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「今もここにいるの?」
「いや。まあ、とにかく移動しようや。また通報されっと困る」
ポスターの隙間から店員がこっちを見ている事に気付いた。また、って事は以前もされたんだろう。
角を曲がって路地に入り、店の裏手に出ると、ホームレスは気分の悪そうな顔で吐き捨てた。
「見たかよ、あの野郎。無気力選手権で堂々一位ってツラしながら、俺にゃあ威張る権利があると思ってやがる。×××ん時にも××なきゃ××ねえような××がよ」
あまりにも下品な言葉の羅列なのでこの辺は伏せておこう。君が真似したらお母さんが卒倒しちゃうからね。
「その……××が、前にあんたを通報したの?」
「ああ、したとも。あのガキが救急車で運ばれた時だ」
体の中がざわっとした。
「救急車? 海里が?」
「最初から話すぜ。ここにはよく雑誌を拾いに来るんだ。先週とかのでも百円か五十円くらいだと結構売れるんだよ。いや、気付かれるまではいい場所だった。ホームレス対策をしてなかったからな。それが……ああくそ、あの××がよ」
彼を何となく好きになった理由がわかった。悪い大人の見本だからだ。自称良い大人なんか、つまんない奴ばっかりさ。いや、別に働いてない人が偉いってんじゃないよ。だけど僕は、頭のどこかで常識なんかクソ食らえって思ってる人が好きなんだ。
「で、ガキの事だがな。ある日、あの女が道ばたをウロウロしてた。で、ボトルシップを買わねえかと持ちかけたわけよ。この辺は説明するまでもねえか……それから一ヶ月も後だったか、ここに来たら救急車が止まってた。ほら、あそこだ。あの店の真ん前」
そう言って彼は表通りを指さした。
「あのガキが運び込まれるのが見えた」
「死ん……死んでないよね?」
「兄ちゃんがボトルん中で会ったんだから、生きてたんだろ。その翌日だったか翌々日だったか、この店のゴミ箱漁ってたら、俺があのガキにやったボトルシップが見つかった。多分、ブースん中に残ってるのを見た店員が捨てたんだろ。ったくよ、ネコババするならともかく捨てるとは! ハートが死んでると思わねえか」
まったく同感だが、その時の僕には聞こえなかった。




