10.サルガッソー
相変わらず僕の着地はカナブンよりもヘタクソで、甲板に真っ先に到達したのは顔面からだった。大した高さじゃなかったのは幸いだが、続いて胴体が腹ばいに落ちると、一瞬息が詰まった。
停止した呼吸が再開すると、真っ先に感じたのは淀んだ空気に含まれるカビの臭いだった。ホームレスのアジトも空気は悪かったが、ここはもっと多くの湿り気を含んでいて、風がやや冷たい。腐臭を放ちつつある古い野菜を詰め込んだ冷蔵庫の中の臭い、というのが的確な表現だろうか。
苦労しいしい体を起こす。もう十回以上は経験しているのに、どうしたって上手に中に入れないのは何故だろうな。
すぐに軽く甲板を踏む音がして、誰かが僕の隣に立った。
「大丈夫か?」
てっきり見送るだけだと思っていたホームレスだった。
「ついてきてくれるの?」
「入り口まではな。そっからは一人で行きな」
立ち上がると、周囲の風景が目に飛び込んできた。昼だか夜だかわからない薄明が差す霧の底の船上だ。木造の大型帆船で、もうどのくらいほったらかしなのだろう? あちこちが年月の浸食を受けて荒廃し切っている。
マストを見上げると、濡れた手で触ったトイレットペーパーのような帆が見えた。朽ち果てたボロ切れとなってぶら下がっている。
散乱している樽や木箱を避けながら縁に寄ると、ホームレスの名付けた船の墓場って名前が極めて的確である事がわかった。年代も形式もばらばらだが、すでに役目を終えて藻屑となりつつあるという点において共通点を持つ大小の船が身を寄せ合っていた。淀んだ鈍色の海の静かな波に合わせ、ゆらゆらと身を揺すっている。
その合間合間には、むせ返るほどの色濃い赤い霧が立ち込めている。血が蒸発して出来たような赤黒さは、間違いなくあの幽霊船の中で見たものと同じだ。
廃船は百や二百という数ではないだろう。僕が初めてディズニーランドに連れて来てもらった子供のように見えたんだろう、後ろでホームレスが笑って言った。
「すげえだろ」
「海里は? どうやって探すわけ」




