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僕はてっきりそこらのボトルの中に入り、航海さながらの方法で海里を探すのだと思っていた。しかし僕が壁際に視線をやっていると、ホームレスは首を振って声をかけた。
「その船から行くんじゃ手間がかかりすぎる。こっちだ」
彼は壁際に向かうと、右端から三番目のラックに向かい合った。その真ん中あたりにかかっているボトルシップを手に取り、僕の前に戻ってくる。
他とは違い、それだけは中の船が壊れていた。といっても乱暴にボトルを振り回して壊れたって感じじゃなくて、わざとボロボロに見えるように作られたジオラマだ。大型の木造帆船が静かに朽ち果ててゆく様子を信じがたいほどの繊細さと迫力で描いている。
リアルさに僕が眼を奪われていると、彼が言った。
「死にかけの船はみんな一カ所に集まって来る。途中で沈まなければの話だがな。サルガッソーって場所だ。まあ、俺がそう呼んでるだけで、正式名称かどうかは知らん。そのどこかに津田海里の船もあるかもな」
ボトルに手を伸ばしかけた時、ホームレスは付け加えた。
「もちろん、そこはあの幽霊だらけだぞ。それでも行くか?」
その瞬間、あの幽霊に触れられた時の事を思い出し、手を止めてしまった。背骨を冷え切った手で引っこ抜かれるような恐怖に貫かれる。
だが、僕はすぐに立ちすくんでしまった自分を恥じた。ここまで来て引き下がれるもんか。例えこのボトルの栓が地獄の片道切符でも、行くんだ。もうそれしかない。怖いのは確かだけど、ここで諦めて家に帰って、その先の人生に何の希望がある? この世界にはもう海里はいないのに。
「行く」
ホームレスは僕にボトルを託した。僕はコルク栓に手をかけると、今にも悲鳴と一緒に胸から飛び出してしまいそうな心臓の鼓動を抑え、力を込めた。
怖じ気が戻って来ないうちに、一息に引き抜く。すぐに体がバラバラに解かれ、そして―――




