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誕生日迎えました

二十話、二十一話を更新させて頂きましたm(__)m

月日の流れは早いもので、八歳の春に前世の記憶を思い出してから、気づけばあっという間に七年の時が流れた。


私はもうじき十五歳になる。


この世界での十五歳は貴族であれば社交界にデビューする歳であり―

そして―魔力を有するものは必ず魔法学園に入学しなければならない歳である。


この夏、十五歳になる私も来年の春を迎えると魔法学園に入学することになっている。


ちなみに魔法学園はどんな身分にも関わらず、生徒全員が寮で生活することが決まりとなっている。


さすがに身分の高い者にはそれなりの部屋が与えられ、召使さんを連れて行くこともオッケーとなっているらしいが……

何にせよ、今までのようには自由に生活できそうもない。


そして、その魔法学園に入学すると―

ついに恐れていた乙女ゲームが始まってしまう。



平民でありながら光の魔力を持つ稀有な存在として主人公が貴族ばかりの魔法学園に入学し、そして物語は始まる。


学園で主人公は、双子の王子に公爵家子息、宰相の息子と、美形でハイスペックな学園の人気者である男性たちと恋に落ちていく。


そしてそれを邪魔する悪役令嬢であるカタリナ・クラエスは破滅の道を進むのだ。



記憶を取り戻してからのこの七年間、私は破滅エンド回避のために色々な努力を重ねてきた。


剣の腕を磨き、魔力の訓練を重ね、義弟を孤独にしないように引っ張りまわし、精巧なヘビのおもちゃの作成に勤しんだ。


その甲斐があり、剣の勢いを評価され、義弟も引きこもることなく、ヘビのおもちゃは本物と見間違うほど素晴らしいものが完成した。


しかし、うまくいかなかったこともあった。

……魔力の強化である。


私の元々の魔力はしょぼく、できる魔法も土を一、二センチ程『ボコッ』と持ち上げるだけのものであったのだが……

訓練を重ね一年ほどで十五センチも土が持ち上がるようになり、『これはもしかしてかなりの大魔法使いになれるかもしれない』と思ったのだが……


その後、訓練すれどもすれどもそれ以上、土は持ち上がることはなく、またそれ以外の魔法が使えるようにもならなかった。


はじめこそ認めたくない真実ではあったが……認めるしかなかった。


非常に残念なことだが……私には魔力も魔法の才能もあまりないようだった。


魔法学園に行って学べば、もしかしたら『魔力が開花』なんてこともあるかもしれないが……それでも大きな期待はできない……


そうなると、当初計画していた、国外に身一つで追放された際に国外では珍しい魔法の力で、仕事をもらって生活していくという作戦はうまくいかない可能性がでてくる。


その場合、どうやって生活していくのか……


悩んでいる時に召使さんから、大きな農家では農民を雇って農業をしている所が多いのだという情報を聞いた。


そうだ!もう、昔のように作物を枯らしたりしないようになったし畑仕事もそこそこ様になってきた。

これは国外追放されたら、大きな農家を探し雇ってもらって、雇われ農民になろう。

働き口さえあれば、なんとか生きていけるだろう。


私は魔力の訓練も続けつつ、もしもの時は農民として雇ってもらえるように農業の勉強も始めた。


こうして、私の破滅への対策は完璧となった。



そうして完璧な対策をしつつ暮らす、私の日々にも予定外のことはある。


それは、なぜか乙女ゲームの攻略対象とその関係者が我が家に集結し、なぜかゲームにあった設定とはどうも違う関係性ができあがっていることだ。




まず、ジオルド・スティアート。

国の第三王子で、カタリナ・クラエスの婚約者である攻略対象。

見た目は金髪碧眼の正統派王子様だが、その中身はかなりの腹黒でドSな王子様である。

このジオルドが主人公と恋に落ちるとカタリナは破滅に向かって一直線だ。


しかし、ジオルドはゲームでは『まったくカタリナに興味がなく、接点もほとんどない』という設定だったはずなのだが……気づけば、三日とあけずに我が家にやってくるようになっていた。


そして、畑で採れた野菜や果物をおすそわけし、お礼にお菓子をいただくなどの交流をして、今ではすっかりお友達の関係だ。接点ありまくりだ。



正直、だいぶ仲良くなった……と思うジオルドが、この先、剣で切りかかってきたり、私を国外に追放したりするのは想像できないのだが……


しかし……これからジオルドが主人公と出会ってはじめての恋に落ちたならば、婚約者カタリナの存在は邪魔なものになるだろう……

『恋は人を変えるものだ』とこないだ読んだロマンス小説にも書いてあった。

油断は禁物である。



そもそも、私がジオルドと婚約するきっかけとなった傷は数年前に消えている。


そして、それに気付いた数年前の私はこれ幸いとすぐにジオルドにそのことを申し出たのだが……


「ジオルド様、額の傷がきれいに消えました。なので、もう責任を取っていただく必要もないので、婚約を解消してもらって大丈夫です」


私がご機嫌でそう告げると、ジオルドは少し目を見開き驚いた様子を見せたが……

その後、すぐにいつもの笑顔になった。


「そうですか。では、見せてください」


そう言って、それは美しい微笑みを浮かべて私に近寄ってきたジオルドは、少し乱暴な手つきで私の前髪をあげ、額をだした。

そこには綺麗に傷の消えた額があるはずだったのだが……


「いえ、まだ傷が残っていますよ」


ジオルドは綺麗になったはずの私の額を見つめながらそう言った。


「え!?でも何度も鏡で確認したし……アンにだって見てもらったのに…」


私が茫然と呟くと……


「それは見間違いですね。傷はまだ残っていますよ。ねえ、あなたもそう思いませんか?」


ジオルドの最後の問いかけは、私の傍に控えたメイドのアンに対してだ。

すると、さっきまで「本当に綺麗に消えましたね。よかったですねお嬢様」と言っていたはずのアンが首を大きく縦に振りジオルドに同意したではないか……

まさかの裏切り……


こうして絶対に消えたはずの額の傷はなぜか消えていないということになり、「絶対に婚約は解消しないからね」と素敵な笑顔でジオルドに言い切られて、この話は終わってしまった。


その後も、私とジオルドの婚約に最初こそ賛成していたが……いまや反対をしているお母様、そしてキース率いる「カタリナ(姉さん)に王子様のお妃は勤まりません」派がなにかと口添えしてくれたのだが、結局、現在にいたるまで婚約は解消できていない。


やはり、ジオルドはゲームと同じように他のご令嬢への防波堤となる都合のいい婚約者をまだ離す気はないようだ。


こうして、ジオルドとの婚約という破滅フラグは切ることができず、結局、学園には護身用の剣と完成したヘビのおもちゃを携えていくことになりそうだ。

それに、ヘビのおもちゃをスムーズにポケットから出す練習もはじめなければならない。




そして、キース・クラエス。

七年前にその魔力の高さから、我が家に引き取られた私の可愛い義弟であり攻略対象。

このキースが主人公と恋に落ちてもカタリナは破滅に向かって一直線だ。


亜麻色の髪に青い瞳の美少年キースは、義母や義姉に疎まれ孤独な日々を過ごし、その反動からか女タラシのチャラ男に育つ。

そして学園に入り、主人公にその孤独を癒され恋に落ちるという設定だったが……


そうなってもらっては非常に困るので、孤独にさせないように、日々、引っ張りまわした。

そのうち次第に、引っ張りまわさなくてもいつでもセットで一緒にいるようになった。

よって、現在のキースは孤独とは皆無に育った。

これで孤独を癒されて主人公と恋に落ちることはないだろう。


しかし、一つだけ失敗してしまったこともある。

可愛い義弟が女タラシのチャラ男になるのを防ぐべく「女性には優しく親切に」と常々言い聞かせ続けた結果……キースは紳士な女タラシになってしまった。


素直で可愛いキースは姉である私の言うとおりに女性に親切に優しく接した、それは素晴らしいことだった。

しかし、年を重ねただ可愛らしい少年だったキースが、いつ頃からかゲームと同じように只ならぬ色気を放出し始めたのだ。


そしてその事態に私はまったく気が付かなかった。

日ごろから、一緒にいすぎたためなのか、私にはキースの色気とやらを感じる能力が欠如してしまっていたのだ……


そうして気づいた時には、貴族のご令嬢たちはもちろん、召使さんたちまでもその色気で誑かしてしまう女タラシが完成してしまったのだ。


こうしてキースの孤独は防ぐことができたのだが……女タラシ化は防ぐどころか……手助けしてしまう形となってしまった。





そして、アラン・スティアート。

国の第四王子で、ジオルドの双子の弟である攻略対象。

銀髪碧眼の野性的な風貌の美形王子様であるアランは、ジオルドと常に比べられることで、ジオルドに激しい劣等感を抱き苦しみ、兄をひどく嫌っているという設定だったはずなのだが……


現在のアランが劣等感で苦しんでいるようには見えないし、特にジオルドを嫌っているよう様子もみられない。

まあ、すごく仲良しという程ではないが、それなりによい関係を築いているように見える。


しかも、アランのルートにはカタリナ・クラエスはライバル役として登場しないので、本来の設定であればアランと私の接点はほぼゼロのはずなのだが……


なぜだかアランは日々、我が家に通ってくるし、今やすっかり音楽の才能を開花させた彼のピアノやバイオリンの演奏会にも何度も招待を受け、メアリたちと共に行っている。今ではすっかりお友達だ。


そもそも、ゲームでのアランはこんな風に音楽の才能を伸ばしてなどいなかったはずだ。

むしろ、主人公がその才能に気付いて才能を開花させる―という設定だったはずなのだが……


そのあたりもだいぶゲームの設定とは異なってきている気がする。





そして、メアリ・ハント。

アランの婚約者であり、アランルートのライバルキャラでもある。

赤褐色の髪に瞳のお人形さんみたいな美少女だ。


ゲームの設定ではカタリナ・クラエスをよく思っておらず、アランと同じでカタリナとは特に接点のなかったはずだったが……今ではもうすっかり私の親友の一人だ。


出会った当初はオドオドしていて、いつも怯えたようだったメアリはこの七年ですっかり変わった。


学問にも秀で、少し前にデビューした社交界ではその優雅で凛とした佇まいと、ダンスの素晴らしさから話題を独占したらしい。

まさにゲームの時のような貴族令嬢の鑑のような存在へと変貌したのだ。


しかし、ゲームではアランを心から愛していたメアリだったが……今のメアリはそこまでアランを慕っている風には見えないのだ。

普通に親しくしているとは思うのだが、一緒におしゃべりしていても特にアランの話題がでることもなく、二人で会っている様子もない。


それともただ、恥ずかしくて隠しているだけなのだろうか?


しかも、ゲームのメアリは、立派な令嬢になって誰からも認められるような王子の妃になるのを目標にしていたはずなのだが……


実際のメアリはあまり妃になることを望んでいないようなのだ。

数年前からメアリは時々『王子の妃などという大役は私には勤まりませんわ』などと弱音を言うようになった。

そして王子の妃、王族と言うものがいかに大変なものであるのかを常々、私に語ってくれる。


そんな話を聞くと私は只でさえ嫌なジオルド王子との婚約がより憂鬱になるのだ。

だって、こんなに完璧なメアリでさえ大変だという役目が私に勤まるはずがないのだから。


そうして不安になる私に、メアリは『では、二人で一緒に婚約破棄してどこか遠い土地へ逃げてしまいましょう』と優しい言葉をかけてくれるのだ。本当に優しく頼りになる親友だ。




そして、ニコル・アスカルト。

国の宰相の息子で無口、無表情がデフォルトの攻略対象。

黒い髪と瞳の人形のように整った顔を持つ美少年である彼は、その独特の雰囲気で女性はもちろん男性まで虜にしてしまう魔性の魅力を持っている。


そんなニコルも、ゲームの設定ではカタリナ・クラエスとはまったく接点はないはずだったのだが……

私がニコルの妹と友達になったことがきっかけで、彼も日々、我が家に通うようになっていた。


無口で無表情が常なニコルは、相変わらず必要事項しかしゃべらないのだが……

魔性の魅力は年々、その力を増してきているようだ。


以前より笑うことが多くなったニコルは、おそらく私たちに心を開いてきてくれているのだろうから、嬉しく思うのだが……いかせん、その笑顔が曲者だ。


只でさえ、魔性の魅力で女性は元より男性からの人気も高いと噂のニコル。

その美しい顔で微笑まれると皆、彼に魅了されてしまう。


クラエス家でもその被害はポツポツでており、すでに何人かのメイドが骨抜きにされている。


それでも、とりあえずキースやメアリを何とかその魔性の魅力から守れていることだけは救いだった。




そして、ソフィア・アスカルト。

ニコルの妹である彼女は、ニコルルートのライバルキャラでもある。

兄と同じでそれは美しい少女ソフィアも、ゲームではカタリナと接点はないはずだったが……

今では私のロマンス小説仲間であり、メアリと同じく大切な親友だ。


十歳くらいまでは部屋に籠り、本ばかり読んでいたのだというソフィアの読書量は凄まじく、おすすめの本に外れはない。

また素晴らしい新作を見つけ出す能力にも長けており、私は尊敬の念を込め心の中でソフィアのことを師匠と呼んでいる。


そんなソフィアは兄を心から慕っているようで、おしゃべりしていてもよく兄の話が出てきて『お兄様は本当に素晴らしいのですよ。旦那様にお勧めですわ』なんて兄を惚気たりするくらいのお兄ちゃん子だ。


これはもしニコルに好きな人でもできたら、拗ねてしまうかもしれない。

その時は大切な親友として大いに慰めてあげなくては!




こうして、何故だか仲良くなった攻略対象とそのライバルキャラである友人たちと共に私は来春、学園へと向かう。




★★★★★★★★★★★




ついに十五歳の誕生日がやってきた。

そして数年前から、計画されていた社交界のデビューも兼ねた誕生日のパーティーが我が家で開かれる。


ちなみに、このパーティーは舞踏会である。

来てくれたお客様に挨拶しつつ、ダンスまで踊らなくてはならないのだ。


そもそも、運動は割と得意な私だが、残念ながらリズム感があまり備わっていないのか、ダンスはあまり得意ではない。


それでも、この誕生会のためにお母様の監視の下に、それは辛いダンスのレッスンを重ねてきたので、なんとか恰好だけはつくようにはなったのだが……どこでボロがでるか不安だ。


しかも今回のパーティーでの、私のエスコート役はなんとジオルド殿下である。

本当はキースにお願いしたかったのだけれど、正式な婚約者がちゃんといるのだから駄目だと言われてしまった。


キースならダンスで足を踏んでも笑って許してくれるだろうが……

ジオルドではそうはいかない気がする。


そう思うと只でさえ憂鬱なパーティーがさらに嫌になった。



パーティーは夕方からだというのに、朝からやれ化粧だ、衣装の最終確認だとひっぱりまわされて、夕方のパーティー本番の前にすでにクタクタになっていた。


しかし、そうして色々な人たちの努力の甲斐があってなのか、鏡を見るとそこそこに見られるご令嬢が出来上がっていた。

まあ、悪役面には変わりないが……



そうして、それなりに化けた私は、きっちりと正装したジオルドにエスコートされ会場へと向かう。


ひとしきり、お客様への挨拶をこなすと、今度はジオルドの誘導にてダンスホールへ行く。

もちろん初めのダンスは本日のエスコート役のジオルドとだ。

足を踏まないように気を付けなくては……慎重に足元に注意をしながら一生懸命に踊る。


「カタリナ、とても綺麗ですよ」

「ありがとうございます」


金髪碧眼の王子様がお世辞を言いつつ微笑むと、まわりの女性たちがうっとりしているのが見えた。

ジオルドは中身があれでも、見た目やその能力は本当に素晴らしいのだ。

そのため婚約者である私は世の女性たちの嫉妬を一身に受けている。


正直、そんなに羨ましいならすぐにでも変わって差し上げたいのだが……



ジオルドとのダンスが終わるとキースが次の相手を申し込んできてくれた。


「姉さん、とっても綺麗だね」

「ありがとう」


そう言って微笑んだ優しい義弟キースもジオルドと同じく、沢山の女性の視線を集めている。

まだ、婚約者のいないクラエス公爵家の次期当主候補は非常に沢山の女性に狙われている。

そして、肩書だけでも食いつく女性が後を絶たないのに、その凄まじい色気(残念ながら私にはわからない)がさらに多くの女性を虜にしている。


そういえば、これだけモテるのにキースは好きな子とかいないのだろうか……ずっと一緒にいたのに全然、浮いた話を聞いたことがない。

できれば、主人公と恋に落ちないためにも、別の素敵な相手を見つけて欲しいものだ。



キースとのダンスが終わると次にメアリとのダンスを終えたアランが申し込んできた。


「お前、今日はいつもよりましだな」

「……ありがとうございます」


アランはそうぶっきらぼうに呟いた。

これは一応、褒めてくれているのだろうか。とりあえず、お礼を言っておく。


そんなアランもジオルド、キースと同じくらい女性の視線を集めている。

今や、音楽の神の申し子と称えられる天才少年は多くの年上女性から支持されている。

お姉さま方曰く、「普段と演奏中のギャップがたまんない」とのことらしい。

私にはいまいちわからないのだけど……


まあ、アランの婚約者のメアリは誰もが認める素晴らしいご令嬢なので、アランのファンの方々はメアリとアランの婚約を祝福しているらしい。

ジオルドと『身分以外はまったく釣り合わない』と陰口ばかりたたかれる私とは大違いである。



アランとのダンスを終えると、女性は元より男性の視線まで集めている魔性の伯爵ニコルが登場した。

私よりひとつ年上のニコルは今年から魔法学園に入学しているのだが、今日は私の誕生会のためにわざわざ来てくれていた。

優雅に差し出された手をとり、ダンスを始める。


「とても綺麗だ」

「あ、ありがとうございます」


そう言って魔性の微笑みを浮かべたニコルに、まわりから感嘆がもれた。

私はこの数年の付き合いでだいぶ慣れてきた魔性の笑みだが、他の人々はそうではないのだろう。「ニコル様が微笑まれていらっしゃる」とよろめいている人までいる。

魔性の伯爵、本当に恐ろしい存在だ。

学園でもきっとそうとうタラシ込んでいるのだろう。




しばらくして、ダンスがひと段落するとメアリとソフィアが寄ってきてくれて、ドレスや髪を綺麗だと沢山褒めてくれた。




こうして、私は無事に十五歳を迎えた。





★★★★★★★★★★★



冬が訪れ、学園入学へとカウントダウンが始まる。

学園は二年制であり、その間は学園の寮に入るため必要な荷物をまとめて準備しておかなければならない。


まあ、私は曲がりなりにもにも公爵家のご令嬢なので、準備はほとんど召使さんたちがやってくれるのだけど……


それでもすべてをおまかせというわけにはいかない。

なにせ、召使さんたちに任せるとやれドレスだ、髪飾りだ、宝石だと必要ないものばかり沢山詰めてくれて、私の大事なロマンス小説や農業関係の本などを荷物に入れてくれないのだ。


よって、私は自らその荷物を選別することにした。



また、学園にはメイドのアンを筆頭に五名がついてきてくれることとなった。

私は大抵のことは自分でできるし「召使さんはいらないよ」と言ったのだが、公爵家としてそう言う訳にはいかないらしい。

結局は最低限の人数として五名が選抜された。



しかし、この選抜メンバーに心配なことが一つ。

八歳の頃からずっと私付のメイドをしてくれているアンの婚期のことだ。

七年間、私のお世話をしてくれているアンは私の八つ上だ。よって今年、二十三歳になる。

前世だったならまだまだ若い分類だが、この世界の婚期は短い、二十五歳を過ぎる頃にはもう行き遅れと言われてしまうのだ。



そもそも、我が家のメイドであるアンだが、実は男爵家のご令嬢でもあるのだ。

なんでも、この世界では下級貴族のお嬢さんは上級貴族の元で行儀見習いとして働くという風習があるのだとか。


そしてこの行儀見習いはその家の令嬢に仕えることが多い。

そのため、私についてくれるメイドさんにはこの行儀見習いが多いのだけど……


やはりそこは大事に育てられたご令嬢。

私が木に登れば悲鳴をあげ、ヘビを捕まえているのを見れば気絶する。

よって、私付きのメイドが長く続くことはなく、何人ものメイドをお見送りし、そのたびにお母様に雷を落とされてきた。

そんな中、小言こそ言うが変わらずに傍にいてくれるアンの存在は本当に貴重だった。




そんなアンに実家から結婚話がきたのは数年前のことだ。


また入ったばかりのメイドが、私の木を飛び移っている様子を見て気絶し、辞めてしまった直後であったこともあり、私はこの結婚話にひどく焦った……今、アンを失っては私の生活は立ち行かない……


そして焦りまくった私は……

アンを迎えに来たというアンのお父さんの元に乗り込み『私にはアンが必要なんです!』とさながら娘さんをくださいと頭を下げる婿殿のごとく必死に頼み込み、アンのお父さんの顔を凍りつかせた。


そして、その必死の頼みこみの甲斐があってか、なんとかアンを我が家に留めることには成功した。

つまりはアンにきた結婚話をつぶしたのである。


そして、この騒ぎはすぐにお母様の知ることとなり、それはそれは大きな雷を落とされたのだが……

なんと、肝心のアン本人は笑って許してくれたのだ。


こうして、アンの好意に甘えて、ここまで留まってもらっていたのだが、彼女もう二十三歳であり、これ以上、私の我儘で引き止めるわけにもいかなかった。


よって、今回の学園への入学を機にアンには実家に戻って、よい結婚をしてもらおうと決心したのだが……


『私がいなくなったら誰がお嬢様のお世話をするんですか。もちろん学園へも一緒にまいります』とアンは言ってくれた。


正直、ずっと傍にいてくれたアンから離れて、破滅が待ち受けるかもしれない学園に行くのは不安だった。

結局、またアンのその言葉に甘えて一緒に来てもらうこととなった。

アン、本当にありがとう。




「お嬢さま、これはなんですか?」


アンが私の詰めていた荷物から、作業着を引っ張りだしながら訪ねてきた。


「ああ、それは畑用の作業着よ」

「畑用って……お嬢様、まさかと思いますが、学園でも畑を作るおつもりですか?」

「もちろんよ!だって、二年も畑作業をしないで作業の腕が落ちたら立派な農民になれないじゃない!」


私が力いっぱい言い切れば、アンがげっそりした表情を浮かべる。


「……いや、なんで公爵家のご令嬢が農民になるのですか……」

「もしもの時のためよ!」

「どんなもしもですか!?……まさか、鍬まで持っていくつもりではないですよね」

「もちろん、持っていくわよ!学園に鍬があるかわからないからね」

「……勘弁してください」


その後、しばらくの間、鍬と作業着を荷物に入れる私と、それを阻止しようとするアンとの攻防戦が続いた。



冬が終わりを迎え、春が近づいてこようとしていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] アンも良いキャラしてるな
[一言] 「貴族令嬢の『鏡』のような存在」←この場合は『鑑』が正しいですね。
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