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第1話.「父親の再婚とクラスメイトのギャル」

 高校という新しい環境にも慣れ始めた5月の頭の木曜日、いつも通り父さんと2人で夕食を食べていると唐突に告げられる。


「父さんな、再婚したいって思ってるんだ。職場の同僚の綺麗な女性ひとで、色々と相談したりされたり、しているうちにお互い惹かれてしまって」


 俺-硯裕翔すずりゆうとには、母親と呼べる人はいない。7年前に俺と父さんを捨てて、別の男と一緒になる為に家から出て行ったからだ。


 その頃はショックだったが、母親がいない事自体には何の感情も持っていない。だが、両親が離婚したからという理由で当時のクラスメイトの女子からされた過度なイジリが原因で以来、同級生おろか女性とまともに話せなくなった事を考えると母親を怨んでいても許されるだろう。


「ふーん」


 父さんはこのことは知らないし、言えるはずもない。知っているの幼馴染だけ。理由は2つ。心配をかけたくないのと、もし再婚のチャンスが来た時に足を引っ張るのが嫌だったからだ。


 本当は高校も男子校を選びたかったが田舎過ぎて近くにそんな学校は無かった。だから、本音を言うと俺が家を出るまではその時が来ない事を願っていた。


 その願いは叶わなかった訳だが、仕方ない。俺にとっての最優先は父さんの幸せなんだから。


「その……裕翔は再婚してもいいと思うか?」


 父さんは不安を滲ませた目線を向けてくる。


「いいよ」


 父さん相手に『実は女性恐怖症で年上とは言えど同じ家に住むのは無理』なんて言える筈もなく、俺にはこれ以外の選択肢がない。


「ありがとう…!!」


 父さんは本当に嬉しそうに笑顔を作りながら涙を流し始める。それを見て俺は近くにあったティッシュを渡す。


「何も泣かなくても」

「馬鹿野郎、当たり前だろ。……そうと決まれば連絡しないと」


 父さんは涙を拭うとスマホでメッセージを打ち込み始める。


「よしっ」

  

 そして、打ち込み終わると机にスマホを置きながら声を出して伝えてくる。


「さっそくなんだが明日、その人と会ってくれないか? 場所はもう決まっているんだ」

「はい?」

「向こうの了承も取れたから宜しくな」

「えっ、ちょっ……」

「そうと決まればこうしてられん。早く食べて明日の服を決めないと」


 悲しいことに俺の声は父さんに届かない。それだけ俺の返事が嬉しかったんだと思う反面、不安もある。


(「いいと思うよ」とは言ったけど、女の人かぁ。……うっ、クソ。違うって分かっててもアイツらを思い出しちまう)


 余計なことを思い出してしまった所為で小刻みに震え始めた手を父さんに見られないように隠した。



 次の日、学校に行く俺の足どりはいつも以上に重かった。


 再婚相手との顔合わせ…時間が経てば経つほどに不安は募っていく。ただ、聞いた話では落ち着いた雰囲気の人らしいのでそこだけは少し安心できる。

 

(とりあえず、父さんの顔に泥を塗るようなことがないようにしなきゃ)


 教室に着くとちょうど、自分の席がある位置から声が聞こえてくる。


「でさ〜、そのあとお母さんがね〜」


 声の主は白糸雪奈しらいとゆきな。ミルクティーようなハイトーンのベージュの長髪で今時なギャルを思わせる風貌だが何処かふわふわしている、白糸はそんな女子生徒だ。


 その白糸は俺の席に座り、友人達と談笑している。女子だけでなく男子も混ざっているのを見ると性別関係なく好かれる人だってことが分かる。


 俺としては座られていることは別に良い。何も今日が初めてなわけじゃないし、男子だって座って駄弁ってるくらいだからそこは問題じゃない。


 じゃあ、何が問題か。


 性別だ。これがもし男子相手なら普通に言える。『俺の席だから譲って欲しい』と言えばいいだけだ。ただ、相手は女子だ。


(……無理だな)


 俺は自分の席に座るのを諦めて、時間を潰すために誰もいないであろう1階の図書室に向かう事を決める。教室が4階にあるので戻ってくるのが大変だが仕方ない。

 

「あれっ? どっか行っちゃうの?」


 図書室への1歩を踏み出そうとした時、後ろからと声を掛けられる。その瞬間、内臓を直に掴まれたようなキュッとした感覚に襲われる。


「おーっい、私の声聞こえてる?」


 息苦しさを感じながらも表情に出さないように注意して振り返ると、さっきまで俺の席にいたはずの白糸がすぐ側まで来ていた。


「な、なにかゴヨウですか?」

「ううん、ご用ってほどの事じゃないんだ。たださ、あそこって硯君の席じゃん。勝手に使ってて私きっと邪魔だったなーって思って謝りに来たの。ごめんね」


 白糸は俺のことを見上げながら両手を合わせて謝ってくる。どうやら教室の前で立ち止まったことがバレていたらしい。わざわざ謝りに来なくても良いのに。


「ぜ、ぜんぜんゼンゼン。ジャマじゃなかったです」


 明らかにおかしな口調だがこれでも上手く隠しているつもりだ。白糸はそんな俺の様子を気にすること無く、「そう? ならいいけど」と話す。


「ってか、意外と硯君と話すの初めてかも」


 白糸の言う通り、同じクラスになって1ヶ月以上経つのに初めて話す。俺が女子と話すのを避けてるからっていうのもあるが、中でもギャルと話すのが1番精神を消耗するというのが大きい。


「ソゥですかね。アハハ…」

「何それっ、変なの」


 白糸は明らかにおかしな反応をする俺にプフッと笑ってくれている。俺も合わせて作り笑いを浮かべる。だが、もう限界だ。


「それじゃあ用事を思い出したので行きますね」


 一刻も早くこの場を離れないといけない俺は少々強引に会話を切ると白糸に背中を見せて、足早にその場から離れる。


「あっ、ちょっと待って」


 そんな白井の声が聞こえたが、これ以上話しているのは本当に耐えられないので、俺は振り返らずに階段を降りた。



 図書室に着いた俺はとりあえず椅子に座り、自分を落ち着かせることに。ゆっくりとだが心臓が落ち着きを取り戻していくのを感じる。


 しかし、さっきは大変な目にあった。まさか白糸が話しかけてくるとは。これまでに1度も無かったのに。


(席を使ってのをわざわざ…? もしかしたら俺の知らないうちに何かやらかしたかも? いや、何もしていないはずだ。そもそもの話、女子と関わるのは極力避けて来た。だから、思い当たることは何も無いんだよなぁ。じゃあ、なんでなんだろう?)


 少しの間考えてみるが、納得できる答えが思いつかずモヤモヤする。1番早い解決策は本人に聞くなんだけど、俺からなんて当然できない。それに白糸のことを無視してしまっている。


「(悪いことをしたよな)」


 自然と口から声が漏れてしまう。そう思うなら振り返れよって話なんだけど、それが出来なかったから今になって後悔している訳で…。それに、白糸が悪い人じゃないのが余計に響く。


(でもまぁ、もう話す事も話しかけられる事さえもないだろうな)


 俺はそう結論づけた。


 ただ、この時は思いもしなかった。後に白糸と話すどころか、同じ家で暮らすことになるなんて……。

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