裏切り者。
俺はあの後、猛烈に襲い掛かってくる不安や怒りが入り混じった気持ちのまま、停車駅の『新神戸駅』のホームをグリーン車の窓から眺めていた。
「…………………ッ!?」
窓からホームを眺める俺と、ホームを優雅に歩く水無瀬とバチッと目が合う。途端に水無瀬はバツが悪そうに視線を逸らす。
新幹線は新神戸駅をすぐに出発し、あっという間に水無瀬の姿は消えていった。
これで確定だな。俺は今までまんまとアイツの遊びに付き合わされていただけに過ぎないのだと。
ーーーーブーッ、ブーッ!
俺のスマホのバイブが振動する。恐らくは水無瀬だろう。
「やっぱりか。…………デッキで話すか。」
スマホの着信画面はやはり思った通り、水無瀬だった。俺はデッキに向かい、そこで水無瀬の着信を拾った。
『も、もしもし……。』
「水無瀬か。よくもまぁ、俺に電話できたもんだな。」
『ごめんなさい…………。』
謝る水無瀬だったが、正直こんな事をする理由だけ聞ければ後はどうでもよかった。
「何でこんな事をした。俺はどうすりゃいいってんだ。旅館だって予約したんだぞ!?」
『ごめんなさい、ごめんなさい!!』
電話口の向こうから、水無瀬のすすり泣くような声が聞こえるが、どうせ嘘泣きだろう。
「謝罪するなら、初めっからこんな事すんな。切るぞ。」
『え、あの、ちょっ……』
水無瀬が最後まで言い終わるよりも先に、俺は水無瀬からの通話を絶った。
もちろんその後は水無瀬のLIMEも電話もブロックした。
「まさにこれが傷心旅行だな……。」
俺は何年振りかに立ち直ってきていた自信を、再びポッキリとへし折られ、もう二度と人なんぞ信じまいと心に決めた。
そのまま俺は意味も無く、本来の目的地である『博多駅』に到着した。 ホームに降りて、手荷物をブラブラ持ち、ダラダラと歩く。
ーーーー何の為にここまで来たんだ、俺は。
おかしいな……水無瀬と来たら色々やりたい事あった筈なのに、今は一つもやりたい事を思い出せない。
やりたい事も思い出せず、ただただ途方に暮れていた俺は、旅館に足を運ぶ。
「予約をしていた城ヶ崎です。」
フロントで受付をしていると、名前を聞きつけた支配人がすっ飛んで来る。
「城ヶ崎様、お待ちしておりました!本日は……お二人のご予約だったかと思いましたが……。」
「すまない。色々と事情があって、一人になってしまったんだ。二人分の料金を支払うから泊めてくれないか?」
「勿論でございます!ささ、本日は一番良いお部屋を用意しておきました。 こちらへどうぞ!」
俺の無理なお願いに、嫌な顔一つせずに支配人は一番良い部屋を用意して、案内してくれた。
実はここは父の経営する高級旅館の本店なのだ。父は様々な経営に携わっており、幾つか旅館の経営もしている。
「おぉ、これは広い!しかも手入れが行き届いていて、とても綺麗だ!」
俺は支配人に謝罪と礼をし、ゆっくりと過ごす事にした。支配人はどうやら姉と俺が来ている様に帳簿につけてくれていたらしい。
「ありがたい事だな。本当は駄目だけど……。」




