第22話 初めてのお買い物とテンプレ襲来
また遅くなってしまいました。毎日更新できる人って凄いです・・・
乾期も終わりに近付き、先日降った雨によって赤茶けた大地に緑が戻りつつある今日この頃、皆さん如何お過ごしでしょうか?学園のアイドル。トトです!
本日は休日を利用してネネと学園外へ繰り出しております。
ええ、ええ、何でこんなにハイテンションかと言いますと、遂に!つ、い、に!母さんと連絡がとれたのです!!
残念ながらすぐに力尽きて、二言三言しか話せませんでしたが、大いなる進歩と言えましょう。
とにかく母さんが無事で良かった!!
心の重石が取れて、漸く王都観光にも出れると言うもの。もちろんリコの事も忘れていませんぞ。
こうして大勢の前に姿を現せば、リコの召喚主と接触が図れるかもしれないじゃないですか!
トトはネネの肩に乗って、お上りさんよろしく知らないものを見付けては、ネネを質問攻めにする。
カーバンクルの子供がオーバーリアクションであれこれと指差し、パタパタと尻尾を振って跳び跳ねている姿は、周りにいた人々にも自然と笑みを溢れさせた。とりわけ子供たちは興味津々で、ネネが貴族のような身なりをしていなければ、周りを取り囲んでいたかもしれない。
散々ネネを質問攻めにしてある程度満足したトトは、本日の予定について訊ねる。
『これからどこ行くんだ?』
『うんとね~。露店巡りをした後、武器屋に行こうと思ってるの』
『武器屋?』
『そう。トト専用の武器を探しておこうと思って。いざって時にないと困るでしょ?』
『確かにあった方が良いけど。でも俺が装備出来るようなの武器屋に売ってるかなぁ』
『もし良さそうなのが無かったら作って貰おうよ。これでも貴族令嬢なんだから、お金はそれなりに持ってるし』
『そうだな。俺専用かぁ。なんかこう、ワクワクするな!』
トトたちは頬を寄せあって念話を交わすと、第2城壁の西門を抜けて、露店がある方へ歩いて行った。
魔法学園のある王都レーゼンアリアは、3重の城壁を擁する城塞都市である。
ランフール平原の中央、小高い丘に築かれたこの都市は、戦乱を幾つも乗り越えてきた古都であり、人口増加の度に城壁の拡張を繰り返してきた。
現在は内側から順に第1城壁内が貴族街、第2城壁内が旧市街、第3城壁内が新市街と呼ばれている。
行政府に市民と認められているのはここまでで、市民税を払えない貧しい人々は、第3城壁の外側に多数集まって暮らしていた。治安維持の観点から遠くないうちに第4城壁が築かれることだろう。
因みに魔法学園は、旧市街の北西に居を構えており、比較的裕福な学園生は旧市街で買い物を済ます事が多かった。
トトたちはちょっとお高い旧市街のブランド店を避け、新市街に向かっている。今でこそ貴族令嬢だが、元々平民のネネにとって、ブランド品というだけで高い商品を買うなど、無駄遣い以外の何者でもない。
そんな訳でネネの買い物は新市街ですることが多いのである。その後をコソコソと追う一人と一匹の姿があった。
「くぅ、私をのけ者にしてトトくんとデートなんて、赦されざる所業ね」
追跡者とは言わずと知れた“トトくんを愛でる乙女の会”の会長。アティフェその人である。
「ププゥ、プゥ」
同好の士であるアニーも、同意するように控えめに鳴く。
「アニーも気を付けて見ててよ。もしもの時は、私たちがネネの魔の手から、トトくんを救わないといけないんだから」
物陰から半分だけ顔を出したアティフェたちは、あからさまに怪しく、逆に周囲の注目を集めていた。
偶々通り掛かった警備兵も、素人丸出しのアティフェたちが犯罪者には見えず、渋い顔をしつつも放っておく。
そんな周囲の反応など気にした様子もないアティフェは、無駄に高性能な視力を駆使し、遠くからトトたちの姿を監視していた。
「ネネったら、態々治安の良くない新市街に行くなんて、何を考えているの?」
遠目に見るトトたちは仲睦まじ気に微笑みあっているように見える。
ネネ:トト、私たち十分に互いの事を知ったと思うの。新市街なら学園の関係者も滅多に来ないわ
トト:ん~?どういうこと?
ネネ:恋人になろうってこと。こんなこと女の子に言わせないで。もう心は繋がってるから、次はか、ら、だ、だね!
トト:ええ?!
アティフェは推考(妄想とも言う)の末、ネネの深謀遠慮に気付いて戦慄する。
「ああやって周囲に恋人としての印象を与え、怪しげな宿にトトくんを連れ込んで、関係を迫るつもりね。そして、成し崩し的に妻の座に座ろうと言う魂胆に違いない。そうはさせないわよ!」
アティフェは己の想像に顔を青くしたり赤くしたりしながら、決意も新たにトトたちの追跡に移る。だが、妄想に耽っていた隙に、あっさり姿を見失ってしまった。
「ウソ?!トトくん、トトく~ん!!」
アティフェは憤りに震えると、己の妄想に従って歓楽街へ突撃した。それはどうかなぁと首を傾げつつ、アニーも後に続く。
結局、歓楽街でトトたちを見付けられなかったアティフェは、そこで幾つかの騒動を巻き起こすのだが、それはまた別の話である。
その頃トトたちは、当たり前だが健全にアンフィエス広場の露店を回っていた。
『なぁ、この串焼き味が濃くないか?』
『そうかな~?普通だと思うけど』
「この辺が暑い気候だからかな?明らかに塩気がキツいと思うんだが」
トトは途中で串焼きを食べるのを止めた。出来れば食べ物を粗末にしたくなかったが、御飯なしで塩鮭を食べ続けるようなものだった。
周りの人も皆、平然と食べているのを見ると、ネネの言う通りこれが普通なのだろう。
学園では妖かし専用の食事を食べていたから気付かなかったが、人とカーバンクルでは随分と味覚が違うのかもしれない。
暫し思案したトトは妙案を思い付いた。
『ネネさんや。食材を売ってる店に行こうぜ。こう見えて俺は料理も出来るからな』
『ほんと? トトの料理かぁ、ちょっと興味あるな~』
トトたちは早速食材を扱っている区画に向かう。
「おばさん、これとこれ、あとこれも下さい!」
「あらあら、この辺じゃ見ない顔ね。随分と可愛らしいお供を連れてるじゃないか」
おばさんはトトを見ると目を細めて頭を撫でる。トトもされるがまま撫でられると、何時ものようにシュタッと挨拶した。
「あははは、ほんとに可愛いねぇ。どれ、欲しいものはあるかい?」
トトは簡単な日常会話なら既にマスターしていた。おばさんの言葉を聞くと真っ直ぐスイカ似の野菜を指差す。
「こりゃ魂消た!こいつはうちで一番人気のものさね。この子に免じておまけしといてやるよ!」
「ありがとうございます!」
ネネは笑顔で銀貨を渡す。おばさんはネネから銀貨を受けとると、顔を寄せて忠告してきた。
「あんた良いとこの嬢ちゃんだろ?こんなとこでその子を連れ歩くと、善からぬ輩にちょっかいかけられるよ?」
おばさんは声を潜めるとさらに続けた。
「その子。カーバンクルだろ?あたしも初めて見るが噂通り綺麗な翠色の毛だね。それに大きな額の宝石も」
「おばさん、カーバンクルをご存知なんですか?」
「商売人にとっちゃ有名な話さね。あたしも欲しいくらいさ」
「む、トトはあげませんよ?」
おばさんは肩を竦めた後、ネネに念を押す。
「こんなおばさんでも知ってるくらいさ。用事が済んだらサッサと帰りな」
ネネは買った野菜を背負い袋に仕舞うと軽く頭を下げる。
「ありがとうございました」
「良いんだよ。またおいで」
「はい!」
おばさんの店を去ったネネは、本日のもうひとつの目的、武器屋に向かっていた。
『良い人だったね』
『ああ。それにしても、カーバンクルがこんなに有名なんて、思わなかったな』
『そうだね。私もビックリだよ~。カーバンクルはその、召喚師には人気ないから・・・』
『別にネネが気にすることじゃないだろ?ほら、武器屋に急ごうぜ』
ヨハンナに教えてもらった武器屋は、少々入り組んだ所にあった。途中、何度か手書きの地図を見ながら、漸く辿り着く。
「こんにちは~」
ネネは入り口に掛かっていた簾を抜けて、店内に声をかけた。薄暗い店内は埃っぽく、予想に反して一切商品が並んでいない。
奥の方から金属を打つ音が聞こえるから、無人ではない筈だが・・・
「あの~、武器を見せて欲しいんですけど!」
再度声をかけると漸く応えがある。
「なんだ?客かぁ~?おい、ちょっと見てこい」
「ハイハイ、今行きますから」
特に見るものもないため、大人しく番台らしき机の前で待っていると、筋骨逞しい妙齢の女性が現れた。
「ごめんなさいね。ちょっと声が聞こえなくて。どんな武器が欲しいのかしら?」
水泳選手を更に一回り大きくしたような女性は、見た目にそぐわない丁寧な所作で尋ねて来た。
『ネネ。欲しいのは鋲のようなものだ。投擲武器で小さいものが有ったら、見せてくれるように言ってくれ』
ネネは視線で頷くと店員の女性に投擲武器の中で小さいものを見せてくれるように頼む。
店員の女性は一度奥に引っ込むと、幾つか投擲武器を見繕って帰ってきた。
「もしかして、あなたがネネさんかしら?」
「えっ?あの、そうですけど・・・」
熱心に投擲武器をチェックするトトを横目に、ネネは戸惑いつつ返事した。
「ヨハンナの言った通りね!じゃぁ、この子がトトかな?わたしはラスベリー。気軽にラスって呼んでね」
「初めまして。ご存知のようですけど、私はネネ。この子はトトです」
「そう畏まらないで頂戴。あなたは確か刺突剣を使うのよね?しかも二刀流でしょ?投擲武器とは相性が悪そうだけど」
「あの、今日はトトの武器を買おうと思って」
「トトって、この子の?とても武器が扱えそうには見えないね。まだ爪とか部分鎧ならわかるけど」
ラスベリーはトトが投擲武器を構えて、投げつける姿を想像しようとしたが、全く思い浮かばなかった。
「トトにはものを動かす力があるんです。だから小さい投擲武器なら十分扱えます」
ラスベリーはネネの言葉に眉を上げた。
この子はどう見てもカーバンクルよね?カーバンクルにものを動かす力があるなんて、聞いたことが無いんだけど・・・
「ふぅん、ものを動かす力ね。こちらとしても折角作ったものが死蔵されるのは面白くないわ。それに、もしこの子が十分に使い熟せるとしても、使ってるとこを見ないと良いものは渡せないよ?」
『ネネ。この人の言う通りだ。良いものを手に入れるなら、ちゃんと力を見せた方が良い』
それまで黙って話を聞いていたトトがネネに念話を送る。
『わかった』
素知らぬ風を装いながら、投擲武器のチェックを続けるトトの背を撫でると、ネネはラスベリーに答えた。
「わかりました。トトが投擲武器を使うのを見せます。ただ、他言無用でお願いしますね」
本当に出来るって言うの?
ラスベリーはネネを裏庭に案内しながら、未だ半信半疑だった。
「見える?あそこに的があるわ。ここからだとざっと20メテル(30メートル)くらいね」
「あれに当てれば良いんですか?」
気負いなく答えるネネに、ラスベリーは驚いた。
本気なの?随分と余裕だけど、この距離で当てるなんて、達人でも無理なのよ?普通は10メテルくらいなのに。
ラスベリーは信じられない気持ちでいたが、トトに何か言い含めているネネを見て、静観することにした。
『どう?なんとかなりそう?』
『そこそこ距離があるから少し時間がかかるけど、当てるのは問題ない。適当に投げてくれ』
ネネはトトのGOサインを受け、手元にあった投擲用の短剣を5本投げる。
「え?」
声を上げたのはラスベリー。ネネが無造作に投げた短剣は、トトの近くに落ちていく。
どういうつもりなの?
ラスベリーが疑問に思ったところで、短剣の動きに変化が表れた。落下するかに見えた短剣は、トトの頭上で円を描くように回転を始め、十分に速度を得た瞬間、次々に的に向かって飛んでいく。
ドドドドド!!
短剣は当然の如く全て的に命中する。しかも刀身の半ばまで深々と突き立っており、十分過ぎる殺傷力を見せ付けていた。
「・・・・・・」
ラスベリーが唖然と黙り込んだため、沈黙が辺りを支配する。
「今のをこの子がやったって言うの?いえ、やったんでしょうね・・・」
ラスベリーは一瞬躊躇するも、思い切ってトトを抱き上げた。
どう見てもカーバンクル、それもまだ子供よね?
小首を傾げて大人しく抱かれているカーバンクルを見詰め、先程の光景を思い出す。
さっきは5本だったけど、まだ余裕がありそうだった。もし2、30本を正確に的に当てられるとすれば、戦いが様変わりするかもしれない。
次々に敵兵をなぎ倒すトトを想像して、ラスベリーのこめかみに汗が伝う。
「あの、ラスさん?これで売ってくれますか?トト用の投擲武器について相談したいんですけど・・・」
トトを見詰めたまま動かないラスベリーに、ネネがおずおずと問いかける。
「・・・ごめんなさい。ちょっと驚いてしまって。十分に使えるのはわかったわ。それでどんな使い方をするの?」
ネネの質問で我に返ったラスベリーは、大人しく抱かれているトトを見て気を取り直した。
それからはトトを交えて投擲武器の仕様を話し合った。その結果、用途毎に幾つかのバリエーションを作る事にして本日は帰る事にする。
「こんなものかしらね。それにしてもトトは信じられないくらい賢いわ。まさか鞘にあんな仕掛けをして欲しいなんて。人間でも中々思い付かないわよ」
『まあな!』
言葉はわからないが、パタパタと尻尾を振るトトを見て、ラスベリーにも笑みが溢れる。もうすっかりトトに馴れたようだった。
「それじゃラスさん、宜しくお願いします」
「ええ、旦那にもよ~く言っとくよ。出来上がりは大体2週間後ね」
「わかりました。その頃にまた来ます」
トトたちは手を振って別れを告げると、夕日に染まる街を急ぎ足で歩き出した。
『思ったより話し込んじゃったね』
『だな。でも良い買い物が出来た』
『そうだね!』
しかし、二人が気分よく歩けていたのもここまでだった。大通りに抜ける手前の角を曲がったところで、不意に数人の男たちが行く手を遮る。立ち止まったネネの背後にも、更に男たちが立ちはだかった。
「嬢ちゃん。随分と無用心じゃねぇか?護衛も付けずにそんなお宝を肩に乗せて歩き回るなんざ、拐ってくれと言ってるようなもんだ」
「違ぇねぇ。こいつもかなりの上玉だ!売っ払う前に皆で味見しようぜ」
下卑た笑い声を上げる男たちに、トトは飽きれた溜め息を吐く。
『まさか、ここに来てテンプレに当たるとは』
『テンプレって何?』
『気にすんな。良くあることって意味さ』
「てめぇ、俺の話聞いてんのか!」
「舐めてっと余計な傷が増えるぜ」
恐怖も焦りも見せないトトたちに、痺れを切らした男たちが短剣を取り出して凄む。
『ネネは後ろの連中を片付けてくれ。俺は前の奴等を片す』
『やり過ぎないでね?』
『おうよ』
トトたちは簡単に打ち合わせを済ますと、同時に駆け出した。
商品に傷つけまいとする男たちの手を掻い潜り、トトは差し出された手を悉く躱わして見せる。
グフフ、我に跪くがいいわ~!
黒い笑みを浮かべたトトは、翻弄され右往左往する男たちの隙を突き、股下を通り抜ける瞬間、股間めがけて尻尾を大きく振るった。
「はげっ!!」
「おぐっ!!」
「ぴゃ~!!!!」
トトが通り過ぎた後、男たちが次々に前屈みになって崩れ落ちていく。
「よせ!来るな!あぇ~!!」
『また、つまらぬ物をプチっちまった』
トトは最後の男にも容赦ない断罪を下すと、来た道を振り返った。
うぇ、自分でやっておいて何だけど、かなり来る光景だな
ぐにゅっとした感触の残る尻尾と、尻を突き出す奇妙なオブジェと化した男たちを見て、トトも青ざめる。
ま、まぁ自業自得ってやつだな。うん。
サッと目を逸らしたトトがネネに視線を向ける頃には、あっちも片付いていた。ネネも召喚師の端くれである。例え無手でもチンピラ如きに後れを取ることはない。
合流したネネが見たのは、死屍累々となった男たちの姿だった。
『トト~、やり過ぎないでって、言ったよね?』
完全に白目を剥いて痙攣している男たちの惨状に、流石のネネも眉を潜める。
『トトなら、もっと違うやり方も出来た筈でしょ?』
『スミマセン。調子に乗りすぎました・・・』
警備兵の詰所に行く道すがら、散々ネネに説教されたトトは、耳を伏せてしょげていた。
ネネは怒ると怖い・・・
身に染みたトトである。
だが、本日のトトの受難は、まだ終わっていない。
詰所で男たちの回収をお願いしたトトたちは、すっかり暗くなった頃、やっと学園にたどり着いた。
これで休めるぜ
そう思ったのもつかの間、門の前で仁王立ちし、こちらを睨むアティフェの姿があったのだった。
かなり長くなってしまいました。
幾つかエピソード削ったのになぁ
削ったエピソードはいずれ出すとして、今回トトくんの強化計画が発動されました。
そのうち、「いけ!ファン○ル!」とかやりたいですね~
でもファ○グの方が近いかも




