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すでに盛夏を迎え、夜明けは日に日に早くなっている。もう数時間もしたらうだるような熱気が満ちるだろう。出来ればその前に目的を果たして帰りたいんだけど……
僕は海里の事を考えた。彼女は僕にとっていまだ幽霊のような存在だ。存在の背景となるものを何一つ知らない。どこに住んでいて、どこの学校に通っているのだろう? どういう成り行きであのボトルを手に入れたのだろう……僕と同じ方法であの世界に入ったとして、だけど。
ギーコギーコという、油の切れたような軋轢の音が僕の空想を断ち切った。風の音すらない夜明けの町に響き渡っている。
縁石から立ち上がって目を凝らすと、朝焼けの中に古びた自転車が見えた。空き缶を詰め込んだビニール袋を限界以上に搭載しているが、漕ぎ手は慣れた手つきでバランスを取っている。まるで中国雑技団だ。
僕は軽蔑の入り混じった好奇の視線を絡めているように思われないように、しかし薄汚れた帽子の下の顔を見逃さないよう、注意深く観察した。ホームレスの顔を見分けるのは難しい。映画の黒人がみんな同じ顔に見えるようなものだ。
野球帽を目深に被った髭面の男で、見た目寄りはずっと若いのだろう。僕のひいじいちゃんがガダルカナルにいた時代から一度も洗っていないのではないかというくらい真っ黒なシャツとGパンを着ている。
このまま通り過ぎて行ってしまったら困るが、声をかける勇気もない。僕が焦り初めていると、向こうがこっちに気付いた。
「よう、いつかの兄ちゃんじゃねえか」
「あ、どうも」
前と同じく歯を見せて笑いながら、彼は作業を始めた。袋を開けて缶を回収し、それが住むときっちり元通り縛って次に移る。
手と口を別々に動かし、彼は言った。
「ボトルシップはどうだ? 気に入ったか?」
「うん」
「そりゃあ何より。二つ目が欲しいってんで俺を待ってたんなら無駄だぜ」
そんなつもりは毛頭なかったが、僕は思わず聞き返した。
「何で?」
「一人一個で十分だろ」
「え?」




