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タオルケットを跳ね除けると、僕はシャワーを浴びて着替えた。母親の姿は見えない。買い物に行ったのか何なのか知らないが、とにかく好都合だ。今はそんな事に気を揉んでいられない。
兄貴の残していったハンバーガーはとっくにしなびていたけれど、それ以外に口に出来そうなものはなかった。ぬるいコーラで流し込み、壊れた船を買い物袋にそっと入れると、僕は家を出た。
とまあ自転車に飛び乗り、勇んで出たはいいものの、もちろんその日はゴミの日じゃなかった。いや、その時初めて気付いたんだよ、その事に。何てこった、どうやってあのおっさんを探せばいいんだ?
日中外に出ると、例によって視線恐怖症がひどい。夏休み中だから中学生がうろうろしていても必要以上に注目される事はないんだけど、それでも帽子を目深に被っていないと冷や汗が出て来る。まったく、夏の盛りだってのにね。
オーブントースターの中にいるみたいな暑さの中、僕は歩道橋の影に入って、ホームレスがいそうな場所を考えた。彼らがコロニーを築く場所と言えば決まっている。繁華街の高架や橋の下、地下街、後は公園か。
普段の無気力さが嘘のように、僕は執念深く思い付く限りの場所を探した。だけど彼らは皆同じような顔をしているし、僕はあのホームレスの名前も知らない。特徴を伝えて行方を教えてもらうのはほぼ不可能だった。
「兄ちゃん、さっきから何してんだい」
ある時、僕が自転車にまたがったまま高架下の集落を窺っていると、ベンチに座っているおっさんが声をかけてきた。僕の探しているホームレスよりもずっと小柄で髪の毛もなかったから、すぐに別人だとわかった。
彼は警戒しているというより、どこか面白がっているような雰囲気があった。あまりにも暇なので声をかけてみたって感じだ。
僕は物怖じしないよう、ありったけの勇気を振り絞って聞いてみた。
「人を探してるんだけど」
「あぁ。どんな奴だい?」
「背が高くて日に焼けて真っ黒で、いつも帽子被ってた。髭があって……黒くなった汚いシャツ着てて、えーと、あと自転車を漕いで空き缶を集めてたかな」
僕の説明を聞き終えると、そのおっさんはヒッヒッヒと笑った。
「それに当てはまる奴は百人は下らねえな」




