<閑話>もう一度一緒に
閑話を更新させて頂きましたm(__)m
私の名前は佐々木敦子。
今年で十三歳になる。つい数日前に地元の中学に入学したばかりだ。
そして、まだ落ち着かない雰囲気の教室の一番後ろの席で一人本を広げる日々を過ごしている。
まわりではそれぞれの小学校からきた女子たちがどんどん新しいグループを作っている。
本来なら、私もそのグループに入れてもらえるように、親しく話かけていきたいのだけど……
私はどうもそういうのが苦手だった……
どうやって話かければいいのか、仲間に入っていけばよいのか、私にはわからなかった。
小学校では、そうして戸惑っているうちに気が付けばいつも一人になっていた。
そして、皆の輪の中からあぶれた私は異質なものとして他の子たちから無視されたり、からかわれたり、時には物を隠されたりするようになっていた。
そんな日々を過ごし、気が付けば人が怖くなり、より誰ともしゃべれなくなっていった。
そのため、こうして中学という新しい環境になった今でも……自分から人に話しかけることもできない。
だから、私はいつも周りで楽しそうにおしゃべりするクラスメイトたちを横目に、一人家からもってきた本を開くのだった。
マンガに小説、私は本が好きだった。
本を読んで、物語の中に入ってしまえば、一人ぼっちで寂しい気持ちを忘れることができた。
本を読み、物語の主人公になった自分を想像する。
いつも一人ぼっちで俯いている私も、物語の中では人気者の素敵な女の子になれた。
だから、私は今日もいつものように本を開く。
寂しい現実から逃げるために……
そうして日々は過ぎ、中学に入学して数週間がたった。
私は放課後のホームルームが終わると、図書館に寄って本を借りて帰る。
それはここ数週間で、私の日課となっていた。
生徒玄関で靴を履きかえ、運動部が部活をしている校庭を横目に校門へと向かう。
私は部活に入っていない。
本当は部活に入った方が友達も作れるのかもしれないが……一人で部室を訪ねていける勇気がなかったのだ。
いいな、楽しそうだな。
校庭をおしゃべりしながら駆けていく女の子たちを見てそんな風に思った。
その時だった―
「あぁ~~~~」
頭上で謎の叫び声が聞こえ、なんだろうと確認する間もなく突如、『ズドン』と身体に凄まじい衝撃が走った。
そのあまりの衝撃に私は意識を手放した。
「ううう、本当にごめんなさい」
誰かの泣いている声が聴こえて、ゆっくりと目を開けると目の前に涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった少女の顔があった。どうやら泣いていたのはこの少女のようだ。
「あっ、起きたよ!目を覚ましたよ先生!」
私の目が開いたことに気が付いた少女はそう叫ぶと、白いカーテンの向こうに飛んでいった。
状況がまったくわからない。私は眠っていたのだろうか。
ゆっくりとまわりに目を向ける。
白い天井、揺れている白いカーテン、そして私が横たわっていたのは白いベッドだった。
場所はよくわからないが、天井は見覚えのある校舎のものだ。
どうやら、ここは校舎の中のようだった。
あれ、でも私は確か校庭を横切って校門に向かっていたはずだったのだが……
そうして困惑する私の元に今度は白衣を着た女性が現れた。
「気分はどう?頭はクラクラしない?身体はどこか痛いところはある?」
白衣の女性に尋ねられ、私は自分の身体を確認する。
特に痛いところもないし、頭も大丈夫だと思う。
「……だ、大丈夫です」
私がそう答えると白衣の女性は穏やかな笑みを浮かべた。
「そう、よかったわ。でも一応、何かあるといけないから病院に行って検査してもらってきてね。親御さんにはさっき、連絡させてもらったから」
「……え、病院?検査?」
全然、状況がつかめずに茫然とする私に白衣の女性が困ったような顔を向けた。
「そうよね。突然の事で何がなんだか分からなかったわよね。ここは保健室で、あなたは気を失ってここに運ばれたのよ」
「…………気を失って……」
ここは保健室だったのか、ちゃんと入ったのは初めてだったので、どこかわからなかった……ということはこの白衣の女性は保健室の先生なのだろう。
それにしても、私は特に持病もないし、今日も具合が悪い所なんてなかった。
なのになんで、気を失ったりしたのか……
ますます疑問が膨らみとても困惑する。
そして、私のその疑問に気付いたのだろう先生が苦笑しつつ説明を続けた。
「おそらく、気を失ったのはあなたの体調が悪かったとかではないと思うわ。というか原因は間違いなくこの子だから」
そう言って、先生が示した先には、先ほどの少女が立っていた。
相変わらずその顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃのままだ。
「ごめんなさい」
少女はそう言って私に向かって深く頭を下げた。
「つい、校庭の木の魅力に誘われて登りたくなって……初めは良かったんだけど少し調子に乗っちゃったら……足を滑らせて落ちちゃって……それであなたを下敷きにしてしまったの……本当にごめんなさい」
そういえばあの時、頭上から謎の叫び声がして、その直後に凄まじい衝撃がきたような気がする。
あれは、この少女が私の上に落ちてきたからだったんだ。
それにしても小学生ならまだしも中学生のしかも女の子が校庭の木に登るとは―
しかも……『校庭の木の魅力に誘われて』ってよく意味がわからない……
私は泣き顔で必死に頭を下げて謝る少女を改めて見つめた。
そして、気が付いた。
少女が制服のスカート姿であることに……
そしてそのスカートが土で汚れ、しわくちゃになっていることに。
おそらく木から私の上に落ちた時に汚れたのだろうが……ということは……
つまり、この少女はスカート姿で校庭の木に登っていたということになる。
なんだかだいぶ変わった子みたいだ……
「あの、もう大丈夫なので」
いつまでもこんな風に頭を下げられるのはなんだかいたたまれなくて私はそう少女に言った。
「……でも」
困った顔をする少女に私はもう一度、繰り返した。
「本当にもう大丈夫なのであまり気にしないでください」
突然、頭上に落ちてこられて下敷きにされた。
本当ならもっと怒ってもいいのかも知れなかったが……
目の前の少女はこんなにも反省している……
それに……困り顔で眉を下げている少女はなんとも憎めない不思議な雰囲気を持っていた。
「わざとではないのだし、本当に気にしないでください。それよりあなたに怪我は?大丈夫でしたか?」
私はそう言って少女に笑顔を向けた。
「私は大丈夫。ありがとう、佐々木さんは優しいんだね」
ずっと泣きそうな顔をしていた少女も笑顔になった。
それにしても……
「……どうして名前を……」
なんでこの子は私の名前を知っているのだろうか。
持ち物か何かで確認したのだろうか。
「何言ってるの?知ってるよ。だって私たち同じクラスじゃない」
「……!?」
きょとんした顔でそう言った少女の顔を私はまじまじと見つめた。
そういえば、なんだか見たことがあるような気もした。
……そうか、クラスメイトだったのか……
中学に入学して数週間、人と関わらずに一人で本ばかり読んでいた私は、まだほとんどクラスメイトの顔も名前も覚えていなかった。
「……私、まだあんまりクラスの子の顔も名前も憶えていなくてごめんなさい」
相手が覚えていてくれたのに、私はそうでないことが申し訳なかった。
不快にさせてしまったらどうしよう……
そんな私の不安をよそに少女はにっこりとほほ笑んだ。
「そうなんだ。では、改めまして私は一年三組の――」
そう言って自己紹介した少女が、私に手を差し出した。
差し出された手を思わず握り返せば、少女は満面の笑みで言った。
「これからもどうぞよろしくね」
しっかりと握られた少女の手はとても暖かかった。
そうして、その日から、私の一人ぼっちの生活は激変した。
「これからもよろしく」という言葉通りに、次の日からこの木登り少女は何かというと私に寄って来るようになり、気が付けば私の初めての友人になっていた。
そして―
「あっちゃん~~助けて~~」
友人が情けない声をだしながら背後から抱きついてきた。
「……今度は何?」
私は至極冷静に聞きかえした。
「英語の訳が今日、あたる日なんだけど、やってくるの忘れちゃって……前も、その前もその前も忘れちゃってるから先生から『今度忘れたら罰掃除をやらせる』って言われてるのに……」
半べそ顔の友人に私は呆れてため息をついた。
「……忘れすぎでしょ……」
私が呆れながらも英語のノートを差し出せば友人は、ぱぁーと笑顔になった。
「英語の授業までには返してよ」
「あっちゃん様、ありがとうございます」
そう言って私に頭を下げると友人は自分の席にダッシュでもどり、必死にノートを写し始める。
「佐々木さんって、もうすっかり野猿のお世話係になっちゃってるね」
私と友人のやり取りを近くで見ていたクラスメイトの女子の一人がそう言って苦笑した。
「……野猿?」
「そう、野猿。小学の時のあの子のあだ名。私、小学校が一緒だったの」
私の疑問に彼女はそう答えて、また苦笑した。
「休み時間には校庭の木に登って飛び移って遊んで、近所の山でもいつも、そんな風に遊んでいたらしくて、近所で一時期『あの山には巨大な猿がいる』なんて噂も流れたのよ」
「……それはすごいね」
確かに、そんな小学時代だったのなら、中学の校庭の木にちょっとスカートで登るくらいなんてことないのだろう。
「しかも、あの通り課題も忘れてばっかりだし、先生にもいつも怒られてばっかりで、なのに次の日にはもうそれも忘れちゃうみたいで……また普通に忘れてくるの」
「……それはすごいね」
確かに友人はいつも怒られた直後は落ち込んでいる様子をみせるのだが、翌日には、もうケロッとしている。
どうやら、友人はどんなに怒られても、だいたいのことは翌日には忘れてしまうというなんとも羨ましい能力を持っているようだった。
しかし、それは本人的にはいいかもしれないが……周りは大変である。
私が『それだと周りは大変だったね』と言うと彼女は、ちょっぴり意味深な表情を浮かべた。
「でもね……あれはあれで一緒にいるとなんか楽しいんだよね」
そう言ってにやりと笑った彼女につられて私も思わず笑ってしまった。
その後、彼女に友人の小学時代の武勇伝を沢山、聞かせてもらい大いに盛り上がった。
そうして、気がつけば私には野猿の友人の他にもたくさんの友人ができていた。
そして、しばらくたった頃、ずっと野山をかけていたという野猿は、私の影響でマンガやアニメに嵌り始めた。
そのお蔭か、野猿は昔ほど野山をかけずりまわらなくなり、彼女のご両親には「猿を人間にしてくれてありがとう」というよくわからない感謝をされることとなった。
また、同じ趣味の友人を得たことで私もさらにマンガやアニメに深く嵌っていった。
そして二人して立派なオタクになった頃、私たちは親友となっていた。
そうしてオタクな友情を育みつつ、中学三年を迎え、近隣の高校へ一緒に行こうということになったのだが……
「あっちゃん……私はもう、駄目だ……後のことはまかせた……」
そう言って教科書を閉じようとする親友の頭を私は丸めたプリントでポコンと叩いた。
「何、言ってるの……まだ、初めて十分も経ってないでしょ!そんなんじゃ、高校浪人になっちゃうよ」
「……うっうっ、だって……この厚い参考書の文字の羅列を見てるとどうしても眠気が……これはきっとこの参考書に呪いがかけられているに違いないわ」
そう言って、始めて十分しか経ってない受験勉強を終了しようとする親友に私は深くため息をついた。
親友は運動神経こそいいが、勉強はからっきし駄目だった。頭が悪いというより興味がないことには打ち込めない性格のようなのだ。
正直、学校のテストだけならヤマを教えてあげれば何とかなってきたのだが……さすがに高校受験ではそうもいかない。
どうしようか……このままでは一緒の高校に受かるどころか、本当に高校浪人になってしまうかもしれない。
何か、この子はやる気にさせる方法は……
「よし!この受験が終わったら、私の秘蔵の乙女ゲームたちを思う存分やらせてあげる!」
「……お、乙女ゲームとは……あの……」
『乙女ゲーム』それは最近、私が貯めたお年玉で購入し手を出し始め、嵌り始めている新たなジャンルの商品である。
本来なら、親友にも勧めてやってもらい、共に語りあいたいのだが……
親友はその大雑把すぎる性格から『大金を渡したらすぐ無駄に使ってしまう』とご両親に判断され、決まったおこづかいを貰っておらず、お年玉も強制的に貯金へとまわされている。
そのため、親友は自分の意志で高価な買い物ができないのだ。
よって彼女は、ゲームはおろかゲーム機さえ持っていない。
さすがに私もゲーム機を二つ買って貸してあげる余裕もなく……
羨ましそうに見つめる親友には申し訳なく思っていたのだ。
「……でも、あっちゃん。私、ゲーム機持ってないのだけど……」
そう言って親友はしょぼんとする。
そんな彼女に私はとびっきりの笑顔を向ける。
「貸すわ!試験にちゃんと合格できたら、しばらくゲーム機ごとレンタルしてあげる!」
「……あ、あっちゃん様……」
親友はそれはキラキラした目で私を見つめ立ち上がり。
「ありがとうあっちゃん!私、乙女ゲームのために必ず、高校に合格するよ!」
と高らかに宣言した。
こうして高校に合格するための動機としてはいささか問題がある宣言をした親友は、それは努力し、見事に私と同じ高校に合格することができた。
そしてさらに幸運なことに高校合格の祝いに親友は両親からゲーム機を買ってもらうことに成功し、私の貸す乙女ゲームに私ともどもどっぷり嵌っていった。
高校ではさらなるオタク友達も増えた。そしてマンガやゲームを買うために親友と一緒にバイトをしたり、相変わらずに課題を忘れてくる親友をフォローしたり、賑やかな日々を過ごした。
小学時代ずっと一人で本を読み、誰とも話すこともなく過ごしていた日々が嘘のようだった。
賑やかで楽しい日々を、問題児だけど憎めない親友と過ごしていく。
これからもきっと変わらずこんな日々が続いていく。
そう思っていた。
その日は偶然、携帯を家に忘れてきていたこともあり、二年になってクラスが分かれた親友が登校してこなかったのを私は知らなかった。
『そういえばあの子、今日は遊びに来ないな』くらいにしか思っていなかった。
そして、放課後……私はもう二度と親友に会うことができないことを知った。
当たり前に続くと思っていた日々は……あまりにも突然に終わってしまった。
お通夜でも、お葬式でも……私は泣くことができなかった。
そもそも、これでもう永遠に親友に会うことができないことが信じられなかった。
だってあの子のことだもん、なんだかんだでひょっこりまた戻ってくるかも知れない……
お葬式を終えて、またいつもの日常がやってきた。
でも、待っても待っても親友は戻ってきてくれなかった。
そして数日が過ぎたある日、私はスマホのラインメッセージに未読のものが残っていることに気付いた。
親友のお通夜のことなど友人たちと連絡は取っていたのだが……気が付かなかった。
いつ送られてきていたのだろうか?
そうして開くと―
そこには見慣れた親友の名前があった。
日付は親友が事故にあった前日の深夜。
『あっちゃん。腹黒ドS王子が攻略できない~』
困り顔の絵文字付きで送られてきていたそのメッセージは、おそらく親友が必死にやっていた乙女ゲームのことだ……
……最後のメッセージがこれって……本当に最後の最後まであの子らしい。
そう思うとなんだか可笑しくなって私は笑ってしまった。
笑って笑って、笑い過ぎて涙まで出てきた……
そうして、あふれ出た涙は留まることなくあふれ出てきた……
もう目が溶けてしまうのではないかというほどずっとずっと流れ続けた。
あの子はいなくなってしまったけど、もう私は一人ぼっちではなかった。
だってあの子が私に新しい世界をくれたから……
私はあの子の最後のメッセージを写しているスマホを握りしめた。
もうあの子は帰ってこないのだ……
私はこれからあの子のいない日常を生きていく。
あの子がくれた新しい世界を私はちゃんと生きていく。
だから……もし、どこかの小説みたいにこの命が尽きた時、新しい命に生まれ変わることができるのなら……
その時は―
もう一度、あの子と友達になりたい……
もう一度、あの賑やかで楽しい日々をあの子と一緒に過ごしたい。
★★★★★★★★★★★
「……ソフィア様、ソフィア様」
誰かが呼んでいる声が聴こえてゆっくり目を開けると、ベッド脇でとても心配そうな顔をしたメイドが私を見つめていた。
どうやら、彼女が私を呼んでいたらしい。
「……どうしたの?」
私はまだ、ぼーとする頭で聞き返した。
「……あの、だいぶうなされておいででしたので、大丈夫ですか?」
「……うなされていた?」
私自身に自覚はなくてそう聞き返した時、私は自分の頬が濡れていることに気が付いた。
ああ、私は泣いていたのか……
そしてその原因にはなんとなく心あたりがあった。
「……とても悲しい夢を見ていたので、きっとそれでうなされてのかもしれないわ」
「夢ですか?」
「ええ、とてもとても悲しい夢だったの……でも、起きたらどんな内容だったのかすっかり忘れてしまったわ」
そう、内容はまったく覚えていないのに……それがとてもとても悲しい夢だったことは覚えていた。
「たぶん昔にあった出来事だと思うのだけど……」
「……昔のことですか……」
私の呟きにメイドはなんともいえない表情で固まってしまった。
私は数年前まで、異質な見た目から沢山の誹謗、中傷を受け部屋に閉じ籠っていた。
おそらく彼女はその頃のことだと思ったのだろう。
「……あのね。部屋に籠っていた頃のことではないのよ。それよりもっと、もっとずっと昔のこと……」
そう言った私にメイドは不思議そうな顔をする。
それはそうだろう。まだ成人もしていない私がそんなずっと昔のことを覚えているはずないのだから……
正直、私自身だって、よくわからないのだ……
内容をまったく覚えていない悲しい悲しい夢……
でもそれは確かに昔に、ずっとずっと昔にあったことだった気がするのだ……
そして、内容は憶えていないのに、胸にはとても悲しく辛い気持ちだけがしっかり残っていて、私をせつなくさせた。
そうして沈んだ気持ちでいると、メイドが私を元気づけるように言った。
「ソフィア様、今日はクラエス家にお出かけになる日ですよ」
それを聞いて私の胸に残っていた悲しく辛い気持ちが少し晴れていった。
そうだった。今日は、カタリナ様のお家に遊びに行く日だった。
昨日のうちにまたおすすめの本を選んでおいた。カタリナ様は喜んでくれるだろうか。
カタリナ様のことを考えると私の気持ちは浮上した。
身支度を整えて食事をして、準備をすませると私はいつものように兄と共にクラエス家へと向かった。
クラエス家に着くとカタリナ様はいつものように庭に出ていた。
そしていつものように義弟のキース様も一緒だ。
「キース、だから、これは絶対に食べられるキノコよ」
「いや、姉さん、その辺の木にはえてた得体の知れないキノコ、絶対に食べられないから」
「いやいや、これは食べられるやつよ。だってシイタケと同じ匂いがするもの。これ絶対シイタケの仲間だから」
「何、シイタケって……とにかくそんなよくわからないキノコ絶対に食べちゃダメだよ。お腹を壊すよ」
「いや、食べてみないとわからないじゃない……あ、ソフィア!」
何やら、キース様と言い合っていたカタリナ様が私に気付いた。
そして満面の笑顔で私に駆けよってくる。
その笑顔をみたら、まだ胸に残っていた悲しい気持ちが消えていく。
数年前のあの日、お城でのお茶会に参加して本当に良かった。
あの日、カタリナ・クラエス様に出会えて本当に良かった。
「カタリナ様、新しいお勧めの本を持ってきましたわ」
「本当!ありがとうソフィア!」
そう言って本を差し出せば、カタリナ様は飛び跳ねて喜んでくれた。
カタリナ様と過ごす日々は賑やかでとても楽しい。
カタリナ様と友達になれて本当に良かった。
気が付けば、胸に残っていた悲しく辛い気持ちはきれいに消えていた。