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「後は兄ちゃん次第だぜ」
僕が受け取ったレシートを見下ろしていると、彼が軽く肩を叩くのが感じられた。
「正直感心したぜ、兄ちゃんがここまでやる気のある奴だったとはな。ボトルをやった甲斐があるってもんだ」
「あのボトルシップはどこから持ってきたの?」
最後の疑問をぶつける頃にはもう、彼は自転車にまたがっていた。後ろ手に手を振り、答える。
「次の機会に教えてやるよ。じゃあな」
一人取り残された僕は、もう一度レシートを見た。
とうとうこの時がやって来たんだ。本心では恐れ、出来れば永久に来なくてもいいと思っていた、現実と相対する時が。
急いで家に帰り、部屋に籠もってパソコンを起動する。ネットに繋いでルート検索サービスを利用し、レシートの病院を打ち込んだ。
わずかな時間、読み込みが行われ、すぐに画面の地図上に黄色い線で最短距離が表示される。想像以上に遠い。自転車で行ける距離じゃないし、面会時間というのは昼間だけだろう。いや、そもそも赤の他人である僕が面会出来るのだろうか?
本当はわかってる。理由を並べ立てて、行きたくないって事を正当化したいんだ。このまま何もせずに過ごし、ただ周囲の流れに任せようと……お決まりの無抵抗、無反応、無気力。
地図を印刷してからパソコンの電源を落とし、布団の上で仰向けになると、両手の指を腹の上で組んだ。目を閉じた僕は、自分の本音を探ろうとした。頭の中ではなく、胸の中をだ。いつだって本当の答えはハートに隠されている。
答えか。考えるまでもないよ。僕は恐れている。死ぬほど恐れている。海里に、本当の僕自身の姿を知られてしまう事を。
学校に行く事も出来ず、友達もおらず、藁の犬のように無力な僕。彼女に軽蔑されたらどうすればいい? もし実際にボトルの外で出会った時、僕の姿を人目見た彼女が「ゲッ」ていう顔をしたら僕はその時、一体どうすればいいんだ?
今の海里との関係は結構良好じゃないか。彼女は僕のただ一人の友達と言ってもいい。ならもう、このままにしておくべきじゃないか。下手に突っつき回して、それでどうする? 海里だってそんな事はきっと望んでない。




