金持ち君再び。
学校の授業は退屈だ。正直、簡単すぎてつまらない。さっきは不意に聞かれ、どこの問題を答えればいいのか分からなかっただけで、実際は話さえ聞いていれば答えられる。
ーーーーなーんて、一人でつまらない回想をしてしまっていたが、俺は高校さえ無事を卒業出来れば問題無い。
今の時代、学歴重視な会社も少なくなってきているし、ネット事業の方が気楽な事もある。やれT大卒だの、やれK大卒だのと、大学の看板をカサに会社に入ったところで、結局は個人の能力がモノを言うのだ。
ーーキーンコーンカーンコーン。
終業チャイムが鳴り響くと、途端に生徒達が廊下にたむろする。
「城ヶ崎君、もういいわよ。」
それだけ言うと、霧島先生はスタスタ歩いてどこかに行ってしまった。
俺は教室に戻るのも面倒くさいため、廊下の片隅に背を預けて座り込んだ。
窓から見える夏の空は、とても青く、遥か遠くに入道雲が見えた。どこか遠くを飛ぶ飛行機の音、学校の騒然たる話し声、セミの鳴き声がいかにも夏っぽくて、俺は大好きだ。
「おんやぁ〜!?そんな汚い廊下に座り込んでるのは、貧乏人陰キャオタク野郎じゃないかー!!」
俺の頭上から声が聞こえてくる。このクソ気持ち悪くて甲高い声は、金持ち君じゃないか?
俺は声のする方へと顔を向けると、そこにはやはり金持ち君の姿が見えた。
「何だ、やっぱり金持ち君か。何、今日は一体何の用?」
「はぁ?君に用事があるわけ無いだろう。用事があるのは水無瀬さんにだよ、君じゃない。」
「なんだ、俺に惚れてるのかと思ったよ。」
俺は冗談混じりに返答するが、相変わらず懲りてないんだな、と関心すらした。
「水無瀬なら教室の中だ、話があるならご自由に。」
俺は立ち上がり、ズボンに付いたホコリをパンパンと叩く。なんか最近ツイてねぇ。 俺は元々陰キャのボッチオタクなんだ。一人でいたところを急にモテ始めたところで困惑するばかりで、正直ウンザリしていたところだ。
俺の言葉を聞いて、金持ち君は教室の中に入っていく。だが、俺は後を追う事はない。
「もうニセコイする必要もないんだ。」
そう、元々は明智達のカモフラージュとして付き合っていただけ。でも、俺が本当は強いってのが皆にバレてしまった以上、大人しく陰キャとして過ごすのは難しい。
どうせバレるんだったら、始めっからニセコイなんてしなきゃよかった。
ーーーークソッ!
「なぁ、もうみんなにバレてんだよ!水無瀬さんとアイツが偽物の恋人だって事は!」
「や、止めてください!嫌!」
「今日からは俺と付き合ってもらうよ!」
ーーーーガッ!!
「な、何だよお前……!恋人ごっこは終わったはずじゃないのかよ!」
気が付いたら俺は、金持ち君の腕を掴み上げていた。 これ以上目立つつもりはなかったのに……。
「テメェの気持ち悪い甲高い声が気に入らねぇんだよ。あと、ここは三年生の教室なんだよ、一年生はとっとと帰りな。」
俺は掴み上げた腕を後ろに捻り上げて、ケツを蹴り上げた。
「ふんぐうぅぅぅぅぅぅ!!」
堪らず倒れ込む金持ち君の髪の毛を掴み上げ、俺は耳打ちする。
『これ以上、俺の生活を脅かすつもりなら、お前の親父に話しに行くぞ。』
「な、何でお前が俺の父さんを知ってる!? そんな訳ない、お前みたいな貧乏人が知っているわけ無い!」
金持ち君は覚えていないのだろうか。先日、父親に話すとか何とか言ってたくせに……。
「もう一度言ってやる。俺の名前は『城ヶ崎李玖』だ。覚えておけ。」
掴み上げていた髪の毛を離し、金持ち君を解放してやると、情けなく起き上がり、舌打ちして去っていった。
アイツは何をしに来たんだ……。
「李……城ヶ崎君、あ、ありがとうございます…。」
「李玖でいいよ。それよりも、頭上げて!怪我はなかった?」
頭を下げて謝罪してくる水無瀬だったが、別に彼女が悪い訳じゃないしな。
「け、怪我はありません。本当にありがとうございます!」
「大丈夫なら良かった!」
そう言って去ろうとする俺の袖をクッと引っ張ると水無瀬は俺の背中に抱きついてきた。
ーーーーーーえぇぇぇぇぇぇぇ!?
な、何が起きた!? 何で俺は水無瀬に抱きつかれている!もしかして、これが吊り橋効果とかいうやつか!
「李玖君、好き……大好き!」




