7-11
いやあ、今の今まであの時ほど怒った事はなかった。ちょっと抵抗されたらそれか? とたんに加害者から被害者に乗り換えて、泣いて見せるのか? 殴られるなんて何てかわいそうなわたしって?
ここまで話を聞いてくれた中には、もう僕には同情出来ないって席を立った人も多いだろう。わかるよ。
何があっても母親を殴るべきじゃなかった。あの時、僕がやらなきゃいけないのは……違う、ずっとしなくちゃいけなかったのは、反論する事だったんだ。「何でそんな事するんだ」って、「嫌だからそういう事はやめて」って、言い続けなきゃならなかった。
そりゃあ最初は僕だって、いちいちそう言ってたさ。いきなりブン殴るという結論を出したわけじゃないよ。だけどそのストレートフラッシュの役が揃うまでには、さんざんツーペアで抵抗していたんだ。
だけど、前にも言ったけど、向こうはそれを守る気を見せなかったんだ。僕の言う事なんか最初から何にも聞いてなかったし、ちょっと自分の非を責められると、必ず僕が学校に行かない事を持ち出して自分が優位に立とうとするような女だった。
この世には間違いを認められない奴というのがいるんだ。あるいは、最初から自分が間違っているなんて夢にも思わないのだろうか。
言い訳をさせてもらうなら、誰だってこんな女と生活してたら気が狂いそうになるって事さ。
だが、それでも、僕は言い続けるべきだった。「この人には何を言っても無駄だ」という無抵抗に甘んじてはいけなかったと思う。じゃあ他にどうすれば良かったんだって聞かれると、困るけれど……でも、暴力で解決するなんて、やっぱり良くないよ。理屈じゃなくてそれは良くない。
悲劇のお姫様を演じてすすり泣く母親を無視し、僕は土間に向かった。サンダルを突っかけて玄関を出ると、郵便受けの下にあった不燃ゴミの袋を引き破く。
瓶の破片、割れた花瓶、ガラスなどと一緒に、ヨットが見つかった。無理矢理袋に押し込まれたからか、メインマストが折れてしまっている。
更に袋を破いてゴミをばらまくと、奥の方から折れた帆の先っぽが出てきた。ゴミはそのままにし、ヨットとその一部だったものを抱え、部屋に戻った。
居間の方は一度も振り返らなかった。
さあ、今の感情をどう現すべきかな……まあ、後ろめたさなんか微塵もないって思い込もうとしていたのは事実だ。あの女にとって、あれは当然の結末だとも。




