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だが、そうでもなかった。
やれやれ、とうとうここまで来てしまったな。この話を始めた時は永久にたどり着かないと思っていたけれど、とうとうこの話をしなくちゃいけないか……おっと、溜め息が多くなってるかな。申し訳ない。
気が重いよ。この話題は楽しくない。今思い出しても、それだけであの瞬間が白昼夢のようによみがえるんだ。恐ろしいほどのリアリティと共にね。
ジム・トンプスンいわく、作家連中は自分の仕事をまともにしていないそうだ。物語が佳境になると主人公が何をしているかもわからなくなり、夢が星のない海に沈んでゆくなどと言う戯言を並べ始める。
最初に決心した通り、僕はあった事はすべて話すつもりでいる。もし一部なかったとしたら、それは語るまでもなかった些末な事だから気にしないでくれ。どうせネットゲームのレアアイテムがどうしてもドロップせず気が狂いそうになったとか、そんな話だしね。
とにかく僕は家に帰った。経緯はよく覚えていないが、ちゃんと帰れたんだからきっちり来た道を戻ったんだろう。魂の闇夜が訪れていた奴にしちゃ上出来だ。
もうとっくに両親は起き出し、父親は会社に行って、母親はテレビかパソコンでもやってる時間帯だったけれど、構わなかった。
僕は海里に会いたかった。変な話だけど、彼女が遠い存在に感じながら、それでもどうしても彼女に会いたかった。
秘密や苦しみや嘘を内側に閉じ込めておくのにもう耐えられないんだ。いっそ彼女に全部ぶちまけてみるか? 少しは楽になるだろうけれど……でも、彼女はどんな反応をするだろう。僕を疎ましく感じ始めるかも知れない。放っておいて欲しいって態度だったし。
家に入った。居間に人の気配がし、玄関が開く音に誰かが反応する気配がした。母親だろう。
構わずに階段を上がり、部屋の扉を閉じる。まだ決心はついていなかったけれど、とにかくボトルに触れたかった。
部屋の違和感を感じ取った瞬間、胃の中がこれまでになくざわざわした。猛烈な不快感が込み上げ、体を内側からちくちく刺激する。
部屋が片付けられている。畳は掃き清められ、出しっぱなしの本はすべて本棚に突っ込まれていた。各巻の並びはバラバラだ。
とにかく、出しっぱなしのすべてがどこかしらに詰め込まれていた。
いや、そんな事はどうでもいい。ボトルがどこにもない!




