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「えっと、だって、あれ。海里はボトルの中にいたんだよ?」
「説明するのが難しいんだが」
ホームレスは帽子を取って頭をボリボリ掻いた。白いフケが飛び散る。
「幽体離脱みたいなもんで、中身と言うか……魂だけがボトルの中に入るんだよ。肉体は外に残されてんだ」
驚いたのは幽体離脱だとかって言う現象じゃない。もうそんなの、今更驚く事じゃない。僕にとって衝撃だったのは、あの経験が全部、肉体を通さずにリアルに感じらていれたって事だ。
「海里は今どこにいるの? どうなってるの?」
「さあな。どっかに入院してるんじゃねえか? 本体は仮死状態だろうしな」
「どこの病院?」
「俺が知るかよ。店員に……」
そこまで言いかけて彼は首を振った。
「聞いても、まあ、知らんだろうな」
絶望的だ。後は海里自身に聞くしかないが、彼女が教えてくれるだろうか? 何となく、それはないという気がした。
海里は現実に帰りたくなかったんだ。この世のあらゆる希望を見失っていた。だから肉体をほったらかしたままずっとボトルの中にいて、それで救急車を呼ばれたんだ。
僕が世界の底に真っ逆さま、っていうような絶望的な顔をしていたのだろう、ホームレスはばつが悪そうな顔でまたもや頭を掻きむしった。
「俺はあのガキがボトルの中にいる事を知らなかったんだ。栄養失調かなんかでぶっ倒れたんだと思ってた。兄ちゃんに聞くまでな。確認しなかったのは俺が悪い。だから、まあ、ちょっとだけ助けてやるよ」
僕が表情を明るくすると、彼は笑顔を返した。手を差し出す。
「十円玉、持ってるか?」
「えっ? ああ、うん」
「貸してくれ」
彼は僕のジュース代の一部を受け取ると、また自転車を漕ぎ始めた。コンビニまでやって来ると、近頃めっきり見なくなった公衆電話の前に立つ。
付属の電話帳を持ち上げると、僕を手招きした。
「ちょっと支えててくれ」




