自治活動により学園生活の改善と充実を図る』という大義名分の元に学園創立とともに、作られた組織である。

まあ、その実際の活動は、先生方の授業の手伝いから、生徒間のトラブルの処理などと……雑用係みたいなものなのだが……


この生徒会は、前世で私が通っていた学校のように立候補して、選挙するという方式ではない。


今回のテスト結果の上位者がもれなく強制で任命されてしまうものなのだ。


強制なんて、なんだか、少し気の毒にも思えなくないのだが……

……この生徒会に選ばれることは優秀だという証であり、とても名誉なこととされているため、だいたい皆、進んで引き受けるのだそうだ。

そして選ばれた人たちは学園生徒の憧れの的となるのだそうだ。


そういうことで、このテストで上位を独占した義弟に友人達、それに主人公のマリアはもれなく全員、生徒会のメンバーとなったわけだ。


まったく、ゲーム通りだった。


まあ、強いて違いをいうなら、義弟と友人達が『カタリナ(様)も一緒が良い』的なことを言って先生方を少し困らせたらしい。


皆が生徒会に入ってしまうと、私がひとりぼっちになってしまうので、きっと優しい彼らはその辺の事を考慮してくれたのだろう。

ちなみにメイドのアンは基本的に寮での生活のサポートなので、学舎では一緒ではないのだ。

まぁ、放課後の畑仕事には『お嬢様だけでは何をしでかすかわかりませんので』とぴったりとついてくるのだが……


友人たちにそんな風に心配してもらえて、嬉しいのだが、私は皆と一緒にいるのもとても楽しくて好きだが、一人で気ままにブラブラするのも嫌いではないので、さほど問題はない。


―とそのようなことを説明したのだが……


気が付けば、基本的に生徒会メンバーしか入れないことになっている生徒会室への入室許可がおり、ちょいちょいと半ば強制的に招かれるようになった。

どうやら、義弟と友人たちが何かしたみたいなのだが……

……聞いても、うまい具合にはぐらかされるため真相はいまだ不明だ……




そうしてなんやかんやで、私は度々、生徒会室にお邪魔している訳なのだが……



「どうぞ、カタリナさん」

「あ、ありがとうございます」


そう言って、笑顔で私にお茶を差し出してくれたのは、二年生で生徒会のトップである生徒会長である。

鮮やかな赤毛に灰色の瞳で子犬のような愛らしい雰囲気を持つ彼は他のメンバーに引けをとらない美少年だ。

ちなみに副会長は『魔性の伯爵』ニコルがやっている。


生徒会は学力と魔力の高さで選ばれているはずなのだが……ここの人たちを見ていると顔も基準に入っているのではないかと思ってしまう。


ただ、一年の選抜生徒会メンバーが七名なのに対して、二年のメンバーはこの会長と副会長のニコルだけだ。


会長の話によると、初めは今年と同じ七名が選ばれたらしいのだが、ニコルをめぐって、あれやこれやのいざこざが起こり、みんな辞めたり、通ってこなくなってしまったらしい。

会長だけは自身も美少年だからなのか、ニコル耐性があり大丈夫だったそうだ……


『魔性の伯爵』の魅力、恐ろしすぎる……



まあ、そんなわけで、カツカツだった生徒会に……ニコルに耐性を持っている一年生たちが入ってきてくれた。

そのことに会長は、それは喜んでいるようだった。



そのためなのか、生徒会に関係のない私が友人たちに引きずられ、頻繁にやってきても嫌な顔をすることもなく、こうして親切にお茶までだして迎えてくれるのだ。



そうして快く迎えられているお蔭で、私もかなり生徒会に入り浸るようになってしまってきている。

まぁ、ほぼ私を心配した優しい友人たちにより引っ張られてきているのだが……



そうして、入り浸っていれば、友人たち以外の生徒会のメンバーとも関わりが出てくる訳で……


「クラエス様、よろしかったらこちらもどうぞ召し上がってください」


会長に入れてもらったお茶を啜る私に、お菓子を勧めてくれる美少女に私は思わずドキリとなる。


「あ、ありがとう。キャンベルさん」


私がお礼を言うと、美少女、マリア・キャンベルはにっこりとほほ笑んだ。


……そうなのだ。

生徒会室に入り浸るうちに、私は主人公のマリアちゃんともそこそこに、関係を持つようになり、生徒会室にくればこうして笑顔でお菓子を勧めてもらえるくらいには親しくなっていた。


そうして、私は今までゲームの主人公としてしか認識していなかったマリアちゃんという人物を知ることとなったのだが……


マリア・キャンベル…………はたしてその正体は―――優しくすごくいい子だった。

それはもう仕事もできれば、気遣いもできる素晴らしいお嬢さんなのだ。

そして、そんなに何でもできるのに、驕ることもなく謙虚な姿勢。


もう、本当に魅力的で素敵な女の子なのだ。


なんで、ゲームのカタリナはこんないい子をあんなに目の敵に苛め抜いたのか……と戸惑うほどだ。



きっと、攻略対象である友人たちも徐々にマリアちゃんの魅力に惹かれているのだろうなー。


そんなことをぼんやり考えながら、頂いたお菓子を口に放り込む。

む!?このお菓子なかなかに美味しい。


「このお菓子、美味しいですね」


差し出してくれたマリアちゃんにそう言うと、こんな返事が返ってきた。


「とても美味しいですよね。学園の生徒さんが生徒会への差し入れでくださったものなんですよ」


おお、差し入れでしたか。


確かに、この学園では生徒会は生徒たちの憧れの的であり、差し入れもそれなりに入るらしい。

しかも、この学園の生徒には高位の貴族が多数、差し入れのお菓子もいちいち高級そうだ。




あ、そういえばお菓子といえば――


「キャンベルさんはお菓子を作ってこられないの?」


ゲームの中のマリアの趣味はお菓子作りだった。

そして、生徒会にも何度か、手作りのお菓子を差し入れていた。

高級菓子とはまた違った手作りの素朴で美味しいお菓子が攻略対象たちのお腹とハートを鷲掴みにしていたはずだ。


その手作りお菓子のイラストはとても美味しそうで、前世の私はあまりの食べたさに思わずコンビニに似たようなお菓子を買いに走ったものだった。


そうして、画面越しに焦がれていたマリアの手作りお菓子……いまなら、本物を食べることができる!

――という下心満載の質問だったのだが……


「……え」


マリアちゃんが固まってしまった。

なんか『お菓子作ってきてよ』的な脅しになってしまったか!?

私は弁解しようと慌てて口を開く。


「あ、いえ、あのね。別に無理に作ってこいというわけでは……」

「……あの、なぜ、私がお菓子を作っていると知っていらっしゃるのですか?」


あ、そっちか。

確かにマリアちゃんは自分から『お菓子作ってるよ』と公言していない。

ゲームでも、初めはこっそり食堂の調理場の隅を借りて自分用にちょっぴり作って食べていただけだったはずだ。

好感度が上がってきた攻略対象と打ち解けると、その話題が出てきて、『じゃあ、僕(俺)にも作ってきてよ』となるんだった気がする……

でも、マリアちゃんのこの反応だとまだ、誰ともそんな話はしていない感じだ。


う~ん。まさか『ゲームで作っているの見た』とか言えないし……


「え~と、そ、その、食堂のおばちゃんにそのような話を聞いて……」

「……そうですか」


ややしどろもどろになった言い訳だったが、とりあえずマリアちゃんは納得してくれたようだ。

ほっとひと安心だ。


「……クラエス様がお聞きになったとおり、確かに食堂の調理場をお借りして自分用に少しお菓子を作っていますが……でもそれは、とても皆様にお出しできるほどのものではないので……」


テーブルに置かれた高級菓子を見ながら、マリアちゃんが困った顔をした。

確かに、ここに並ぶのは高級店で購入された高級菓子ばかりで、素人の手作りのものはない。

なぜなら、この国の貴族さんたちは女性であってもほとんど料理をしないのだ。

基本、料理は召使の料理人さんたちの仕事とされているからだ。


かくいう私も、お菓子はもちろん料理も作れない。

そもそも、クラエス家において、私は調理場の立ち入りを禁止されていた。


前世の記憶が戻った頃には、何度か入ってその辺の食材をつまんだり、謎のスパイスを舐めてみたり、庭に生えていたキノコを調理してみようとしたりなど色々していたのだが……そのうち『調理場は刃物や火など危険な物が多いので、大切なお嬢様が怪我をされたら大変ですから』と入れてもらえなくなったのだ。

まったく箱入りお嬢様も大変だ。


まあ要するに、貴族令嬢は自分で料理はしないので、生徒会に差し入れられるお菓子はすべて専門の料理人さん作のお菓子なのである。


なので、マリアちゃんとしては、そんな中に素人の手作りのお菓子は持ってきにくいということなんだろうけど……


「私、料理人さんの高級お菓子も好きだけど、手作りお菓子もとても好きなの」

「え、クラエス様が手作りのお菓子を召し上がるのですか?」


マリアちゃんがとても驚いた顔をする。


「ええ。屋敷のメイド頭さんが、お菓子作りが趣味で、よくお裾分けをもらってたの」


料理人さんが作ってくれるお菓子や高級店のお菓子は見た目も凝っていて美味しかったが、メイド頭さんの作ってくれた素朴なお菓子もとても美味しかった。

だから、学園に来てあのお菓子が食べられなくなってしまい、とても残念だった。


「学園に来て、あのお菓子の味が恋しくて、もし迷惑でなければキャンベルさんが作っているものをちょっぴりでいいので分けてもらえたら嬉しいのですけど、材料費もあるでしょうから、お金もちゃんと払わせてもらうから」


どうか、あの最高に美味しそうなお菓子を私に――と悪役顔にせいいっぱいの笑顔を作り必死におねだりする。

そんな私の必死な様子にほだされてくれたのか――


「とんでもない!お金なんていただけません!材料だって学園の調理場で余ったものをいただいているだけなので!………本当に素人の趣味で作っているだけのものですので、クラエス様のお口にあうかどうかわかりませんが……近いうちに作って持ってきますね」


マリアちゃんはそう言ってくれた。


「ありがとう!」



こうして、私は、念願のマリアちゃんの手作りお菓子をいただける約束をとりつけることに成功したのだった。







マリアちゃんから手作りお菓子を頂けるという約束をとりつけた翌日の放課後、畑作業のために寮で着替えをすべく一人、寮への道を歩いていた。

ちなみに義弟と友人たちは生徒会の仕事で生徒会室に集まっているが……


今日は、トムさんから届けてもらった特製の肥料を早くまいてしまいたかったので、友人たちに引っ張られる前に早々に退散してきたのだ。


そうして、寮に向けてトコトコ歩いていたのだが……『ぐ~ぐ~』とお腹が壮大になり始めた。

今日の昼は次の時間の授業の課題を忘れ、キースに小言を言われながら写させてもらっていたので、昼食を十分に食べることができなかったのだ。

ひと仕事する前に、アンに何か食べるものを準備してもらおう。

そんなことを考えていると――犬並と自負する嗅覚がなにやら、とても香ばしく美味しそうな匂いをとらえた。


そして、思わずフラフラと匂いに誘われ、道から少し外れた林の方へ向かうと――


そこにはマリアちゃんと、おそらく学園の生徒であるのだろう数人の令嬢が立っていた。


まるで、マリアちゃんを囲むように並んだ彼女達はその煌びやかなドレスからおそらくそこそこに位の高い貴族の令嬢であることがわかる。


そして、そんな令嬢たちに囲まれたマリアちゃんの腕の中にはハンカチのかかったバスケットが抱えられており……この香ばしく美味しそうな匂いはその辺りから漂ってきていた。


ということは!あれは、まさかお願いしていた、手作りお菓子ではないのか!

昨日、約束したばかりなのに、もう作ってきてくれたのね。なんていい子なのかしら!


感激した私が、こちらに気付いていないマリアちゃんと令嬢たちに駆けよっていこうとした……まさにその時だった。



『バシン』と大きな音が林に響いた。

マリアちゃんを囲んでいた令嬢の一人が手を大きく振り上げ、マリアちゃんの持っていたバスケットを地面へと叩き落としたのだ。


そして、叩き落とされたバスケットから、おそらくマリアちゃんの手作りであろうお菓子、マフィンのようなものがコロコロと転がり落ちた。


「光の魔力を持っているというだけでチヤホヤされて、いい気になっているんじゃないわよ!こんな平民が作った貧相な物を生徒会の方々に食べさせようなんて、不相応にもほどがあるわ!」


バスケットをたたき落とした令嬢はそう言うと、今度は地面に落ちてしまったお菓子をあろうことか、踏みつけようとしたではないか!?

ちょっと、私のお菓子になんてことを~~!!


「やめなさい!」


私はそう叫ぶと令嬢たちとマリアちゃんの間へと入った。


「……カ、カタリナ・クラエス様……」


今、まさにお菓子を踏みつけようとしていた令嬢はもちろん、回りを囲んでいた他の令嬢も突然の私の登場に目を丸くした。


「あなたたち、一体何をしているの!」


マリアちゃんがせっかく私のために作ってきてくれたお菓子になんてことをするのだ!

私はギロリと令嬢たちを睨んだ。


「……ひっ」


ご令嬢たちが途端に青くなった。

だてに悪役顔はしていない!こうして睨みを効かせればその効果は倍増だ!


私のお菓子を駄目にしようとしたその罪、許し難し!


私は持てる目力を駆使し、さらに鋭い目つきを令嬢たちに向ける。


そんな私の怒りを感じとったのであろうご令嬢たちは――


「申し訳ありませんでした」


と青い顔で頭を下げたと思うと我先にと、淑女にあるまじき猛ダッシュで去って――いや、逃げていった。


……うん。今日も悪役面の効果は絶好調である。



それにしても……私は地面に転がったマリアちゃんの手作りお菓子に目を向けた。

落ちた地面が芝生だったため、土もほとんどついていないようだ。


私はまずバスケットを拾い、その中に落ちたお菓子を入れていく。


すると、相変わらずにいい匂いのするそれが空腹のお腹を刺激し……我慢ができなくなった私はついそのお菓子に手を伸ばしてしまった。


そして、パクリと口に頬張った。


「……美味しい」


それは、今まで食べてきた数々のお菓子の中でもかなり上位に入るほどの美味しさだった。

これ、美味しすぎる!

なんだ、このまろやかな口触り、そしてこの甘すぎもせず、物足りなくもない絶妙な甘さ加減がたまらない。

その、あまりの美味しさにお菓子に夢中になった私は――気が付けばバスケットに拾ったお菓子をすべて完食してしまっていた。


そして『ふう、満腹満腹』と顔をあげた私を――マリアちゃんが驚愕の表情で見つめていた。



……し、しまった~!?つい、調子に乗ってマリアちゃんの手作りお菓子を全部食べてしまった~

それなりに数があったから、多分、生徒会の皆の分もあったのだろう……

……というか、もう私に作ってきてくれたんだと思いこんで、食べちゃったけど……

そもそも、私への物じゃなかった可能性も……これはやばい!


「あ、あの、つい調子にのって全部食べちゃって……ごめんなさい」


私は大慌てでマリアちゃんに頭をさげた。

するとマリアちゃんがどこかオドオドしたように言った。


「あ、いえ。それは構わないのですが……あの地面に落ちてしまった物でしたので……」


ああ、なるほど、そっちね。

『あなたに作ってきた物じゃないのに』とか言われなくて、よかった~。


「落ちたのは芝生の上だったし、ほとんど汚れてなかったから問題ないわよ」


すぐに拾って食べたのだし、三秒ルール的にもセーフである。

私はそう言って胸をはる。


「……そ、そうですか」


マリアちゃんがなんだかちょっぴり困ったように笑った。



それにしても――


「キャンベルさんは本当にお菓子作りが上手なのね。とても美味しかった」


そう、マリアちゃんの手作りお菓子は私の期待をはるかに超えるほどに本当に美味しかったのだ。

あのまろやかな口当たりに、あの絶妙な甘さ、もうそこら辺のプロの料理人さんに全く劣らない素晴らしい出来栄え。

というような感想を私が熱く語るとマリアちゃんは――


「……ありがとうございます」


とほんのり頬を赤く染めて恥ずかしそうに笑った。


その可愛さに思わずドキドキしていると――学舎の方からジオルド王子がやってきた。


なんでも、本日は生徒会の会議なのだが、いつまでたってもやってこないマリアちゃんが心配になり、探していたらしい。


バスケットを抱え込みしゃがみ込む私と、頬を赤くして立ち尽くすマリアちゃんに、ジオルドはなんだか怪訝な目を向けたけれど……マリアちゃんが『偶然、カタリナ様にお会いして、お話しをさせていただいていたんです』とごまかしてくれた。

ここで『カタリナ様が皆さんに作ってきたお菓子を全部食べていました』とか言わないでくれてありがとう。

そんなことが知られたらまた『人の分までお菓子を食べるなんて!』とジオルドやキースに怒られる所だった。



そうして、無事にマリアちゃんを見つけたジオルドは、彼女を連れて生徒会室へと戻っていった。

なぜだかついでに、私も引っ張って行かれそうになったのだけど、今日は畑に肥料をまいてしまいたかったので、丁重にお断りさせていただいた。



そうして、お腹も満たされた私は、寮で作業着に着替えると、畑へと向かった。





それにしても、マリアちゃんがあんな風に嫌がらせをされていたなんて……

私は畑作業をしながら、先ほどのことを思い出していた。


平民であるのに、特別な魔力を持っており成績もよい。ちなみに顔も性格もいい。

おまけに学園の憧れである生徒会のメンバーにも選ばれた。


学園の羨望の的であるマリアちゃんは……プライドの高い貴族達にとっては嫉妬の的だ。

だからこそ、あのように絡んでくる者達が出てくるのだ。


そもそもゲームでは、あのように主人公に絡む役割は殆どカタリナがこなしていたのだが……

いまはそれがない。

それでも、この学園は高位な貴族であふれている、たとえ、カタリナが率先して主人公を苛めなくても、第二、第三のカタリナが次々に出て来るのだろう。



それにしても、マリアちゃんがせっかく作ってきてくれたお菓子をあんな風にするなんて、本当にひどい子達だ。

もう少しで食べられなくなるところだった。


もう、本当にゲームのカタリナみたいじゃないか!

プライドが高くて意地悪で――


……ゲームのカタリナ……



そういえば、ゲームのカタリナがまさに今日のように、マリアちゃんに嫌がらせをするシーンがあった気がする……


マリアちゃんが生徒会の皆のためにと作ってきたお菓子を持って、生徒会室に向かう所に絡んで、そのお菓子を地面にたたきつけ、あろうことか踏みつけようとする。


そんな、窮地に攻略対象であるジオルドが颯爽と現れ、悪役令嬢カタリナとその仲間たちを華麗に撃退するのだ。


そして、地面に落ちたお菓子を拾って、口にいれ『とっても美味しいですね』とやさしくマリアちゃんに笑いかけるのだ。


もう、普段のジオルドとは違う、そのやさしい笑顔に画面越しにだいぶ興奮したものだった。




そうか、今日のあれは、あのイベントだったのか……

悪役令嬢がカタリナじゃなかったから気が付かなかった。


そう考えれば、あとからジオルドがやってきたのも納得だ。

だって、ジオルドのイベントだったのだから。

そうかージオルドのイベントだったのかー。


……ということは私、ジオルドのイベント横取りしちゃった!?


だって、本来、ジオルドが止める所をつい私が止めちゃったし、ジオルドが追い払う予定だった令嬢達も私が悪役面を使って追い払っちゃったし……

おまけに、ジオルドが食べて最高に素敵な笑顔を見せるはずだったお菓子をジオルドが来る前にすべてお腹に収めてしまった……


うわー、ジオルドごめんなさい。

大切な友人の恋のイベントを横取りしてしまったよ……

……これじゃあ、マリアちゃんとジオルドの恋が進展しないよ。

本当に申し訳なかった……


……あれ?もしかして進展しない方が良くない?


だって、ジオルドとマリアちゃんが上手くいってしまうともれなくカタリナが破滅してしまうわけだから……


むしろ、よくやったじゃないか私!えらいぞ私!

意図せずに破滅フラグへの道を遠ざけていたなんて、素晴らしい!


よ~し!じゃあ、この勢いにのってどんどん頑張るぞ!


そうして決意も新たに、私はトムじぃちゃんに送ってもらった特製肥料を畑にまき始める。



しかし、あまりに調子にのってまきすぎ……


その後、アンに小言を言われながら一緒に回収作業に明け暮れた。



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