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魔法学園に入学しました

第二十三話を更新させて頂きましたm(__)m


春を迎え、ついに私たちは魔法学園へと入学した。

魔法学園、その名の通り魔法について学び、訓練をする学園である。


十五歳を迎えた魔力を持つ者を、国中から集め、全寮制でみっちり二年間の教育を行う学び舎である。


この学園は国により運営されており、国内の学び舎では一番の規模を誇る。

その巨大な敷地の中には、学舎をはじめ、学生と教師の寮、魔法の研究施設などの様々な施設があるのだ。


ちなみにこれほど立派な施設が国によって創られているのには理由がある。


それは魔力を持つ者、そしてその者によって生み出される魔法がこの国の大切な財産であるからだ。


他国では、魔力を持って生まれる者は、ほとんどいない。

ゼロでこそないが、それはかなりの少数である。


それに比べ、わが国は他国に比べ群を抜くほどの沢山の魔力を持つ者が生まれる。

そして我が国はその魔力を持つ者たちの魔法の力を使い、大きく発展してきたのだ。


よって、その魔力を持つ者たちは国の財産とされ、大切にされる。


そんな大切な財産である魔力を持つ者達が、その魔力を立派に扱えるようになるように、そして国として、より魔力の高い魔法の才能ある者を見つけるために魔法学園は創られたのだ。


この学園で、その魔法の実力を認められた者は、この国で王に次ぐ権力を有しているとも言われる、魔法省と呼ばれる強大な魔法使いの組織での地位が約束されている。


そうして毎年、十五歳を迎えた魔力を持つ少年少女たちが、国中から学園に集められる訳なのだが……

そのほとんどが、貴族なのである。


そう、我が国には他国に比べると沢山の魔力を持つ者が生まれるのだが、そのほとんどが貴族以上の者であり、尚且つ高位な貴族の方がよりその割合は多いのだ。


そのためなのか、魔力の有無、大きさは貴族のステータスと考えられ、魔力があること、その魔力が高いことがわかると、より高位の貴族に養子に出される者も多く、学園に入学する頃には、魔力を持つ多くの者が高位の貴族になっている。



だが、もちろんすべての魔力を持つ者が貴族であるわけではない。

とても稀ではあるが、平民の中にも魔力を持つ者が生まれることはある。

そして、例え平民であっても、魔力を持つ者は必ず学園に入学することになっている。


しかし、平民で魔力を持って生まれるものは大変稀であり、もう十年以上、この魔法学園に平民の生徒はいなかったらしい。


そんな中、今年は十年ぶりに平民で魔力を持つ者が学園へと入学してきた。


マリア・キャンベル。平民であるというだけでも、かなり珍しい存在である彼女は、さらに光の魔力を持っていた。


五つの魔力の内、最も強い力を持つという光の魔力、その魔力を持つ者は、本当に少なく、現在、わが国でもほんの一握りしかいないと言われている。


そんな『平民』であり『光の魔力を持つ』マリア・キャンベルに注目が集まらないはずがない。

入学式から彼女は、それは多くの視線を集めていた。


そして、私もみんなの視線の先を辿り、彼女を見つけた。


金色に流れる美しい髪に、青く澄んだ瞳のそれは美しい少女。

その美しさに思わず、見惚れてしまいそうになる。


『平民』で『光の魔力を持つ』少女、きっとこの学園で、いやこの国で今、一番に特別な女の子、マリア・キャンベル。


乙女ゲーム『FORTUNE・LOVER』の主人公が確かにそこにいた。


ついに主人公が登場しゲームは始まったのだ。

これからゲーム終了までの一年間、カタリナ・クラエスの破滅フラグとの戦いが始まる。


『破滅フラグになんか負けないわ!』

私は拳を握りしめ深く、決意を固めるのだった。







なんて、入学式で意気込んでみたのはいいが……


入学してたったの数日、私はすでに、主人公マリアの魅力のすごさに圧倒されていた。


なぜなら主人公のマリアは入学してたった数日で、もうその魅力で、ジオルドの興味を引き付け、キースを魅了してしまったのだから。




「そういえば、先ほど、光の魔力を持つ女の子に会いましたよ」


ジオルドがそんなことを言ってきたのは、寮の談話室でキースと三人でのんびりとお茶を飲んでいる時のことだった。

ジオルドに、珍しいお菓子が手に入ったからと誘われ、貰ったお菓子をほおばりながら、お茶を啜ったまさにその瞬間に、この言葉を聞かされ、私は危うく飲んでいたお茶を吹き出しかけた。


なんとか、口の中で食い止め飲み込んだが、もう少しで食堂のテーブルクロスと、目の前の王子様をお茶色に染め上げる所だった。

本当に危なかった……

そうしてあわやの事態を回避してほっとする私の横で、キースがジオルドの話に興味をしめした。


「ああ、今、色んな所で話題になっている平民の子ですね」

「そうです。その子に先ほど、学園の敷地内を散策していたら、偶然出くわしたんですよ」


学園敷地内の散策中に出くわした……それってジオルドと主人公の出会いイベントだ!


主人公は持ち前の好奇心で、学園の広い敷地を散策してみるのだが、あまりに敷地が広くて散策の途中で迷子になってしまうのだ。

そして、もう自分がどのあたりにいるのかわからなくなった主人公は、『木に登って高い所から位置を確認すればここがどこかわかるかも』とスカートのまま木に足をかけ登ろうと試みる。

するとそこに金髪碧眼の王子様、ジオルドが現れるのだ。


ジオルドに、はしたない姿を見られ顔を赤くする主人公。

そうして、スカートで木に登ろうとしていたちょっとお転婆な主人公に、ジオルドは興味を持ち、迷子になって困っていた彼女を寮までエスコートする。


……というだいたいゲームのシナリオ通りの出来事をジオルドは話し、私はそれを絶望的な気持ちで聞いていた。


ああ、やはりゲーム通りなんだ……

この出会いでジオルドは主人公に興味を持ち始めて……

そして、もう少しすると、きっと恋に落ちるのだ……


「へぇー。姉さん以外にも、スカートで木に登ろうとするような女性がいるんですね」

「僕もカタリナ以外では初めて見ましたよ。まあ、カタリナで見慣れているから、特になんてこともなかったのですが、あちらはだいぶ取り乱していましたね」

「……そうですよね。普通はスカートで木に登っている姿を見られたら取り乱しますよね……『私は木登りのプロだからこのくらい大丈夫よ』とか得意げに返しませんよね……」

「まあ、カタリナは規格外ですからね。でもそこがカタリナの素敵な所ですけどね。……というか、カタリナ聞いていますか?」


ああ、そうして主人公に恋をしたジオルドは、他の貴族令嬢たちからの防波堤代わりに仕方なく婚約していた婚約者のカタリナ・クラエスの存在が邪魔になり……そして…邪魔者を……


「カタリナ聞こえていますか?……駄目ですね。まったく聞こえてないですね」

「……そのようですね」


ああ、駄目だ…………まだ始まって数日なのに、すでに破滅が着々と近づいてきている……


こうして、動揺しまくり、すっかり自分の世界に入ってしまった私は、肝心のジオルドと主人公の恋の進展具合

を確認することも忘れて……

『もう、部屋に戻らないといけない時間だから』とジオルドとキースに促されるまで一人悶々とし続けたのだった。


そして……どうも、私の様子がおかしくなったことに気付いた二人から―


「姉さん。さすがに、もうここは家じゃないのだから、あまり変なものを拾って食べたら駄目だよ」

「そうだよ、カタリナ。君ももう十五歳になったのですから、変なものを拾って食べるのは止めないといけませんよ」


と『拾い食いをして調子が悪くなった』というあらぬ誤解を受けることとなってしまった。

……まあ、今までも何度かそういうことあったからね……


でも、一つ言い訳させてもらうと……私は『拾って』食べてなどいない!木などの植物から『もぎ取って』食べているのだ!決して地面に落ちているものを食べているわけではないので『拾い食い』ではないのだ!

それに、十回食べたうちだったら、お腹壊したのはたったの二回くらいの話なのに……








「僕も、この間、ジオルド様が話していた光の魔力を持つ女の子に会ったよ」


ジオルドの衝撃の告白から、わずか数日後、今度は義弟キースがこのような発言をしてきた。


それは朝の仕度を終えて、迎えにきてくれたキースと一緒に登校しましょうかという所だったので、今度は口からお茶を吐き出す心配をしなくてもよかった。

なので……


「……なにっぬ!」


という謎の叫びをあげるだけで済んだ。


「……ね、姉さん。どうしたの」


突然、謎の叫びをあげた姉にやや怯んだ様子の義弟に私は詰め寄った。


「そ、それはまさかナンパしたの?!」


ゲームでのキースと主人公の出会いイベントはキースによるナンパだ。

なぜならゲームのキースはナンパなチャラ男であり、女の子と見ればとりあえずひっかけるような、危険な男であった。

そのため、偶然、見つけた噂の光の魔力を持つ、他の令嬢たちとは毛色の違う主人公に興味をもちナンパするのだ。



「……な、なに『なんぱ』って……」

「…え~と、ナンパとは……なんだろう……。う~ん。女の子をふしだらな行為に誘うことかな……」

「……ふ、ふしだらな行為に誘うって……そんなことするわけないだろう!」


キースは真っ赤になって叫んだ。

まぁ、確かにキースがナンパするとか考えられない。

ゲームではチャラ男の遊び人だったキースだが、私の教育の賜物で、現実は、チャラ男とは程遠い素晴らしい紳士に育った。

……まぁ、無自覚の女タラシにはなってしまっているが……


顔を赤くして必死に否定するキースに『じゃあ、どうしたのよ』と詰め寄れば―


「前を歩いていた彼女が、ハンカチを落としたから拾ってあげただけだよ……」

「……ハンカチ……」


そうだ!ゲームのキースは主人公に興味を持ち、初対面でナンパするもあえなく失敗。そして自分の誘いを断った主人公にさらに興味を持つことになる。

そして、キースの誘いを断り去っていった主人公は、去り際にハンカチを落として行く。


それを見つけたキースは、後日、そのハンカチを手に再び主人公の前に現れ『これ、君のだろう?返して欲しければ僕と遊んでよ』と再び主人公に迫っていくのだ。


「……で、そのハンカチはどうしたの?」


おそるおそる、そう問えば……


「どうしたも何も、拾ってそのまま本人に渡したよ」

「そ、そうなの」


そうか、ハンカチはキープしてこなかったのか……

ではそのハンカチで、主人公に迫ることはなさそうだ…

だけど……ここはジオルドの時の失敗を教訓にきちんと確認しておかなければなるまい。



「……で、その光の魔力の持ち主さんに会って、キースは……その、どんな感じだったの?」

「……どんな感じって?普通にいい子だったよ。丁寧にお礼を言っていったし……」


キースはよく意味が分からないといった様子で答えたが……


ああ、違うのよ!キース。私が聞きたいのはそう言うことではないのよ!

ここはもう、直球で聞くしかあるまい!


「だから!マリアさんと会ってキースはどう思ったのよ?マリアさんの美しさに恋に落ちちゃったりしたの?」


私よりだいぶ高くなったキースの肩をがっちりと掴みながらそう問うと、キースは目を大きく見開いた。


「!?……恋に落ちたって……姉さんそれは一体どういう意味……」


ああ、こんなにも驚いている義弟をみるのは彼がクラエス家に来た頃以来だ……

これはきっと図星なのだ……間違いない!キースはすでにマリアに惹かれているのだ!


「……やっぱり、もうマリアさんのことを好きになったのね……」

「……え、姉さん。本当に一体、何言ってるの……」


私は掴んでいたキースの肩にさらに力を入れた。


「いいのよ。隠さないで、私たち姉弟じゃない!ただね、一つ言っておきたいのは……私はキースとキースの好きな人の仲を邪魔する気はまったくないから!私はマリアさんとキースのことちゃんと応援するから!絶対に邪魔はしないから!」


私は決してあなたの恋を邪魔しません!味方になるから!

だから、間違ってもお姉ちゃんを消さないでね!


という深い意味も込めつつそう宣言し、キースの顔を仰ぎみれば……

なぜだかキースは表情を失くしていた……

心なしかさっきよりも顔色が悪くなっている気もする。


「……キース?」


きょとんとする私に、私の後ろについていたアンが声をかけてきた。


「お嬢様、どうかそれ以上は……キース様はもう限界でいらっしゃいます」


限界……そうか!

アンの言葉で、私は自分が無意識のうちにキースの肩を掴んだまま、激しく揺さぶってしまっていたことに気が付いた。


先ほど、朝ご飯を食べたばかりなのに激しく揺さぶられて、気持ち悪くなってしまったのだろう。

無意識とはいえ、ひどいことをしてしまった。


「ごめんね、キース。朝ご飯を食べたばかりなのに揺さぶってしまって、気分が悪いようなら授業をお休みして医務室で休んでいる?」


私は謝り、そう提案したのだが……

相変わらずの顔色のままキースは『大丈夫』だと答えた。


「……でも、気持ち悪いようなら……」

「いや、気持ち悪いわけじゃないから……そもそも身体は大丈夫だから……問題なのは精神面だから……」


キースはなんだか、よくわからないことをぶつぶつ呟きつつも『本当に身体は大丈夫だから』と医務室に行くことを拒否した。

そして、メアリやソフィアたちと合流し、学園に向かう途中もキースの顔色が戻ることはなかった。

かなり我を忘れていたので、それは激しく揺さぶってしまったのだろう。

本当に、申し訳ないことをした。



そうしてそのまま授業を受けたキースの具合が心配だったが、次の休み時間にはもうだいぶ、いつものキースに戻っていて―


「そもそも、敵のその鈍さと頓珍漢さを甘く見ていたことが原因だから……これからはもっとどんどん押していくことにする」


と私の手を握りながら、そんなよくわからない宣言をしてきた。


しかし、まったく、私だから大丈夫なものの……

只でさえ、異様にモテるのに……

軽々しく女子の手を握りしめて顔を近づけるなんて、なんて危険な子なのだろう。

こんな調子だとまた純情な女の子たちを無暗に誑かしてしまうではないか……


せっかく元に戻ったばかりなので、今は大目に見るけど、あまりこんなことが続くようなら姉としてしっかり注意せねばなるまい。




それにしても、本当に主人公マリアさんの魅力はすごい……

まさかこんな数日でもうジオルドの興味を引き、キースを魅了してしまうなんて……

本当にさすがだ。


これはもう一度、きちんと作戦を立てた方がよさそうだ。




そうしてその夜、私は寮の自室にて作戦会議を決行した。




では、カタリナ・クラエス破滅エンド回避のための作戦会議を開幕します。

今回は副題に『~主人公マリアさんの魅力がすごいので~』を入れていきたいと思います。


議長カタリナ・クラエス。

議員カタリナ・クラエス。

書記カタリナ・クラエス。



『では、みなさん意見をお出しください』

『はい』

『はい。では、カタリナ・クラエスさんどうぞ』

『副題にもありますが……主人公のマリアさんが想像以上に魅力的です!すでにジオルドの興味を引き付け、キースを魅了しているようです!』

『そのようですね。さすが主人公さんですね』

『でも、ジオルドはまだ魅了されたわけではないのでは?』

『あの何にも関心なさそうな、ジオルドが興味を持ったんですよ。もう魅了されるのも時間の問題ですよ』

『そうですか?確かにゲームでのジオルドはそうでしたけど、実際のジオルドは結構、色んなものに関心あるようだけど、畑のことも詳しくてアドバイスくれるし、お菓子にも詳しくて色々持ってきてくれるもの』

『……確かにそうね。でも特定の人に興味を持ったのは初めてじゃないですか?だって、ジオルドときたら、いつもカタリナのことばかりで、彼の口から気になる女の子の名前とか聞いたことないもの!』

『そうね、そう思うと初めて興味をもった女の子である主人公さんに惹かれるのも時間の問題かも知れないですね』

『本当に、主人公さんはすごいですね』


『このぶんならアランやニコルもすぐにマリアさんに魅了されてしまうでしょうね』

『そうですわね……』

『……果たしてそうでしょうか?』

『え!?どういうことですか?』

『確かに主人公のマリアさんがゲーム通りなら勉強もできて魔力も高くて、おまけにすごい美少女だけど……それならメアリやソフィアだって全然、負けてないわよ!』

『!?』

『アランやニコルルートのライバルキャラである二人は、頭もいいし、魔力も高いし二人ともマリアさんに負けないくらいの美少女なんだから!マリアさんだってそう簡単には勝てっこないわ!』

『その通りね!あんなに魅力的な二人がそう簡単に負けたりしないわよね!』

『そうよ、二人は簡単に負けっこないわ!負けるとしたら、頭も魔力もしょぼいカタリナくらいよ!』

『そうね。負けるとしたらカタリナくらいだわ。それなら、よかったわ』

『そうね、よかったわ』




『…………………ってちっともよくないでしょう!!カタリナ負けたら駄目じゃないですか!!破滅エンド一直線じゃないですか!』

『本当だわ!?カタリナ負けたら駄目だったわ!』

『……確かに、負けたら駄目でした……でも、皆さん。冷静に考えてみてください。頭がよくて魔力も高い美少女に、頭も魔力もしょぼい悪役顔の女が勝てると思いますか?』

『…………』

『…………』


『………は、畑を作りましょう!この間読んだ『農業のすすめ』に『農業とは経験の積み重ね』と書いてありましたわ。やはり学園にいる間も畑作業を怠るわけにはいかないわ!』

『そうですわね!それにヘビの玩具を投げる練習も重ねなければ、いざという時に自然に投げられるようにしておかなくては!』

『あとは、先生からオッケーを貰ったとはいえ、剣の訓練も怠らずに続けましょう!』

『そうですわね!』



『では、明日より学園にお願いして畑を作りつつ、ヘビの玩具を投げる練習と、剣の訓練を続けるということでよろしいですかな』


『『『 はい  』』』



こうして、カタリナ・クラエス破滅エンド回避のための作戦会議は閉廷した。

特に新しい案がでることもなく……



「朝になったら、学園の先生に園内に畑を作らせてもらえるようにお願いに行こう」


そうして私は、実家より少し小さめのベッドにもぐり眠りについた。






数日後、授業を終えた私は、ほとんど人は来ないであろう学園の敷地の隅っこで、土を掘り返している。


「お嬢様、これは花壇なのですよね?」


アンが怪訝な顔でそう尋ねてきた。


「ええ、そう花壇よ。アンとキースが畑は絶対にダメだっていうから、花壇にしたんじゃない」


そうなのだ。私はもう畑を作る気満々だったのに、さすがに『公爵家令嬢が自分の家の敷地内ならまだしも、学園内で畑作りは駄目だろう』とキースとアンに大反対されたため、『じゃあ花壇で』と妥協し、学園にも花壇を作りますと届け出た。


貴族の趣味としての園芸は意外と一般的らしく割とあっさり許可もおりた。


だから、私はこうして花壇をつくっているのだ。


しかし、アンがさらに怪訝そうな顔を向けてくる。


「しかしお嬢様、私にはそこに並べてある苗がどうしても花には見えないのですが……」

「アンったら、何を言っているのよ。これはちゃんと花よ。こっちはきゅうりの花が咲くし、こっちはナスの花が咲くのよ」

「……お嬢様……つまりは私の見間違いではなく間違いなくそれは野菜の苗なのですね……」

「そうね、確かに最終的には野菜が実るけれど……その前にはちゃんと花が咲くわ!」


そう言って胸を張る私を見てアンが深いため息をつく。


「どうりですぐに納得されたと思ったら……」

「もう、こうして苗も取り寄せてしまっているし、いいでしょう?」


そう言って上目づかいで、アンを見つめれば、アンは再び深いため息をついた。


「……わかりました。ただ、他の生徒の方々や、学園の方にはばれないようにしてくださいね」

「ありがとう!」


やった~!アンに許してもらえた。

後はキースを説得できれば、もう文句をいう人はいないはずだ。




「……それにしても、お嬢様、その鍬と作業着にどうも見覚えがある気がして仕方ないのですが……」

「ああ、これ?見覚えがあって当然よ。だってずっと家で使っていたものだもの」


私がそう言うと、アンがひどくげっそりした顔をする。


「……やっぱり……しかし、お嬢様、私の記憶が正しければ、その作業着に鍬は確かにクラエスのお屋敷においてきたはずなのですが…」

「そうなのよ!せっかく私がちゃんと荷物に詰めたのに、アンったら荷物から抜いておいてきてしまうんだもの!仕方ないから、わざわざ家から庭師のトムじぃちゃんに届けてもらったのよ!」

「……トムさん、まさかの裏切り……」


そう呟いたきり、静かになったアンを横目に私は、せっせっと鍬を動かした。

家の畑に比べればこぢんまりした畑だが、授業があるため、あまり畑にばかり時間もとれないので、頑張らなくてはならない。



その後、だいぶ小言をもらったが、なんとかキースの説得にも成功した。


ちなみに友人たちにも畑の存在はすぐにバレた。


畑を耕す私を見て、アランは『まさかこんな所に来てまでこんなことするなんて』と腹を抱えて爆笑し、ジオルドはそんなアランの横でひたすら俯いて肩を震わせていた。


メアリとソフィア、ニコルは、最初は驚いていたが、『必要ならお手伝いします』と言ってくれた。



乙女ゲーム終了まであと一年、破滅フラグを乗り越えるために私は日々、一生懸命に畑を耕す。


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― 新着の感想 ―
トムじぃ、ナイスッ!
[一言] 『本当に、主人公さんはすごいですね』
[良い点] やっぱりカタリナ大好きだーー♡⃛
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