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ややってから、彼女は答えた。
「なくしちゃった」
「捨てたの?」
「ううん。ある日気がついたら、中身がなくなってて、空っぽになってたの。あのボトル」
海里は何らかの感情を隠しているように感じた。僕が彼女に母親の事を気取られまいとしているように。それが父親の事なのか、ボトルの事なのか、あるいはもっと別の事なのかはわからない。
「で、更に時間が過ぎて、ある日あんたが来たってわけ。最初はそりゃあびっくりしたわー、まさか幽霊でない人間と会うなんてね」
「僕と海里は同じボトルシップを持ってたって事だよね。えーと、僕のボトルは前に海里が持ってたお下がりって事か。ホームレスは……」
「まあね、ちょっとね」
その言葉に再び拒絶を感じ、僕は口を閉ざした。
「ところで、外の世界は最近どうなってんの? 音楽とかは?」
「いやあ、そういうのは。音楽聴かないから」
「本は読む方?」
「少し」
「んじゃ、次来る時に、何か持ってきてよ。どんな本が好き?」
その後は他愛もない会話を楽しんだ。お互いの間で共通点を探し、一つ見つける度に僕らは笑い合った。
この時間は今でも大事な思い出だ。本当に楽しいお喋りだった。でもその間、僕の中ではずっとある事が引っかかっていた。
現実の、つまりボトルの外の海里は消えてなくなってしまったわけじゃないか。誰かが探したり、警察に行ったりしていないのだろうか?
来週、もう一度ホームレスに会いに行かなきゃ。あのじいさんは、必ず何かを知っている。




