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6-5

「えっと、だって、あれ。海里はボトルの中にいたんだよ?」

「説明するのが難しいんだが」

 ホームレスは帽子を取って頭をボリボリ掻いた。白いフケが飛び散る。

「幽体離脱みたいなもんで、中身と言うか……魂だけがボトルの中に入るんだよ。肉体は外に残されてんだ」



 驚いたのは幽体離脱だとかって言う現象じゃない。もうそんなの、今更驚く事じゃない。僕にとって衝撃だったのは、あの経験が全部、肉体を通さずにリアルに感じらていれたって事だ。

「海里は今どこにいるの? どうなってるの?」

「さあな。どっかに入院してるんじゃねえか? 本体は仮死状態だろうしな」

「どこの病院?」

「俺が知るかよ。店員に……」

 そこまで言いかけて彼は首を振った。

「聞いても、まあ、知らんだろうな」



 絶望的だ。後は海里自身に聞くしかないが、彼女が教えてくれるだろうか? 何となく、それはないという気がした。

 海里は現実に帰りたくなかったんだ。この世のあらゆる希望を見失っていた。だから肉体をほったらかしたままずっとボトルの中にいて、それで救急車を呼ばれたんだ。

 僕が世界の底に真っ逆さま、っていうような絶望的な顔をしていたのだろう、ホームレスはばつが悪そうな顔でまたもや頭を掻きむしった。



「俺はあのガキがボトルの中にいる事を知らなかったんだ。栄養失調かなんかでぶっ倒れたんだと思ってた。兄ちゃんに聞くまでな。確認しなかったのは俺が悪い。だから、まあ、ちょっとだけ助けてやるよ」

 僕が表情を明るくすると、彼は笑顔を返した。手を差し出す。

「十円玉、持ってるか?」

「えっ? ああ、うん」

「貸してくれ」



 彼は僕のジュース代の一部を受け取ると、また自転車を漕ぎ始めた。コンビニまでやって来ると、近頃めっきり見なくなった公衆電話の前に立つ。

 付属の電話帳を持ち上げると、僕を手招きした。

「ちょっと支えててくれ」



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