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10-1

「アテならあるさ。こっちだ」

 今にも抜けそうな腐った木の甲板を踏み鳴らし、彼は船尾楼の方へ向かった。そちらの方は腐食の洗礼が進んでおらず、比較的しっかりしている。

 入り口のドアの前にはランタンがかかっており、羽虫が群れていた。



「誰かいるの?」

「いるさ。俺の師匠がな」

 僕が更に聞く前に彼はドアを開けてしまった。中は両側に廊下が伸びており、再び点々とランタンが続いている。ホームレスは真正面にあるドアの前に立つと、僕に耳打ちした。

「ヘンクツだからな、面食らうなよ」

ノックをする。

「あー、師匠。いますか」

 すぐに返事があった。

「入れ」



 もう若くはない、神経質そうな男の声だった。

 ホームレスが扉を開けると、船長室と思わしきその部屋の奥の机で、一人の男が椅子にもたれかかっていた。肘掛けに両腕を置いて足を組み、椅子を回転させてこっちを見ている。

 ネクタイを緩ませた背広姿で、ぽつぽつと白髪の混ざった髪を真後ろに撫で付けている。やや目尻の垂れた、常に憂いというか不満を込めたような眼差しの持ち主だった。



 彼の姿から僕は何となくシャーロック・ホームズを連想した。理知的・冷徹・女嫌いって感じだ。

「不肖の弟子が何の用だ?」

「またまた、お人の悪い」

 あんまりな挨拶にもホームレスは慣れた様子だ。苦笑いして手を振った。

「ほら、持って来ましたよ」

 ポケットから取り出した未開封の煙草の箱を差し出すと、彼は鼻を鳴らしてそれを受け取った。それを受け取るのが人生最大の不幸だとでも言わんばかりだ。



「シケた煙草一つでご機嫌取りか。安く見られたな」

「シケってませんって」

 師匠がセロハンを剥いて封を切り、一本引き抜いて口に加えると、ホームレスがすかさず百円ライターを取り出して火を灯した。



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