#13 氷魔法と応用
町から出た俺たちは、ゴブリンの討伐依頼を達成するために村に向かっている。
まだ日は高いが、空気はひんやりしている。おかげで、道中を快適に過ごせるのはとても嬉しい。
街道外れに生えている草や花たちは風でそよそよと揺れていて、香りが風を伝って鼻をくすぐる。
「アルト、その杖どうしたの?」
そういえばティアナには言ってなかったっけ。
「フィリアが買ってくれた杖だ。魔力を込めやすいし、気に入ってる。これで俺も二人と一緒に戦えるようになれて嬉しいよ」
「えへへ」
フィリアは目を細め、微笑みを浮かべている。
「ふーん――」
ティアナは意味深な相槌を打ち、俺たちを見てにやにやしている。
俺の活躍ぶりが期待されているのか?
気持ちに応えられるよう、気を引き締めないとな。
「フィリア、がんばって」
急に話したかと思えば、今度は唐突にフィリアを応援した。
意味がわからない――けど、気にしないでおこう。
* ――――――
町を出て数時間。
高かった太陽も、いつの間にか西へ西へと進んでいた。
全く休憩をとっていないのもあって俺は足がパンパンになっていて息を切らしながら歩いている。
「ぜえ……ぜえ……。あとどれくらいで村につく?」
「地図だとこのへんだから、あと半分くらいかな」
まさかの折り返し地点だった。ティアナもフィリアも、涼しい顔をしている。
疲れているのは俺だけかよ。
アルカディアでは空飛ぶ船を使っていたせいで、長距離の歩きに慣れていないんだ。許してくれ。
「あたし、そろそろ休憩したいんだけど、みんなはどう?」
俺はティアナの気遣いに感謝しながら、賛同した。
*――――――
三人で野営の準備をする。
俺も野営に慣れてきて、二人のことを率先して手伝う。
「夕食はどうする?」
「あたしがやるよ、いつもの肉でいいよね?」
夕食は、やはりタイガーウルフの肉だろうか。
「いいんだけど、傷んでないか?」
「大丈夫大丈夫。ね、フィリア」
「うん。私の氷魔法でちゃんと凍結させてあるから、常温よりずっと日持ちするよ」
「こういう時、魔法は便利って思うよね~。あたしがソロのときはすぐ傷んじゃって大変だったわ」
なるほど。確かに便利だ。けど、魔法が使えない人はどうしているのだろうか
「そういえば、町の人たちは氷魔法が使える人はそう多くないだろ? そういう人たちはどうしてるんだ?」
「うーん、保冷箱っていう魔導具の中に入れておくことが多いかな」
魔導具? 冷凍庫っていうアルカギアと何が違うんだろう。
「魔導具?」
「えっと、魔導具ってのは、魔力が込められた道具のことだよ。とっても便利なの。特に、保冷箱は町に住んでる人なら、一家に一台は必ずあると思うよ。ね、お姉ちゃん」
「確かに、絶対あるもんねー。食べ物は保冷箱で冷やさないと、すぐ傷んじゃうし。そういえば、宿屋の受付の子が、最近新しいのを買ったって喜んでたわね」
やっぱりアルカギアの冷凍庫と一緒じゃねえか。と心の中でツッコミを入れた。
「ありがとな。勉強になったよ」
とはいえ冷凍庫は必需品だ。名前は違っても代替できるものがあってよかった。
* ――――――
ティアナが焼いたタイガーウルフの肉を食べ、胃も心も満たされた俺は、余韻に浸りながら空を見つめる。
夕暮れだった空はいつの間にか、きらきらとした星空を浮かべていた。
「満足……」
「ほんとね。一流の氷魔法の使い手がいなければこんな美味しいご飯なんて食べられないもん」
保存する方法が無いとそうだよな。
「そういえば、ティアナがソロだったときはどうしてたんだ?」
「そうね。いつも乾パンや干し肉を食べてたわね。あたしに限らず、ほとんどの冒険者はそうだと思うわよ」
「まじかよ」
「まじまじ。氷魔法の使い手なら他にもたくさんいるけど、氷を溶かさないようにできる人はほとんどいないわ。普通なら溶けて水浸しにするし」
確かに正確な詠唱だけでなく、一定の魔力を込め続けないとできない芸当だ。アルカディアの言語を完璧に理解している俺でもできる気がしない。
「はえー、フィリアってすげえんだな」
「えへへ、ありがとう」
顔をこちらに向けて目を細めるフィリアは、心なしか頬を赤らめていた。
その後は見張りの当番を決めてそれぞれ交代で眠りについた。そもそも、ソロだと交代で見張りして眠りにつくなんてこともできないだろう。
仲間って本当にありがたいな。改めてそう思った。
俺も自分なりに仲間を大切にしよう。
* ――――――
小鳥のさえずりと共に始まる朝。村には昼過ぎくらいに到着しておきたいのですぐに二人を起こした。
ティアナも今日に限ってはかなり目覚めが良かった。
――宿屋でもこうしてくれると助かるのだが。
俺たちは道中、ゴブリンを討伐するにあたって作戦会議をしていた。
基本の流れはティアナには前に出てもらい、俺とフィリアで援護をするものだが、これだとティアナの負担が大きいので、何かいい方法が無いかを考えていた。
「お姉ちゃん、どうしよう?」
「うーん。あたしはこのままでもいいと思うんだけど」
「それだとお姉ちゃんが大変だよ」
「何かあったらフィリアに回復をお願いするわ」
「回復はするけど、もっといい方法がないかな」
二人の会話を聞きながら作戦を考えていると、ふと一つの考えが思い浮かんだ。
あえて隊列を、逆にしてみる。
俺とフィリアが“不意打ちで”魔法攻撃を放ち、撃ち漏らしたゴブリンをティアナに倒してもらう流れだ。これならゴブリンの戦力をはじめから大きく削れるし、ティアナの負担も少ない。
早速提案すると、フィリアは笑顔を浮かべた。
「それいい。アルトくん頭良い」
「ティアナも、それでいいかい」
「もちろん。やるわね、アルト。次からも作戦お任せしちゃおうかしら」
受け入れてもらえてよかった。ゴブリンの群れの対処方法が決まった。
使う魔法は、氷魔法にしよう。風魔法は一度使ったがコントロールが難しすぎて味方まで被害を受けそうだ。
* ――――――
俺たちは村に到着した。
建物は思ったより外傷が少なかったが、村を囲う柵がボロボロになっている。
村民が必死で抵抗したんだろう。
「わっ ぼうけんしゃさんだっ」
出てきたのは見張りなどではなく、子どもだった。
子どもは俺たちを見るなり、その場から引き返し、走ってゆく。
「そんちょーさん、ぼうけんしゃさんがきた」
出てきた人は、かなり高齢そうな、杖を地面につけたおじいさんだった。
「これはこれは、よく来てくださいました。儂が村長です」
村長は深々とお辞儀をすると――
「グキッ」
俺にまで聞こえるほどの痛そうな音を鳴らされ、俺は思わず体を震わせた。
「のおおおおおっ!」
「村長さん、大丈夫ですか!?」
フィリアは眉をひそめ、村長さんをかばう。
「すまんのう、腰が限界でな」
なるほど。だとすると外に立たせるのは村長にとってしんどいだろうな。
「とりあえず落ち着けるところで話しましょう」
俺が提案すると、村長は自分の家に俺たちを招き入れた。
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