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僕が言われた通りにすると手でページをめくり、近所の病院の番号を指でなぞった。そちらを見ながらボタンをプッシュする。
数度咳払いして喉の調子を整える彼のあまりの考えの浅さに、僕は思わず言った。
「教えてくれるわけない」
確か守秘義務とか言うのがあった筈だ。だがホームレスは人差し指を口の前に立てて「しっ」という仕草をした。
やがて呼び出し音が途切れ、向こうで上品な女性の声が病院の名を告げた。
「あー、こちら市警察署の畑と言います。そちらに植物状態の患者が運び込まれていませんか? えー女性、年齢は十代半ば。名前は津田海里。ええ、いきさつにやや不審な点があり、犯罪に巻き込まれた可能性が……ええ、お願いします」
何とまあ、芸達者なおっさんだ。あの事務的な感じ、奥に隠した傲慢さと言い、映画の刑事の喋り方そっくりだよ。僕が目を皿のように開いて驚いていると、向こうでまた声がした。
「そうですか、ご協力ありがとうございました。ではまた。ああ、そうそう」
フックを手で押しかけて、彼は付け加えた。
「そうそう、ネットカフェのループループ大曽根店って知っていますか。あそこには行かない方がいいですよ、ええ。ジュースサーバの中にネズミの死体が浮いてましたから」
彼なりの報復というわけだ。それが済むと電話を切り、もう一度手を差し出した。
「次だ。十円」
百二十円のうちの六十円(一度コンビニに入って崩した)を使うと、とうとう当たりにぶつかったようだった。彼の声のトーンが変わる。
「そうです、ループループ大曽根店から……ネズミの死体がジュースサーバの中に浮いてたという噂のあそこです……はい、はい!」
ポケットからペンを取り出すと、彼は周囲を見回した。やがてゴミ箱の方に視線が行くと、受話器のコードを引っ張ってそちらに向かい、中に手を突っ込んだ。
しばらくゴソゴソやると、潮干狩りの要領で獲物を引っかき出した。一枚のレシートだ。口にくわえていたペンを手に取り、そこに何事か走り書きをする。
「ご協力感謝します。近いうちにうかがいますので。では」
受話器をフックに戻すと、彼はレシートを僕に差し出した。見た目通りの悪筆で、港区にある総合病院の名が記されていた。




