#11 冒険者登録
小鳥の歌声と窓から差し込む日差しで始まる朝のこと。
俺は二つしかないベッドのうち一つを贅沢に使っていた。
床で寝ることも提案したのだが、頑なに拒否された。代わりに、もう片方のベッドには姉妹が二人で使っている――はずなのだが、ベッドにはティアナしかいない。
「フィリア、おはよう」
呼びかけると、部屋の角から返事が聞こえてきた。
「アルトさん、おはよう」
俺の挨拶を聞いて、フィリアも同じように返してくれた。
さて、今日は冒険者登録の日だ。
不安と期待が入り混じる。
「今日から俺も冒険者か」
「待って」
フィリアに静止されたので、咄嗟に返事をする。
「どうした?」
「冒険者になる前に、お店で杖を見に行かない?」
「わかった。行こう」
俺は首を縦に振り、ティアナを一瞥する。
ティアナは胎児のように身体を丸め、すよすよと寝息を立てていた。
大丈夫だとは思うが、念のため起こさないように宿屋を出た。
* ――――――
フィリアと外に出る。斜めから入る日差しはまだ本気を出していないようで、十分明るいのに思いのほか空気がひんやりとしていた。まだ活気は準備中といったところで、歩いている人もまばらで、準備中の店先ではパンの匂いが漂っていた。
そういえば、いつも姉妹セットで行動していた。フィリアと二人きりでいるのは、たぶん初めてだ。意識した途端、ほんの少しだけ気恥ずかしくなる。
「ねえ、アルトさん」
「なんだ?」
「答えたくないなら無理は言わないけど……」
そんなに勿体ぶってどうしたんだろう。
「アルトさんって、何歳なの?」
そういえば伝えてなかったっけ。
ん、待てよ。
商会長のおじさんの話が本当だとしたら、1016歳になるわけだが……。
いや、実年齢など答える必要ないか。
「16だが、それがどうかしたのか?」
とてつもないサバ読みだが、ある意味嘘は言っていない。
「うそっ。私と一緒」
「そうなの?」
見た目から同じくらいの歳だとは思っていたけど、まさか本当に同い年だったとは。
「あのっ、もしよければなんだけど」
俯きながらぽつりぽつりとつぶやく。その様子は、勇気を出して言葉を紡いでいるように見えた。
「アルトくんって、呼んでいいかな」
なんだそりゃ。
もちろん良いに決まっている。
俺は二つ返事で了承した。
「そういえば、俺はフィリアのことを呼び捨てにしてるけど、このままでいいのか?」
「うん。いいよ」
「いいの? でも、どうして?」
「アルトくんだからだよ」
俺だからって……。
そういうこと言ったら勘違いする男が出てくると思うよ……。
他意は無いんだろうけど、不安だ。
* ――――――
俺たち二人は武器屋へ到着し、頭上のベルを鳴らしながら扉を開いた。
「いらっしゃいませ」
出てきたのは、サンセットのような鮮やかな髪をして、耳の先を尖らせた女性だった。店の奥には、同じく耳を尖らせた男が「カンカン」と金属を叩く音を豪快に鳴らしている。
顎髭を伸ばし、鍛えられた肉体は、この道を究めたエリートのようなオーラを漂わせていた。
――ドワーフだ。こうして見たのは、アルカディアにいた時以来だ。
「どのようなものをお探しですか?」
女性の店員が俺たちに尋ねてくる。
「あの、私たち。杖を探していて」
フィリアは率先して、杖の具体的な要望と予算を提示した。
「うーん。そうですねえ。それなら、この杖はいかがかしら?」
フィリアは杖を手に取って、魔法陣を展開した。
もちろん彼女は、店内で魔法を打つわけにはいかないので、それをすぐに消した。
「アルトくん。どうかな?」
杖を差し出されたので俺も同じように魔力を流し、魔法陣を浮かび上がらせた。
魔力量の少ない俺でも十分機能してくれる。うん。問題なし。
俺がそう伝えると、フィリアは店員さんを呼んだ。
「すみません。これ買います」
フィリアは財布から銀貨数枚を出した。
店から出たら、フィリアはさっき買った杖を俺に差し出した。
「これ、私からのプレゼント。受け取って」
驚いた。自分用に買い替えたんじゃなかったのか。
「ありがとう。できる限り役に立ってみせるよ」
仲間として受け入れてもらった俺なりの決意表明だ。
* ――――――
宿に戻ると、ティアナは身体をベッドに預け、横に傾いていた。
――まだ寝てたのかよ。
野営をしていた時と同一人物とは思えないほどぐうたらしている。
フィリアは額に手を当て、ため息をついた。
「お姉ちゃん。いつまで寝てるの。早く起きて」
ティアナを優しく包み込んでいた布団をばさっとめくる。
「はーやーくー。朝ごはん先食べちゃうよ」
その言葉に、ティアナは渋々身体を起こした。
* ――――――
朝食を終えて、俺たち三人は宿を出てギルドへ向かっていた。町は次第に活気づき始め、斜めに当たっていた日の光は、いつの間にか上へ上へとのぼっていた。
「ここが冒険者ギルドか」
俺は意を決して扉を開いた。
中は広々とした空間になっていて、くつろげるようにテーブルと椅子が大量に配置されていた。
壁は掲示板がずらりと並んであった。そこには、紙一枚で掲載された依頼書が不規則に並んでいる。
丁度、剣を携えた男が依頼書の一枚を剥がし、正面奥にある受付の一人に渡していた。
こうやって依頼を受けるのか。
俺は男と同じ受付のところへ向かうと、ティアナに制止された。
「違う違う。新規の冒険者登録はこっち。あそこは依頼の受注用窓口だから、行ってもたらい回しにされるだけよ」
そういうことか。何とか恥をかかずに済んだ。
俺はティアナの言う通り、新規登録の窓口へ向かった。
「冒険者登録ですね。では、こちらにお名前を記入してください」
受付嬢から羽ペンと書類を受け取る。
昨日文字の練習をしておいてよかった。羽ペンを走らせ、書類を書いていると――
「オイオイ、お前みたいなひょろいガキがいっちょまえに女連れて冒険だァ?」
野次の一言で、その場の空気が凍り付いた。
次の更新は 11月12日 21時10分頃の予定です。




