5-4
僕は吸い寄せられるようにして海里のところへ歩いて行った。その白い肩とうなじ越に、彼女が一心に見つめているものに目をやる。
それはボトルだった。中には風化し、今にも崩れ去ろうとしている建物の影が見える。僕の家よりやや大きい住宅だ。嵐を受けて倒壊したって感じじゃなくて、溶けてなくなりそうになっていると言った方がいい。雨に晒された砂糖細工のようだ。
海里の顔を盗み見たが、表情は窺えない。彼女の中に何人もいる海里のうちの、滅多に外に出ない一人が今、表面に現れていた。僕の初めて見る海里が。
「もうすぐ消えちゃうね」
彼女は視線を動かさず、独り言のように言った。
「この船も持ち主もね。この人、もう帰る場所がないから。船は持ち主の絶望に引っ張られるの。だからもう、後は沈むだけ」
「何だって?」
「何でもない」
首を振ると、海里は夢から覚めたように僕を見た。その時にはもう、いつもの海里に戻っていた。
「内藤くんじゃない。何してるの?」
「何って、探しに来たんじゃないか」
「あたしを?」
「そうだよ」
呆気に取られて僕が答えると、彼女はちょっとだけ嬉しそうな笑みを見せた。期待してたように抱き付いて頬にキスしてはくれなかったけれど、僕をドキドキさせるのにはそれだけで十分だったのさ。
彼女は両手を揃えて真上に掲げると、背中を反らして伸びをした。
「そりゃどうも。それじゃ、帰ろっか」
僕らは連れ立って部屋を出た。この世界一陰気なデートスポットを後にして、早いとこヨットに戻りたい。
船内から甲板に抜ける道すがら、二人で並んで通路を歩いていると、ふと海里が口にした。
「ここに来る途中で、幽霊を見た?」
僕が「何のことかわからない」と「幽霊なんかいるわけない」の両方の意味が入り交じった曖昧な表情で応じると、彼女は真顔で続けた。
「この船の持ち主がどっかにいる筈なんだけど」




