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なんだかんだ言って煙草の煙を満足げに吸い込み、たっぷり間を置いてから吐き出すと、岩のように硬かった表情が幾分和らいだ。
「禁煙しようと決心した日に決まってお前がやって来る。まったく、つくづく招かざる客だよ」
「いやいや。ハハハ」
「で、今度の厄介事はなんだ?」
僕には眼もくれないところを見ると、子供が毛虫よりも嫌いなんだろう。僕の担任教師と同じ雰囲気を振りまいている。ちなみになんであいつが自分の性格を省みずに中学教師になろうと思ったのかは永遠の謎だ。
会話の輪から遠ざけられていた僕は、ホームレスが簡単に事情を説明する間、師匠が前にしている机の方を盗み見た。作りかけのボトルシップが置かれているが、ホームレスの現代的な船と違ってこちらはオーソドックスな帆船だ。
木造で統一された室内を見回すと、チェストの上に現実世界の入っているボトルが見えた。税金を真面目に払っていたのでは一生住めないんじゃないかっていうような邸宅だ。
上等そのものの背広といい、彼が庶民とはかけ離れた存在である事は間違いない。こんな趣味の悪い場所に引きこもってるって点でもね。
「ってなわけでして。最近どっかにヨットが漂着しませんでしたかね? あの潜望鏡なら、霧に邪魔されずに見えるし」
「ふん」
煙草をくわえたまま立ち上がると、師匠は背伸びして天井に両腕を伸ばした。そこからぶら下がっていた円筒形の物体の取っ手を掴んで引っ張ると、煙草を指に挟んで固定し、中を覗き込む。潜望鏡のようだ。
しばらく円筒を回転させて微調整していたが、ある時動きを止めた。
「西の方角だ。直進すれば三百メートル足らずだが、迂回するとなるとどのくらいになるやら」
「見てもいいですか」
「そいつに直接見せてやったらどうだ?」
微妙に「お前が顔をくっつけると臭くなる」というニュアンスを込めて師匠が言い、僕の方をこの時初めて見た。
ホームレスは頷き、潜望鏡を指さした。




