【1987年3月】
掲示板の前に、エルリアと俺は並んで歩み寄った。周囲からは、押し殺したような喜びの声や、すすり泣く声などが耳に入る。都下の都立高の中では一番人気とされており、悲喜こもごもといったところか。
先に声を発したのは、エルリアだった。
「ありました」
「おめでとう。……俺もあった」
連れの少女の唇から、ふうっと吐息が漏れた。ある程度は緊張していたのかもしれない。
インターネットの普及前というのもあって、原則は掲示板での告知となっている。合格すれば、春から通うことになる者たちが対象なので、特に負担はないはずではある。
背後から肩を叩かれると、そこには久世がいた。微妙な表情をしているので不合格だったのかと思ったが、一緒に見に来た中神さんと夏目弟の番号が無かったためのようで、本人は合格していたそうだ。
不合格となった二人も、グループ基準点には達していそうで、近くの高校への進学はできる見込みだそうだ。中学浪人を防止できるこの仕組みには、一定の意義はあるのだろう。一方で、学区をまたいでの複数受験はできない状態となっていて、西城高校に不合格だったから、地元の北小金井高校へ、とはいかないのだった。
都心部では、出身中学の属する学区にしか挑戦できないらしいが、多摩はその点はやや緩くなっている。
なんにしても、エルリアは志望校への進学が決まったわけで、また一つこの地での道が広がったことになる。
夕方、家に戻ると、ばあちゃんがちらし寿司を用意して待っていてくれた。
「二人とも、おめでとう。本当によく頑張ったねえ」
湯気を立てるお吸い物の向こうで、ばあちゃんの目が細くなっていた。その笑顔の中に、どこかほんの少しだけ、名残惜しさのような感情が滲んでいるようにも見えた。世代からして、高校への進学はある程度重みのある事象なのかもしれない。
「高校生になっても、たまには一緒に台所に立ってくれると嬉しいんだけどね」
そう呟く声は、どこか切ない響きがあった。エルリアが、静かに箸を置き、ばあちゃんの手にそっと手を添えた。
「わたくし、この家が好きですの。……だから、帰ってきます。いつでも」
「……ふふ、ありがとうねぇ」
庭では、この家を見守るように立つクロマツとヤマモモが風に葉を揺らしていた。
中学一年の時分には、生きていくのが精一杯だったのが、ここでは充実した生活を送れている。
その間に、母さんと父親が死亡し、エルリアが出現した。また、今後への布石も幾つか置けている状態にある。そして、エルリアとばあちゃんが関係性を深めているのも喜ぶべきことだった。
ただ……、資金獲得の目処はつきつつあるものの、それを使ってなにをするべきなのか。将来への道筋は、まだ霞の中にあった。
そんな思案を振り払うように、庭から笑い声が届いた。
「あら、美羽ちゃんと、紗良ちゃんもかしらね。せっかくですから、一緒に食べましょう」
頷いたエルリアが、台所へと向かう。
俺も、二人を迎えるために居間へと歩き出した。




