プロローグ 蛇の目覚め
手に持ったダガーからは血が滴っていた。体は軽く、痛みも消えている。それに着ていた服も。いつの間に無くなったのだろうか。
「…なんなんだ、このガキ!」
声のする方を見ると、恐怖で混乱した男が、怯えて逃げていく所だった。
持っていたダガーを男に投げつけると、自分でも見たこともない速度で飛んでいき男の後頭部に深く突き刺さった。
右腕を見つめる。錆びついた銀のバングルは腕に食い込んでいた。反対の手で表面の模様をなぞると、なぞった指の感触がバングルを通じて腕の神経にダイレクトに伝わる。金属を触っているのではなく、まるで自分の骨に直接触れているような、吐き気を催すほどの一体感だった。
「ホープ…。無事なのか…」
少し離れた瓦礫の近くに横たわる男が自分を呼ぶ。
ゆっくりと男に歩み寄り、傍に立つ。
「おやっさん」
大きな木片が腹を貫き、大量の血が流れている。
「お前が、生き残ってくれて、よかった…」
親同然に自分を育ててくれた男が死のうとしている。だが自分でも何故かわからない程に強い感情が込み上げてこない。
おやっさんは満足気な表情を見せて、そのまま息絶えた。
村の真ん中にある彫像の下に開いた、狭い穴に再び入り込む。自分の着ていた服や装備に皮のような物がまとわりついている。それをちぎり捨てて、暗闇の中で装備を身に着けた。布やベルトの金属の感触がひどく煩わしく感じる。
外に出て改めて、横たわる死体を確認する。物心ついた頃から共に過ごしてきた仲間たちが無残な姿でそこにいた。
感情が湧き上がらないのはショックを受けきれないからだろうか。時間が必要かもしれない。
そんなことを考えながら、倒れた盗賊の頭からダガーを引き抜き、振り返ることなく村を後にした。




