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思わず、もう一度聞き返す。
「だって、あんたがくれたボトルの中には人がいたよ。最初から」
ホームレスは赤銅色の手を止めた。しばらく訝るような視線でこちらを見、それから言った。
「それって女か?」
「うん」
「何てこった」
いったんは休めた手を再び動かし、袋の口を手早く縛り直しながら、彼は溜め息のように囁いた。
「あのガキ、生きてたのか」
僕は自分の胸に暗い雲みたいなものがもくもく広がってゆくのを感じた。暗黒を吐き出すバルサンが焚かれたのだ。その中でもがくゴキブリのように心臓が苦しくなり、問い返さずにいられない。
「生きてたって?」
「そういう事なら交換してやる。来週のこの時間にここで待ってな」
「待ってよ、あのボトルは何なの? あんたは一体誰なんだ?」
「まあ、少なくともライブドアの社長じゃないな。パソコン持ってねえし」
噴出する疑問に焦れてはいたが、僕はこのおっさんの事がなんだか好きになりつつあった。このやりとり一つを取って見ても、変な人だろ? こんな面白い事言う人、見たことないよ。
「交換はしなくていいよ。あの子の事と、それからボトルが何なのか教えてよ」
「兄ちゃんがそう言うならいいけどよ。あー、そうだな……」
彼はちらりと空を見た。腕時計をしている様子はなかったから、空の色合いで時間を判断しているのだろう。
「今は勘弁してくれ。急がないと他の連中に缶を持ってかれちまう」
「ちょっとでいいんだ、お願いだよ!」
「わりいが生活がかかってるんだ。来週のこの時間にここに来いよ、そしたら話してやる」
身を翻し、戦利品を自転車に積み込むと、ホームレスはサドルに飛び乗った。再びサビたペダルが回転する、単調な軋む音を響かせ、ほのかな異臭を残して彼は去った。
僕はその後ろ姿を呆然と見送るしかなかった……と、普段ならそうなるところだろうが、どういうわけだかこの日に限って体の奥底深くで昏睡していたガッツが飛び起きたらしい。
僕はどうしてもボトルの、海里の事が知りたかった。そして自分でも信じられない事に、次の瞬間、走り出したのだ。




