第17話 真の召喚契約
迷宮生活2日目午後――――――――議場
現在、議場にはリリア、グシオスさん、コッセルさん、僕の4名が居る。
そしてリリアの事を、ボーッと見ていた僕にリリアが顔を赤くして僕を睨みつけて来る。
「……なんだ?ツルギ、我に何か文句でもあるのか?」
あの後30分程してリリアだけが議場に戻って来たのだが……戻って来たリリアの姿は、メリジューヌさんに連れ去られる前の姿と打って変わって、とても可愛らしかった。
服装はいつものドレスではなく黒いゴスロリワンピース、髪はツインテールに結われツインテールの根元にはレースの赤いリボンを付けている。
しかもいつもは化粧なんて、ほとんどしていないのに今はきっちりメイクが施され、なんと口には紅まで引かれている。
正直見違えた。
いつものドレス姿も似合っているがこちらのゴスロリの様な姿の方がより、リリアに似合っている。
まるで、黒い妖精か何かの様だ。
「いや、とっても可愛らしいなっと思って」
「五月蝿い!これはメリーの趣味だ!我は基本的に、この様な格好は好まぬ」
僕の率直な意見にリリアが更に顔を赤くして怒声を上げる。
そして、彼女はとても気になると事を言ったな今。
「メリジューヌさんの趣味?どういうことだ?」
「アレは可愛らしい服装や髪型が好きなのだ!だがな、自分が似合わないと分っているから代わりに、我を着せ替え人形にする悪癖が有るのだ……」
なるほど、確かにリリアを引き摺る時のメリジューヌさんはとても上機嫌な声だった。
あの声の意味がこういう形になって現れた訳か。
改めてリリアを見つめる。(すっごい睨んでくるけど)そうして、思った事は、確かに長身で凛々しい顔立ちのメリジューヌさんにはその格好は似合わないかもしれないという事だった。
特にツインテールなんかはメリジューヌさんの年齢だと厳しいと思う。
まぁ、実際のメリジューヌさんの年齢は知らないけど、リリアくらいの背格好位でないと許されない格好ではあるな。
「でも、似合っているから良いじゃないか。メリジューヌさんもリリアの特色活かしてそんな格好をさせてるんだと思うよ」
「良くない!こんな歳になってから、この様な幼子のする髪型をさせられる我の気持ちにもなってみろ!」
「そう?僕は全然いけると思うけど?似合ってるよ。その髪形」
「それは汝の感性が何処かおかしいのだ!「あーもうっ!グシオス!さっさと残りの報告を済ませよ!」
リリアはこの話題を打ち切るために、グシオスさんに報告をする様に促した。
そしてリリアの命令でグシオスさんが、再び席から起立した。
その瞬間、議場の空気が真面目な物に変わってしまったので、僕はグシオスさんの報告に黙って耳を傾ける事に注力する。
「ハッでは報告をさせて頂きます。どちらからご報告しましょうか?」
「まずは、追激戦の結果から報告せよ」
「……誠に申し上げにくいのですが、冒険者を一名取り逃がしました。申し訳御座いません」
リリアはグシオスさんの謝罪をの言葉を聞いて機嫌の悪い表情から、心底意外そうな表情になった。
「ほう?汝から逃げれる者が居るとは……やはり、冒険者は規格外の者が多いな」
「はい。あの白い鎧の冒険者以外は討ち取れたのですが、どうにもあの白鎧には通常の攻撃は効かない様で……恐らく強力な物理保護が掛かっているものかと」
白い鎧か……AOの所属人数が100名を越えるギルドのマスターが、白い鎧の高レベルプレイヤーだった。
そう、確か『白騎士』と呼ばれていた筈だ。
まぁ、数多く存在するAOプレイヤーの中には白い鎧を付けているプレイヤーなんて幾らでも居ると思うのであまり気にしない方が良いのかもしれないが、もしあのギルドが相手だとすると相当まずい事になるな……迷宮化を急いだ方が良いだろうなこれは。
「汝の攻撃が通じなかったとなると相当に強力な物理保護であるな。許せ汝の魔剣の力を過信していた我の落ち度だ」
おぉ!グシオスさん魔剣なんて持っているのか後で見せてもらおう!
「いえ、姫様。これも俺達コボルト部隊が魔術をほとんど扱えないのが原因です。姫様に非はございません」
「しかし、種族特性として魔術適正が低いのはどうにもなるまい」
そう、コボルトは元が妖精の亜人なのに魔術がどうにも下手な種族らしく、グシオスさん曰く「妖精の血なんてほとんど残っていません。あれはもう唯の犬型獣人です。いや、むしろ犬です!」との事だ。
ちなみに、グシオスさんは混血故に魔術が扱えるらしいのだが、やはりあまり得意ではないらしい。
僕がそんな事を回想している内に二人の会話は進んでいて、リリアが解決策を検討している所だった。
「今回の事を踏まえると、やはり汝の部隊にも魔術師が必要であるな検討しておこう……他追撃戦での報告はあるか?」
「いえ、他にはございません。続けて偵察の報告させて頂いても?」
「うむ許す。申せ」
「遺跡周辺に変化がありませんでしたが、先日ここより1日ほど歩いた場所で10名程のエルフを見かけました」
「おぉ!それは恐らく我等への救援物資を運んでいる者達だ」
「なんと!そんな話が!知っていればこちらまで誘導したのですが、申し訳ありません」
そうかグシオスさんは前回の軍議に参加していなかったから、エルフ達の事は知らなかったもんな。
「汝は知らなかった事だ気にするな。して汝はエルフ達がいつごろ到着すると見る?」
「エルフ達が真っ直ぐこちらまで向かって来ていれば、明日か明後日には到着するものかと」
「そうか、ならば足の速い者を選抜して迎えに行かせよう」
「でしたらベアトリス殿の部隊に所属している半人半馬の者が宜しいかと思われます」
あぁ、リリアの前では流石に『野良猫』とは言わないのね。やはり、この人は人間が出来ているな。
ベアトリスなんか前の軍儀の時、グシオスさんの事を『犬野郎』って直球で言ってたもんな。
「珍しいな。いつもならば汝はベアトリス隊には任せて置けぬと、自らが向かうであろうに」
「あの半馬獣人の、まるで猛獣に追われているかの様な走りに魅せられてしまいしてな」
実際には猛獣に追われていなかっただろうけど、似た様な状況だった。……ごめんねケルス君。
「あぁ、今日の入り口前での戦いであるな?ベアトリスの隊の者より報告は受けておる。見事な大勝だったとか」
「えぇ作戦自体は揮官殿の功績ですが、その半馬獣人が伝令を神速で届けた功もあり、作戦が成功した事実もあります」
グシオスさんは、ケルス君の事をベタ褒めだ。
僕もあんな不本意な炊き付けをした甲斐が有ったというものだ。
「ふむなるほどな。では、その者をエルフ達への迎えとして出すとしよう」
「それが宜しいかと」
***
その後、グシオス隊の装備の疲弊状況の確認や隊員の状態の確認をしてグシオスさんの報告タイムは終りとなった。
この間にグシオス隊が僕の配下として加えられる事を、リリアからグシオスさんに正式通達されたが、グシオスさんは快く了承してくれた。
更にその後、僕は午前中の戦闘報告を終らせた。
そして、ついにリリアから例の相談を話すように促される。
リリアは僕に向かって強く威厳のある口調と眼差しで僕に語りかけてきた。
「では、そろそろ汝の言っていた相談とやら申してみよ」
「うん、僕の相談は此の遺跡の迷宮化計画についてだ」
僕はグシオスさんに習って席から起立して今日の相談内容を告げる。
「ん?あぁ、なんだその事か……前回の軍議で汝に我が命じた件だな」
一体僕が、何の相談をするつもりだと思っていたのかリリアは一瞬ホッとした表情をする。
「まだ草案なんだかけど、これが可能かリリアとコッセルさんで検討して欲しい。具体的には――」
僕は口頭で、1層の拡張工事と迷宮化をするという構想をリリア達に伝えた。
本当ならば紙か何かに完成予定の図面を描いておきたかったのだが、余り時間が取れなかったので今回は口頭での説明となる。
ちなみに、1層で採掘出来る予定のマナ結晶については黙っていた。欲に目が眩んでそんな事を言っていると思われては困るからだ。
僕の話を聞いたリリアは何か難しい顔している。
もう一人の相談相手のコッセルさんの表情は何も変わらない。
もっともコッセルさんはとても土竜に近い顔をしている。
僕は土竜の表情なんて判別できないので実際の所は渋い顔をしている可能性もあるのだが……
そうして僕の相談を聞き終えたリリアが険しい顔をしたまま口を開く。
「2層ではなく、1層を迷宮化する利点はなんだ?」
「冒険者が3層に到達するまでの距離を稼ぐのがまず一つ。次にこの遺跡を大軍相手にするのを想定した作りにしたいと考えている」
「なるほど。現状の2層のみの防衛では心下ないとは、我も思っていたが、これは1層ではないと駄目なのか?複雑な構造をしている2層に手を加えた方が良いのではないか?」
「それも、考えたけど2層は遊撃部隊に各個撃破させた方が良い構造だ。それに今の1層は2層へ移動するまでの距離が短過ぎる、これは一気に制圧されやすい構造と言って良い」
2層は細長い通路と小部屋が複数ある構造なのだが、大部屋と言える部屋は最終防衛線の部屋以外存在しない。
もし1層を大軍にそのまま抜けられて、大勢の兵に2層に降りてこられたら、あの防衛線の大部屋でしか迎撃できなくなってしまう。
ならばある程度、敵兵を1層に構築予定の複数の防衛線で足止めさせて、前回3層に進入してきた冒険者達の様に無理矢理抜けて来る者を2層で各個撃破した方が良いと僕は構想した。
「汝はこの前のように多くの冒険者が此処を攻めてくると予想をしている訳か?」
「うん、正確に言うと前回以上の大軍が攻めてくると思っている」
「ふむ……有り得る事ではあるな。コッセル汝はどう思う?」
「そうっすね。防衛云々は専門でないので分らないっすけど、図面と資材さえあれば自分等はなんでもやれるっすよ」
「コッセルさん、必要な資材というと何が必要になりますか?」
「とりあえずは木材が必要になりまっすね。後は長期的に見るなら採掘道具も必要になりまっすね」
確かに1層の洞窟エリアを掘り進むなら支柱にする木等も必要になるな。そちらはまだ何とかできる心当たりがある。
しかし、採掘道具となると別だ。
「採掘道具というと、スコップとかツルハシですか?」
「そうっすね。土を掘るくらいなら自分等の爪でなんとでもなりまっすが、岩となると難しいっす」
そう言ってコッセルさんは指より長い立派な黒い爪を見せる。
あの爪で恐らく土を掘るのだろう。
僕の世界の土竜も、手に対して大きな爪が有り。
その爪で土を掘って生活する生き物だった筈だったと記憶している。
「そうなるとやはり、そちらをなんとかしないと難しいですか?」
「いえ、各種道具は壊れかけてきてまっすが、まだ1.2ヶ月はなんとかなると思うんで作業自体はいつでも開始できまっすよ」
「1.2ヶ月ですか……では木材さえなんとかすれば作業には入れる訳ですね?」
「そうっすね」
採掘道具の調達プランが無い訳ではないが、それはリリアに頼んだ周辺地図が出来上がって来ないとなんとも言えない。
だが、木材さえあれば着工出来るのならば出来るだけ早く着工してしまいたい。
グシオスさんの言っていた白鎧の冒険者がもし『白騎士』本人ならば、次に『白騎士』がこの地へ訪れる時は、一緒にギルド本隊を引き連れてくる可能性が高い。
その場合は現状の防衛体制では魔族達は全滅してしまうのは間違いない。
それ故に迷宮化を急がなければいけないのだ。
「リリア、木材は入り口周辺の森から切り出す訳にはいかないか?」
外に森が有るのに木材が不足しているのは冒険者に発見されるのを恐れて、リリアが森からの木材切り出しを制限していると先日聞いていた。
ならば、今の状況でそれは意味の無い事だろう。
毎日の様に冒険者が襲来しているのだから……
「うーむ……もはや隠れ潜んでいるとは言えぬ状況ではあるからな……」
「頼むよリリア。このままだといずれ此の遺跡の防衛は限界が来るんだ」
リリアは僕の言葉を聞いて沈黙し、何かを思い悩んでいる。
「リリア、何か僕の考えに不備があるか?あるならば言ってくれ!僕もそんなに悩まれると自分の考えが正しいのか分らなくなってしまう」
「いや、1層迷宮化の話は承認しよう。ただし一度完成予定の図面とやらを作成して我とコッセルに提出せよ」
やっぱりそうだよね。図面を見てみないとこんな重要な事決められないよね。
分りきっていた事だ。でも、これで迷宮化計画の取っ掛りは出来た。後は僕の努力次第という事になる。
「OK。いつまで作れば良い?」
「別に期限は設けんがな、だが極力急げ。コッセル達も暇では無い。本格的にコッセル達を動かすならば予定も組みなおさなければならない」
「分った。じゃあ2,3日中に提出するよ。後、木材の切り出しは明日から始めちゃっていいか?」
木材はどちらにしてこの遺跡での生活に不可欠だ。もし、迷宮化が却下されても使い道は幾らでもある。
今後の事を考えると、明日からでも切り出してしまった方が良いだろう。
「良かろう。必要な木材の切り出し人足を手配しよう。ただしその者達の護衛は汝がグシオス隊を率いて行なうのだ」
グシオスさん達コボルトの嗅覚を使えば冒険者の接近前に木材切り出しの人達を遺跡内に逃がす事が出来る。
しかもグシオスさんの話だとコボルト達は洞窟内より、洞窟外の任務の方を好むようだからグシオス隊が適任と言って良い仕事だろう。
ガッカリ感は有るが流石は魔族の姫君、魔族の使い方を心得ている。
「うん、引き受けよう。グシオスさんも良いよね?」
「問題ありません」
グシオスさんはまた牙をニッと剥いて、コボルト特有の笑い顔を作る。
やはり洞窟内で作戦行動しているより、外での作戦行動の方が好きなのだろう。
「では、ツルギよ。近日中にコッセルと我に迷宮化計画の図面とやら作成し提出せよ」
「了解。コッセルさんも何かとご迷惑を掛ける事があると思いますが宜しくお願いします」
「ういっす。久しぶりのモグル族らしい仕事になりそうなんで楽しみっす」
そう言いながら、コッセルさんは指をニギニギと開いたり閉じたりしている。
やはり、土竜がベースの種族のようだし穴掘りとかが好きなのだろうか?
尚、表情に変化は無いのでもしかすると。表情に変化が無い種族なのかもしれない。
「では、細かい調整は明日以降に行なうとしよう。ツルギ後は何かあるか?」
「いや、無いよ。リリア時間を作ってくれてありがとう」
よし、これで後は僕の図面を見てリリアが何と言うか次第だな。
もし、承認されれば長期的な計画になる……僕も覚悟を決めなければいけないな……
「うむ、では本日はこれで解散とする。各自任務に戻るがよい」
「それではリリア様失礼いたします」
「自分も失礼させていただきまっす」
「じゃあ、僕も――」
「あー待て、ツルギは残れ」
リリアが解散宣言をしたので、各自挨拶をして部屋を退出しようとした所、僕だけ呼び止められた。
「ん?何?」
「少し、汝と二人で話したい事が有る」
「結構時間が掛かりそうな話かい?」
「うむ、今日の午後は我に付き合え」
ふむ、午後からグシオスさんと2層を見て回る予定だったのだが……まぁそちらは急ぎではない、明日に回しても良いだろう。
「分った。グシオスさん午後からの約束は明日にしましょう」
「了解です指揮官殿。しかし、そうなりますと午後からの俺の任務はどうしますか?」
「他のコボルト達も休んでいるんだからグシオスさんも休んじゃってください。良いよねリリア?」
「うむ、問題ない」
「了解しました。それでは自室で休んでおりますので何かありましたらお呼びください」
「うん、ご苦労様。また明日ー」
グシオスさんは僕とリリアに別れの言葉を言って部屋から今度こそ退出していった。
リリアはグシオスさんが部屋から出て行き、扉がしっかり閉じたのを確認してから僕に話しかけてきた。
「態々残ってもらってすまんな。グシオスと何かする予定だったのであろう?」
「ん、いや良いよ。別に急ぎの用事って訳でもない。で、話ってのは何?」
「今回汝だけに残ってもらったのは我からも相談事があってな……」
「なんだよ?もったいっぶって無いで話しなよ」
「……『コレ』の件についてだ」
そう言ってリリアは、僕の目の前に一枚のA4のコピー用紙を差し出す。
あれには見覚えがある。名無しの魔神が僕とリリアに送ってよこした召喚契約書だ。
ラルフ達に襲撃されたゴタゴタで行方不明になったと思っていたがそうか……リリアが持っていたのか、そうすると恐らくだが相談とやらのの内容は予想が付くな。
「リリアが持っていたんだね。『コレ』」
「メリーが帰還したときに階段部屋に落ちていたのを回収しておいてくれたのだ」
「なるほど。で、話っていうのはもしかするとコレに書いてある備考の事か?」
元々その話を聞くつもりで僕を残したのに、僕から話を持ち出されて驚いたのかリリアはビクッと小動物のように体を跳ねさせた。
備考には、契約を自由に破棄できるというものと、僕が元居た世界へ帰る方法が記載されている。
つまり、リリアは僕が仕事を放り出して帰ってしまわないか心配だったのだろう。
そしてリリアは僕に腹の内を当てられたのが気まずいのか、もしくはこの話題を出す事自体が気まずいのか僕から眼を逸らして言葉を無理矢理に紡ぎ出す。
「うむ……そのなんだ、あーその……汝はやはり元居た世界に帰りたいか?」
「そりゃあ……帰りたいさ……でもそれはまだ先の話だ」
実際の所彼女達を助けるにはもう冬休みの期間だけでは無理だというのは頭の中で理解はしている。
それに、この少女や気の良い魔族達を見捨てる気にはどうしてもならないし……これ以上AOプレイヤーの横暴を許す訳にもいかない。
「心配するな。此処での仕事はきっちりやってから帰る」
「汝は名無しの魔神に騙されるようにこの地へ召喚されたのだろう?それでもか?」
「騙されたとはいえ僕が引き受けた仕事だ、最低でも皆が絶対生き残れる道筋は付けて行くつもりだよ」
「何故、我等魔族に関係ない汝がそこまで肩入れする?」
「魔族の皆は僕に良くしてくれるからね……それに僕には此処で戦う理由が有るんだ。だけどその理由についてはまだ言えない」
まだ、AOの事をリリア達に告白する勇気が僕には無い。
情けない話だが、どうしても踏ん切りが付かない。
「何故言えぬ?」
「恐らく僕がこの理由を言ってしまえば僕達の協力関係は終ってしまう」
「ふむ……つまり汝は我に本当の目的を知られたくない訳か?それで信じろと?」
「いずれ必ずその理由については話す。今は僕を信じてくれないか?」
リリアは、その僕の言葉聞いて思い悩む様に腕を組んで眼を伏せる。
恐らく、僕を信用して良いものかどうか悩んでいるのだろう。
しばらく思い悩んだ末に彼女は意を決して、僕に一段と鋭い視線を向けて僕に再度問いかける。
「汝に再度問う。汝は此の地で何の為に戦う」
と、僕に先程と似た様な質問をしてきた。
恐らくこの質問に先程と同じ答えをしては駄目だ。この言葉にはリリアの強い意思が込められている。
僕もそれに習って同じくらい強い意思と決意を込めて返答をしなければならない。
ならば、僕は――
「僕は自分の贖罪と、魔族の皆の安然の為に此処で戦う!」
「贖罪か……汝が理由を言えぬ理由は、汝の『罪』故にか?」
「そうだ」
「その『罪』とやらの事を詳しく言うと我等の関係は終ってしまうというのだな?」
「うん、そうなる」
「ならば真実を告げれぬ代わりに誓えるか?我等が生き残る為に全力注げると」
「誓うよ。僕はリリア達が生き残る為に全力を出す」
「フンッ口だけならばなんとでも言える……ならばこの魔眼の前で同じことを申してみよ!」
そう言うとリリアの瞳が紫色に光る。
そして僕がその光に驚いて、リリアの瞳を見つめていると、リリアはニヤっと笑ってその眼光の正体を告げてくる。
「この魔眼は、契約した事を破れば即座に契約者の命を奪う呪いの魔眼だ。さぁツルギよ!この魔眼の前で誓うが良い」
「む、それはリリア達が助かる迄の契約でいいのか?」
「あぁ、我等の安全が確保された後は好きにするが良い」
リリアは僕を試すように高圧的な視線を向けてくる。
だが、僕の答えは既に決まっている。悩む必要なんて無い。
真実を知った時から腹は決まっている
「誓おう。リリア達が安全に生きれる環境を作るまで僕は此の仕事に全力を注ぐと」
「……!」
僕が強くそう告げると少し驚いたような反応をしてリリアは押し黙ってしまった。
何かやり方でも間違えてしまったのだろうか?
「ん?何か今の誓い方に問題が有ったか?もしかして、何か契約に必要な儀式みたいなものでもあったか?」
「いや、そんなものはない……そうか……その何だ、疑った事を許せ」
リリアが申し訳無さそうに謝罪をしてくると同時にスッとリリアの魔眼の光が消える。
「いや、謝る事じゃないよ。僕が同じ立場だったら同じ事をすると思う」
リリアは、僕のその言葉を聞いて「はぁ……」と深いため息をついた。
「…………正直我は今日の汝の相談事というのが、汝が契約破棄したいと言い出すと思っていたのだ」
「当初この遺跡に来た時は直ぐに帰してもらおうと思っていたから、あながち間違ってはいないな」
「であろうよ。汝は、我が無理矢理呼この様な戦地に呼び出したのだからな。契約を破棄して帰りたいと言い出したらどうしようかと思っていた」
「なるほどね。でも、安心しなよ。今の誓いで僕はリリア達を裏切れなくなった」
「……そう、であるな……こんな事でしか配下を従わせらるぬ様では上に立つ者としては失格なのだがな」
自虐的にリリアは微笑み、自分が魔眼を使って僕を従わせたのを心底悔いている様だ。
別に僕は、そんな物が無くても彼女達を助けるつもりだったのでまったく魔眼の事は気にしていないだが……
「魔眼で僕を従わせたのが気にいらないのなら、それとは別に何か誓いを立てようか?」
「ふむ。そうだなそれは良い。では汝の世界で誓いを立てる場合どうするのだ?」
「そうだね。うーん何がいいかな……そうだ!誓いのキスとかどう?アハハハ」
「なぬ!?汝の世界では誓いを立てる時にそんな事をするのか!?」
誓いと言っても普通の高校生の僕には結婚式の『誓いの口付け』暗いしか思いつかなかったのだ。
もちろん、本気でそんな事をするつもりは無く、なんとかこの陰気な雰囲気を吹き飛ばしたいという願い込めた冗談だ。
まぁ、別の意図もあるのだが……
「あーうん。簡単に思いつたのはそれかな」
「ぬ……いや……それは……」
僕の返答を聞いたリリアが、困惑した表情になり眼を泳がせて何かブツブツ言い出した。
僕の意図としてはちょっとセクハラ紛いのジョークを言って、リリアを怒らせてこの陰気な場の空気を吹き飛ばしてもらおうとしたのだが、逆効果になってしまった様だ。
「嫌ごめん実は――」
困らせるつもりは無かったので直ぐに発言を撤回しようとしたのだが遅かった。
「仕方あるまい!それが汝の世界の流儀ならば……今回は特別だ!我のやり方で汝に誓いを立てさせたのだから、今度は汝のやり方で誓いを立てさせてやる!」
リリアは僕を睨み付けた後、強く言葉を吐き捨て、綺麗な瞳ギュッと閉じた。
あれ?リリアさん?待って待って!ちょっとそれ、僕が予想していた反応と違いますよ!
「どうした?早くせよ!……よもや、我を謀ってこんな事をさせている訳ではあるまいな!」
どうするかなこれ……此処で「やっぱ、やーめた」とはもう言えない空気だ。
や、やるしかないか?
「えーと、ごめんちょっと色々と恥かしくて――」
「我だって恥かしい!早くせよ!」
そう言って、眼を瞑ったままこちらを急かして来る。
だが、そこで一つ良い事を思いついた。
この方法なら今後の展開も考えると悪い事にはならないし、伝統的な忠誠の誓い方だコレは。
「じゃあ、行くよリリア」
「ん、口付けを許す。早くせよ」
「僕はリリア達を守ると誓います」
あの詐欺魔神に騙されたからのではなく、自らの決意と意志を持ってリリア達を守ると誓い込めて口付けをする。
「ん――んん!?へ?」
眼を瞑ったままのリリアが怪訝な声をあげる。
僕がリリアの手を取って、手の甲にキスをしたからだ。
うん、お互いダメージを受けない良い方法を思いついて良かった。
本当に咄嗟に機転が利いて良かった、ちょっと口にキスはハードルが高すぎる。
「はい、これで誓いのキスは完了っと」
リリアは突然予想外の事をされたので、眼をキョトンと見開き僕を見つめてくる。
「え?これで終わり?」
「だよ?じゃあ、改めてこれから宜しくねリリア」
さて、これでもう後には引けない。
覚悟も決めた、決意もした、誓いも立てた。
後は僕が実績を立ててこの誓いが嘘の物ではないと、リリアに証明すればよい。
そして今日この時の誓いこそが、真の『召喚契約』となるだろう。
だが、そんな僕の決意を他所にリリアは顔を真っ赤なトマトの様に染めて激昂し始めた。
「な、な、な、何故、手に口付けすると最初から言わぬ!」
「え、いやだって僕が何か言う前にリリアが眼を閉じちゃったから!」
「こ、この痴れ者め!私を辱めて楽しかったか!」
リリアはその言葉と同時に半べそをかいて両腕で駄々っ子パンチをしてくる。
細い腕なのでそんなに力は無いと思っていたのだが本気で殴られると結構痛い。
「痛い痛いって!ごめん僕が悪かった」
「その痛みは我の怒りと知れ!この女の敵!」
結局その後、僕はリリアの怒り収まるまで殴られ続けた。




