宣戦布告
「よーしこれで五キル。今日も順調。」
雪は銃を向けて攻撃しようとしてくる敵に容赦なく反撃する。雪にとって複数の敵を同時に相手するのは朝飯前だった。
雪は普段はずぼらでマイペースだがゲームの時だけは集中力が格段に上がりまるで別人のようになる。まさに生粋のゲーマだった。
「おーい、もう朝ご飯出来てるぞ。早く起きろよ、って今日は起きてんじゃねえか。今日はあられでも降るのか?」
「もう、お兄ちゃんは黙ってて。今いいところなんだから。」
雪がゲームをしていると相変わらず流星が無神経に部屋に入って来る。普段この時間帯に絶対に起きない雪を見て目を丸くしていた。
普段どれだけ起こそうとしても全く起きようとしない雪が今こうやって起きてゲームをしているのにも訳があった。
それは昨日の夜青葉に家まで送ってもらった後、あまりの疲労によりそのままぐっすりと眠ったからだ。そのおかげか今は眠気もなく元気だった。
今日学校で会ったら青葉にお礼を言わないといけない。帰るのが遅くなった原因は青葉にもあるのだが。
「朝からご飯も食べずにゲームするやつがいるかよ。早く席に着け。」
「あと五分で終わるから待って!今いいところなんだから。」
雪は口うるさい流星にうんざりしながらも残りの敵を淡々と始末する。気がつけば雪は全ての敵を倒していた。
「おお、やっぱり雪はゲームだけは上手いな。その集中力を別のことに使えばいいのに。」
「別に私が何しようとお兄ちゃんには関係ないじゃん。それよりすぐに下に行くから出て行ってよ。」
「はあ、雪は相変わらずだな。そう言うことなら早く来いよ。」
流星は雪を見ながら諦めたように大きくため息を吐いて先に下へと向かって行った。ため息を吐きたいのは雪の方だというのに。
雪も重い体を動かしながら嫌々学校の準備をする。いくら朝早く起きて気持ちが良くても学校に行く直前になると体調が悪くなる。
それに体育祭も近く今の雪にはもはや学校が地獄としか思えなかった。
「はあ、何でこんなことに。って梓からだ。」
制服を着て鞄の整理をしているとラインの着信音がなる。急いで確認すると梓からで、梓がこの時間にメッセージを送って来るのは極めて珍しいことだった。
メッセージの内容も『今日の放課後空いてる?』といったとてもシンプルな内容だった。
「別に何も予定はないけどどうしたんだろ?それより今は早く下に行かないと。」
梓の送って来た文章も気になるが今はそれよりご飯を食べることのほうが先である。一階からお母さんが大きな声で呼んでいた。
梓にメールで『特に用事はないから空いてるよ』とだけ返事をしてスマホをベットに放りこんだ。
雪は体を伸ばして面倒くさいと思いつつも朝ごはんを食べる為に一階へと向かって行った。
「〜ということがあったんだよ。昨日は本当に大変だったんだから。」
「へえ、雪ってば毎回変なことに巻き込まれてるね。・・・いやでも、雪はどちらかと言えば巻き込む側か。」
雪はいつものように朝ごはんを食べた後、日向と共に学校を目指していた。今日は電車もそこまで混んでおらず快適にここまで歩くことができた。
そして雪は日向を睨みつけながら昨日のことを日向に語っていた。相変わらず薄情な日向に雪はうんざりする。
「というか何で日向は昨日逃げたの?日向ってば薄情なんだから。」
「いや、部活はしょうがなくない?それに毎度雪に構ってられる程暇じゃないから。」
「そんなこと言って面倒くさがってるだけじゃん
!昔はもっと私に構ってくれたのに。」
雪は冷たい日向を見て悲しくなる。最近の日向は少し疑問に思うくらいには雪に対しての扱いが雑だった。雪にとっては一番の親友だというのに。
そんな調子で口喧嘩をしながらも仲良く歩いていると突然雪に電流走る。
「雪?急に震えてどうしたの。」
「わ、分からない。ただ誰かに見られてる気がして。」
怪しい視線を感じ取った雪はキョロキョロと周りを見た。確かにそこにはたくさんの人がいるが雪を見ている人は誰もいなかった。
「あれ、おかしいな?確かに誰かに見られたと思ったんだけど。」
「気のせいなんじゃない?それより時間もないし早く行くよ。」
雪は何度か周りを見渡したがそれでもやはり誰も雪を見ていなかった。少し不信感を抱きつつも今は日向の言う通り教室へ向かうことにした。
いつもより少し早く教室に入るといつものように天使のような笑みを浮かべる梓がいた。青葉も相変わらずいろんな人に囲まれて楽しそうに会話している。
「おはよう二人とも。今日は何だか早かったね?」
梓は雪達に気がつくとすぐにこちらにやって来る。ただ今日の梓はいつもより少し顔が赤く雪をチラチラと見つめていた。
「今日は雪が早く起きてくれたからな。本当に雪は自堕落だから困るよ。」
「別に私はマイペースなだけで自堕落ではないもん。それに日向にだけは言われたくないよ。」
雪は愚痴を吐きながらも再び周りを見た。おかしい。やはりさっきからずっと誰かに見られている気がする。
時々青葉や梓から視線を感じることもあるが今回はいつもよりも何だか強めの憎悪のようなものを感じる。
気になって後藤の方も見てみたがいつもの女子達と会話をしていて雪のことは一切見てなかった。一体誰が雪のことを見ているのだろうか?
「渡瀬さん?そんなに周りを見てどうしたの?」
「あ、いや少し気になることがあっただけで大丈夫だよ。」
「本当に?もし何かあったら私を頼ってね。」
梓は雪を心配そうに見つめながら優しく微笑んだ。
梓の優しさが雪の心に深く沁みる。やはり梓こそが天使の生まれ変わりなのだ。
そんな風な梓に感謝しているとハッと大事なことを思い出す。
「そう言えば朝のメールはどうしたの?もしかして私に何か用事でもあった?」
「う、うん。あれは何というか・・・放課後に話したいんだけどいいかな?」
その場で話さずに焦らすということはかなり大事な話なのだろう。日向も真面目な顔で梓を見ている。
「うん、別に大丈夫だよ。うっ。」
梓の問いかけに答えようとしたその時今までにないほどの圧力を感じる。明らかにこれはおかしい。
そう感じた雪は椅子から立ち上がって勢いよく教室のドアを開いた。
「わ、渡瀬さん?!いきなりどうしたの?」
「ごめん、ちょっと用事を思い出したから外に行って来る。朝礼までには戻って来るから!」
一つの作戦を思いついた雪は早速教室を出て屋上に向かって行った。日向や梓はもちろんクラスメイトも困惑している。
それでも今の雪には行動せずにはいられなかった。
「はあ、雪ってば相変わらずだな。今回は何がしたいか大体分かるけどさ。」
「はあはあ、ここまで来れば大丈夫なはず。というかもう無理。」
全速力で屋上までやって来た雪は息を荒らげながらベンチに座った。ここであれば誰にも邪魔されることなく話すことができる。
「そこにいるんでしょ?早く出て来てよ。」
雪は既に限界で早く冷房のある教室に戻りたかった。だからずっと雪をストーカーしているであろう人物に声をかける。
雪の呼びかけに応じてかゴソゴソと足音を立てながら誰かが雪の目の前にやって来る。
「まさかこのアタシに気がつくなんてやるじゃない。褒めてあげてもいいわ。」
「えっと、どなた?」
雪は突然やって来て偉そうに雪を見つめる女の子に首を傾げた。金髪のツインテールで身長は雪より少し高いくらいの女の子だった。
一応初対面のはずだが女の子は明らかに雪を睨んでいた。
「ふっ、しょうがないから特別に教えてあげるわ!私は水白千歳。貴方達の隣のクラスで貴方のライバルよ。」
「私のライバルってどういうこと?初めましてなんですけど。」
雪は冷ややかな目でドヤ顔の水白を見た。雪に記憶力がないというのもあるが本当に水白のことを一切知らなかった。
それに雪の隣のクラスということは水白は一年二組でありそもそも交流自体がほとんどなかった。
そんな水白が突然絡んでくるとは一体何があったのか疑問で埋め尽くされる。
「確かに渡瀬雪、貴方と話すのは初めてね。ただ私はずっと貴方のことを調べてつけていたのよ!」
「あっそう。道理で今日はやたらと視線を感じるなとは思ったよ。それじゃあ私は教室に戻るから。」
テンションの高い水白に対して雪はもう死にそうな顔で水白の話を適当に流していた。というか夏の屋上は暑すぎてこのままだと干からびてしまいそうだ。
雪はさりげなく屋上を去ろうとするが水白に左腕を掴まれる。水白は必死に雪を引き留めようと焦っていた。
「ちょっと、待ちなさいよ!話はまだ終わっていないわ。」
「えぇ、別に大したことでも無さそうだしいいかなって。それに朝礼ももうすぐ始まるし。」
雪は諦めた顔で周りを眺める。既に予鈴が鳴っていて外にいる人達が急ぎながら校舎に入っていた。先生に怒られるのは嫌だから出来るだけ早くここを出たい。
「す、すぐ終わらせるからまだどこか行かないで!ほら、何でここに呼んだのかとか聞いてよ。」
「・・・何でここに呼んだの?」
雪のわざとらしい問いに水白はぱあっと顔を輝かせる。
「よく聞いてくれたわね!実は貴方に一つ言いたいことがあったのよ。」
「初対面なのに私に言いたいことなんてあるの?」
既に時間がなくもうこのまま帰ろうとしたその時、水白は衝撃の一言を発した。
「ええ、だって貴方はアタシのライバルだもの。梓はアタシの親友なんだから!」
「えっと、嘘でしょ?」
水白のその発言に雪は乾いた笑いしか出なかった。もうこの先の展開はある程度読めているし明らかに嫌な予感しかしなかった。




